田原総一朗インタビュー「僕にとって『朝まで生テレビ!』は最大の趣味なんだよ」2024/10/21
1987年4月にテレビ朝日でスタートした深夜の討論番組「朝まで生テレビ!」は、放送開始から38年を迎えた。内閣や安全保障、国際情勢、宗教など、幅広いテーマについて、数多くの識者と共に熱い激論を交わしてきた同番組が、11月からBS朝日の夜7時に引っ越し決定! 放送当時から司会を務める90歳の田原総一朗に、番組への思いを聞いた。
「『朝まで生テレビ!』(以下・朝生!)が始まった当時は、深夜番組っていうのはほとんど再放送だったんですね。当時、フジテレビが『オールナイトフジ』という若い女性が登場する番組をやっていて。これが評判だったので、テレビ朝日も深夜に何か番組を作ろうという流れになったんです。でも、深夜番組って大きな難問が三つあるんですよ。一つは、制作費が安いから有名タレントを出せない。二つ目は、深夜に中途半端に終わると出演者とスタッフをハイヤーで送らないといけなくて金がかかる。だから、終電より前にテレビ局に来て、始発で帰ってもらう。つまり、長時間番組にしないといけない。三つ目は、深夜放送をするならば、視聴者に向けて相当刺激の強い番組にしないといけない…こういうことから始まったんです。当時のテレビ朝日の編成局長からは『他局が絶対に作れないような刺激の強い番組にしないといけない』と言われました。そこで刺激の強い内容を考えて、対立している両者に出てもらおうということにしました。例えば『原発問題』では、推進派の中枢にいる人と、反対派の中枢にいる人を一堂に集めて本気の討論をしていただき、その討論を少し若い世代の有識者に判断してもらいました。他にも『防衛費』とか『地球環境問題』、いろんな問題があるから、番組は作りやすかったですね」
正義か悪か、はっきりしていない方がいいと思っている
「よその国の悪口は言いませんが、中国やロシアは割と正義と悪がはっきりしているでしょう。共産主義が正義で、そうじゃなければ悪。でも僕は、デモクラシーの世界は、正義か悪か、はっきりしていない方がいいと思っています。例えば、自由民主党(※以下・自民党)もあれば、日本共産党(※以下・共産党)、立憲民主党もある。いろんな党がある方が面白いでしょう。『朝生!』は、いろんな価値観のある人に出てもらって論争をする。そういう番組を作っています。そのために批判も随分受けますよ。だけど、僕はプロデューサーやスタッフには『批判や炎上は大いに歓迎。だけど無視されるのは良くない』と言っています。
――生放送の良さを教えてください。
「一番良いのは、例えば活字の場合は印刷がある。印刷をするということは、その間に上からいろんなクレームが来るんですよ。『ここを直せ!』とか。生放送がいいのは、クレームが来る前に放送しちゃうんで。後からクレームが届くのがいいですよね(笑)。これまでに反響が多かったのは『原発問題』かな。番組で推進派と反対派を出して大討論をさせたんだけど、普通はね、推進派と反対派は会いません。会ったらけんかになるし、下手したら殺し合いになるからね。そこを会わせる。その状況を何人かの有識者に見ていただいて、大激論をさせました」
――討論のテーマを決めるのは誰ですか?
「それはね、僕とスタッフが話し合って決めています。でも、最終的な決定権は鈴木裕美子プロデューサーですね(笑)」
――37年間続けられてきた秘訣(ひけつ)を教えてください。
「『朝生!』はね、仕事じゃないんですよ。僕の最大の趣味です。趣味が仕事になっているから、楽しくてしょうがないの。楽しいことをやっているから、体調も悪くならないし、ストレスも全くありません! 例えば、趣味でゴルフやマージャンをやる人は、ゴルフで『疲れた~』とか言わないでしょ。僕も全く同じ。僕はね、放送が好きだから、ゴルフもマージャンもやりません。暇がないんです。ゴルフやマージャンより、はるかに放送をやっている方が面白いからね」
――11月3日から放送時間が午後7時からに変わります
「僕が高齢者だから深夜は気の毒ということで、テレビ局の方で午後7時に変えてくれたと思うんです(笑)。先日、団塊の世代の方とお会いした時に、『昔は“朝生!”をよく見ていたけれど、最近は年をとって深夜番組が見られなくなった。だから放送時間が変わって大変ありがたいです』というお言葉を頂きまして、とてもいいなと思いました。10月27日には衆議院選挙があって、そこから1週間でしょう。ある種の反応や結果も出ていると思うので、その反応を見て(初回の)放送ができるというのはいいと思います。僕はね、放送時間が変わっても、中身やテーマを変えるつもりはありません。これまで『朝生!』は、僕が面白いと思うことをやってきたけれど、夜中であろうと午後7時だろうと、面白いものは変わりませんから。だけど、テレビに関わる皆さんって、世の中に気を使い過ぎてあんまり面白いことをやらないよね。下手をすると、面白いことをすると(番組を)降ろされたりもするでしょう。ちょっと前だけど、政府の批判をしていた方が番組を降ろされたという話も聞いたり。じゃあ、なぜ僕が(番組を)降ろされないかと言うと、内閣総理大臣や官庁批判をする時には必ず本人に『今日、こういうふうに言うからな』と連絡をするから。そうすると、総理にも官庁からもだいたい『ありがとうございます』ってお礼を言われますよ。歴代の内閣総理大臣には全員電話で言っています。石破(茂)さんにもね、『今日こんなこと言うからな』ってしょっちゅう電話しています。亡くなった安倍晋三元総理にも、よく電話をしました。場合によっては『出てくれ』って出演交渉もしていますよ」
――これまでお話されてきた内閣総理大臣で、一番ユーモアのある方は誰ですか?
