プロデューサー・富山省吾が語るゴジラと「平成・VSシリーズ」の世界2024/10/29
BS松竹東急では、「ゴジラ」シリーズ誕生70年を記念し、「平成・VSシリーズ」を11月4~9日の6夜連続で放送。これを記念し、特撮映画の金字塔である「ゴジラ」のさまざまな作品の中で1989年に公開された「ゴジラVSビオランテ」以降の12本の「ゴジラ」シリーズの企画・制作を手掛けたプロデューサーの富山省吾さんに密着! 富山さんには、制作に関わった当時の時代背景や作品への思い、特撮シーンを担当した川北紘一特撮監督とのエピソードなど、ここでしか聞けない話をたくさん伺いました。
――「ゴジラ」シリーズにプロデューサーとして活躍されましたが、制作に関わることになった時は、いかがでしたか。
「『ゴジラ』は、54年に制作され、900万人を超える日本人が見た映画です。『ゴジラ』は制作担当の田中友幸さん、本多猪四郎監督、特技監督の円谷英二さん、音楽を担当した伊福部昭さんの4人が生みの親。そしてそんな田中さんたちを結び付けて作品制作にゴーサインを出した森岩雄さん(当時の東宝制作本部長)こそがゴッドファーザー的存在です。僕が子どもの頃からスクリーン上の大文字で見てきた“田中友幸”のアシスタントとしていろいろ学びましたが、『ゴジラは怖いけどかわいい』という、この二律背反こそがゴジラの魅力、そして魔力だという教えが特に印象的でした。これを座右の銘として、『ゴジラVSデストロイア』(95年)まで6本の『平成・VSシリーズ』でプロデューサーを務めました」
――「平成・VSシリーズ」は初期の「ゴジラ」をほうふつさせるという話をよく聞きます。
「おっしゃる通り『平成・VSシリーズ』は、田中さんらの4人の生みの親の遺伝子を受け継いで作られているので、初期作品の特徴が『平成・VSシリーズ』にも出ているのですね。例えば“ゴジラと核の因果性”でしょうか。前作から9年ぶりに制作された『ゴジラ』(84年)では、ゴジラが原子力発電所を襲い、放射能エネルギーを吸収したことによって、ゴジラと核との結び付きが確固たるものとして表現されました。その後『ゴジラVSデストロイア』(95年)でのメルトダウンによるゴジラの死へと導かれます。後はデジタルの黎明(れいめい)期に開花した、歌舞伎のようなけれん味たっぷりの光線や光粒子、金粉を駆使した川北特撮監督によるアナログとデジタルを融合させた視覚効果です。円谷特技監督が特撮を発展させた50年代の撮影所では、特撮映画はドラマを撮影する“本編班”と“特撮班”二つの組がそれぞれ撮影をして、1本の映画に仕上げる2班体制で作られていました。そのシステムを受け継いで、本シリーズも本編・特撮2班に分かれて撮影、仕上げをしていましたが、この後には一人の監督の下での複数ユニットによる制作システムに変わって行きます。このことも本シリーズがのちに向けて与えた変化、影響と言えるのでしょう」
――富山さんが初めて制作に参加された「ゴジラVSビオランテ」から、シリーズ最終編の「ゴジラVSデストロイア」が一挙放送されます。各作品について詳しくお聞かせください。
「『ゴジラVSビオランテ』は、公募ストーリーから選ばれた小林晋一郎さんの原案をもとに、3年余の準備期間を掛けてできた作品です。田中プロデューサーの“スタッフを一新して、これまでと違うゴジラ映画を作る”という思いが実ったものとして、時とともに評価が上がっているのですね。当時、自衛隊の全面協力で撮影をしたのですが、デジタル視覚効果の走りなど見どころも多く、伊福部さんが手掛けた『ゴジラのテーマ』と、すぎやまこういちさんによる音楽の融合はぜひ聞いてほしいです」
――シリーズ2作目「ゴジラVSキングギドラ」(91年)は建設されたばかりの東京都庁周辺を舞台にゴジラとキングギドラが戦うことで、当時話題になったと聞きました。
「そうですね。ゴジラの対戦相手に最強のキングギドラを迎えて『平成・VSシリーズ』の人気が定着したのが本作です。キングギドラを、宇宙怪獣から未来人が生み出した怪獣に設定を変更し、さらには戦うヒロイン、中川安奈さん扮(ふん)するエミー・カノーが操縦するメカ怪獣へと変身させてゴジラとの最強決定バトルを展開したのです! 大森一樹監督のスピーディーな演出と川北特撮監督の力業が、東京都庁大破壊と相まってファンを熱狂させました。トップシーンの空飛ぶ円盤に始まり、コジラ誕生秘話や人工知能アンドロイドの活躍などSF色に加えて、人気外国人タレントの熱演も楽しい作品です」
――そんな中、シリーズ3作目の「ゴジラVSモスラ」(92年)は「平成・VSシリーズ」で最大動員数を記録しましたね。
「『ゴジラVSモスラ』から、監督が大河原孝夫さんにバトンタッチされました。自然と女性の象徴である巨大蛾(ガ)・モスラ。新怪獣バトラも登場しての三つどもえの戦いが、高層ビルの夜景が美しい横浜みなとみらいで繰り広げられ、実写・特撮・アニメが融合した川北さんのけれん味が開花した空中バトルと熱線ショーは名場面で、今でも鮮明に覚えています。また、モスラの歌とその自己犠牲のメッセージも強く、子どものファンの心を捉え、小林聡美さんやモスラファンの田中好子さんなど女性キャストも輝いた作品です。おっしゃる通り、ゴジラとモスラといった二大スター怪獣共演によって『平成・VSシリーズ』最高観客動員を記録したのですが、この話を聞いた時はうれしかったですね」
――93年公開の「ゴジラVSメカゴジラ」(93年)はいかがですか?