「だいたい総理になる人は、みんなユーモアがありますよ。自民党議員が『この人がいい!』と思う人が総理大臣になるんだから。だから、総理になる人に頑固な人はいませんよ。みんな素直で、聞く耳を持っています」
「朝生!」の最中に静かになって、よく見たら死んでいた…というのが理想
――以前、田原さんが自身の死に際について語られた記事を拝読しました。
「今もそうです。現場で死にたいという気持ちは変わっていません。でも、鈴木プロデューサーには、『番組が終わって、“お疲れさまでした!”と言ってから死んでください』と言われています(笑)。僕にはね、才能というものがないんですよ。大学を卒業して、ジャーナリストになりたいと思って、朝日新聞、TBS、ニッポン放送、北海道放送を受けたけど、全部落ちた。全部落ちて、もうコンプレックスの塊ですよ。でもね、そのうち才能がないことを武器にしようと思ったんです。司会者でも、分からないのに分かったふりをする人っているでしょう。僕は分からないことを武器にして、とことん聞こうと思いました。面白いのはね、政治家でも経営者でも普通に専門用語を使いますよね。でも『専門用語が分からないから、普通の言葉で説明してくれ!』と言うと、難しいんですよ。非常に皆さんお困りになるから面白いです」
――番組に出てほしいゲストはいらっしゃいますか。
「政治の問題をやるなら、各党の有力者に出てほしい。僕はね、自民党は自民党で頑張ってほしいし、共産党は共産党で、各党頑張ってほしいと思っています。だから、自民党を潰したいとか、共産党を潰したいとは全く思っていません。でも、日本を良くしていくために、今の自民党や共産党は大きく変えてほしいと思っていますし、変えていく必要があると思っています」
――放送前のルーティンはありますか?
「スタッフとは相当打ち合わせをします。特に『朝生!』は、スタッフが何をやりたいのかを重視しています。深夜放送だった時は、夜中に起きていないといけないから、当日の午後は寝ていましたね。ほかに、必要な資料も読みます。スタッフが用意してくれる資料もありますが、準備しておいた方がいいなと思う時は資料を用意したり、直接会いに行って話す時もある。僕はね、ジャーナリストというのは、人と直接会って“face to face”で話を聞くことが大事だと思っているから、人と会うことをしない人は信用できませんね」
議論が思わぬ方向にどんどんいくのが楽しい
――生放送終了後の様子を教えてください。
「放送後は、みんなで食ったり飲んだり仲がいいですよ。『昭和天皇の戦争責任』とか、他局がやらないことをこれまで取り上げましたが、やりたいことができなかったことはないです。ただね、出演者の議論が激しくなって、もう少しやりたかったという時はありました。僕が白熱した議論の途中で『ちょっと待って』と言うのは、ほとんどサービスのつもりです。あまり1人の話が長いとみんな退屈になるだろうから、あえて途中で割って入ります。切り替えることで、反対の意見を持った人も発言できるでしょう。だから、私の中では80%サービスなんです」
――ギネス世界記録によると、司会者の世界最高齢は95歳(※韓国・テレビ音楽競演番組の司会者)とのことですが、田原さんにはその記録を塗り替えていただきたいです!
「今、僕より年上で頑張っている方は黒柳徹子さんや、作家の五木寛之さんですが、僕も頑張りたいですね。100歳まで生きられるか分からないけれど、生きている限りは頑張りたいと思います。僕はね、割と現実主義者なんで、死後がどうなるかなんてあんまり考えてないんですよ。だけど、生きている限りは頑張りたい。死んだら終わりだと思っています。『宗教』ってあるでしょう。僕は仏教に関心があるけど、あなた(※記者のこと)は関心ない? 僕はね、世界的に有名な哲学者の梅原猛さんと親しかったの。彼はデカルト、カント、ニーチェをやった後、釈迦(しゃか)の研究をして、仏教に深く関わっていて。ある時、『なんで、今さら仏教の研究をしているの?』って聞いたら、梅原さんは『田原さん、人間というのは理性だけでは生きられないから、どうしても宗教が必要なんだ』と、非常に説得力がある話をしてくれました。宗教を禁止している国もあるけれど、実は宗教を禁止すると、政治が宗教になっちゃうでしょう。共産主義以外は認めないとかね。でも、それは間違いだと思っていて。僕はやっぱり、宗教はあった方がいいと思っています。結局、人間が宗教を信じる時って、病気になった時じゃないですか。医者にかかっても治らないと、宗教を信じるようになる。僕の両親は完全にそうでしたよ。でも、今はだいたい医学の力で治るじゃない。病気が治るなら宗教はなくなるかなとも思うけど、なくならない。面白いよね。僕はね、数年で死ぬと思うけど、若い人たちはこの先10年、20年と頑張っていくでしょう。だから、彼らには期待しています。変えることはいっぱいありますよ!」
――貴重なお話をありがとうございました。取材中に田原さんからの鋭い逆質問をいただいたこと、忘れません!!
【プロフィール】
田原総一朗(たはら そういちろう)
1934年4月15日生まれ。滋賀県出身。ジャーナリスト。政治・経済・メディア・コンピューターなど、時代の最先端の問題を捉え、活字と放送の両メディアにわたり精力的な評論活動を続けている。
【番組情報】
「朝まで生テレビ!」
BS朝日
11月3日 午後7:00~8:54
(毎月最終日曜に生放送、次回の放送は11月24日予定)
番組進行:渡辺宜嗣、下平さやかアナウンサー
取材・文/Mayu.O(テレビ朝日・BS朝日担当)
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