「伊福部さんの新曲である冒頭のメインタイトル曲は、ファンから“度肝を抜かれた”と言われていて。脚本を担当した三村渉さんは、ベビーゴジラを作品に登場させて、怪獣の生命の絆をうたい、メカゴジラ=人間社会との対比を描いています。ラドンまでもが登場したのは、ハリウッドゴジラに向けてシリーズ終了が予定されていたためで、対ゴジラ組織Gフォースなどフィクション色が増し、戦いに参加する三枝未希(小高恵美)の苦悩が深まります。特撮では、ゴジラが初めて京都に出現しますし、何よりもラストのゴジラとベビーゴジラの見つめ合いが圧巻で、情愛あふれるゴジラの表情は川北特撮監督の快挙じゃないでしょうか」
――「ゴジラVSスペースゴジラ」(94年)で、スタッフ陣が一新されパワーアップされたと伺いました。
「監督は山下賢章さん、脚本は柏原寛司さん、音楽は服部隆之さんと、スタッフが新しくなり『平成・VSシリーズ』の間奏曲も異彩を放ちました。山下さん&柏原さんがちりばめたアクションシーンを縫って語られる、シリーズヒロインの小高さんと橋爪淳さんの熱演による淡いラブストーリーも見どころなのです。ゴジラの敵、スペースゴジラは“悪魔的”ゴジラとして人気を博しましたね。バトルを繰り広げたのは福岡タワー周辺で、川北特撮監督の見せどころはモゲラと結晶体ミサイル。何より、川北さん好みのリトルゴジラが愛くるしい魅力を放ち、渋いオヤジキャラを演じた柄本明さんと好対照を見せました」
――時をへて「ゴジラVSデストロイア」で「平成・VSシリーズ」も終わりを迎えました。
「95年に起きた阪神・淡路大震災への鎮魂を込めて、シリーズ最終作として『ゴジラVSモスラ』などでお世話になった大河原さんに監督を、『ゴジラVSビオランテ』などでお世話になった大森さんにはと脚本をお願いして“ゴジラの死”を描きました。54年の初代『ゴジラ』への合わせ扉として、オキシジェン・デストロイヤーから生まれた怪獣デストロイアが出現し、さらには一作目のヒロイン・河内桃子さんも再登場されるのです。伊福部さんのレクイエムによって葬送されたゴジラの描写は川北さんが果敢にCGに挑戦し、特撮との融合で魅せた作品です」
――「平成・VSシリーズ」の振り返り、ありがとうございます! 長らくシリーズの制作を手掛けられたのですが、近頃の「ゴジラ」ブームについてはどう思われますか。
「『ゴジラVSデストロイア』で『平成・VSシリーズ』が、2004年公開の『ゴジラFINAL WARS』で『ミレニアムシリーズ』が終了するのです。両シリーズが終わった後に誕生した、庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』(16年)と、山崎貴監督がメガホンをとった『ゴジラ-1.0』(23年)は、両監督の作家性が作品全体に込められていて、創作への熱意と類稀なイマジネーションによるアート性も非常に高い素晴らしい作品だなと思いました。これからも、作家性の強い『ゴジラ』が生まれると期待していますし、予感も抱いています。ただ、近年の2作にはゴジラの『怖いけどかわいい』というゴジラの創作意図はあまり見られないのですが、それでも老若男女、国境を問わず世界で愛されているのは、ゴジラというキャラクターの持つ根源的な魅力によるものと言えるのではないでしょうか。今後も、新しい才能による新たな表現と装いをまといながら、ゴジラは愛され続けると思います」
【番組情報】
よる8銀座シネマ「ゴジラVSビオランテ」
BS松竹東急
11月4日 午後8:00~10:08
よる8銀座シネマ「ゴジラVSキングギドラ」
BS松竹東急
11月5日 午後8:00~10:06
よる8銀座シネマ「ゴジラVSモスラ」
BS松竹東急
11月6日 午後8:00~10:06
よる8銀座シネマ「ゴジラVSメカゴジラ」
BS松竹東急
11月7日 午後8:00~10:11
よる8銀座シネマ「ゴジラVSスペースゴジラ」
BS松竹東急
11月8日 午後8:00~10:11
土曜ゴールデンシアター「ゴジラVSデストロイア」
BS松竹東急
11月9日 午後9:00~11:06
※BS松竹東急は全国無料放送・BS260ch
文/TVガイドWeb編集部
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