Feature 特集

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす2024/10/13

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

 人気作家・おげれつたなか氏の同名BLコミックスを、沢村玲ONE’N ONLY)×別府由来という実力派若手スターのW主演で実写ドラマ化した今作。互いの過去や心の傷を深い愛で満たしていく、究極のセンセーショナル・ラブストーリーだ。

 壮絶な生い立ちを持つミステリアスな美青年・ケイト/浩然(ハオレン)役を沢村が、家族に見放された不幸な男・柏木千紘役を別府が熱演。孤独に生きる若者を等身大に演じ、9月23日に最終回を迎えた今も、国内のみならず世界各国から反響が寄せられている。

 Blu-ray&DVD BOXの発売も発表され、“ハピエン”旋風止まぬ中、監督・脚本を手掛けた古厩智之氏にインタビューを敢行。主演を務めた沢村さん、別府さんとのエピソードや話題の名シーンの裏側、今作に込めた思いなどをたっぷり聞いた。(注※ネタバレを含む)

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――今作はおげれつたなか氏の数ある名作の中でもファンが多い作品です。ダークかつバイオレンスな要素も多く、実写化にはハードルが高かったようにも思うのですが、脚本化に当たって苦労はありましたか?

「原作が素晴らしいので、その良さを極力生かすことを考えながら書き進めていきました。苦労はあまり感じませんでしたが、あと何話かできたらもっと良かったなと思います。尺の都合上、泣く泣く切ったところがいくつもあったので…。例えば、(原作)2巻の中盤から終盤にかけての2人のハッピーな時間なんかももっと描きたかったです」

――監督は原作のどのような部分に魅力を感じたのでしょうか。

「まずは、主人公2人の立ち位置がとても明確であるということです。それに加え、それぞれが抱いている孤独、お互いに足りていないものを埋め合っていく過程がしっかりと描かれていて。ドラマでもここは絶対に外してはいけないなと、そこをしっかり展開させて終わりまで持っていこうと思いました」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす
沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――原作のキャラクターたちがよりいとおしくなるような素晴らしいキャスティングでしたが、まずケイト/浩然役を演じた沢村さんの印象を教えてください。

「沢村くんは純真で、物事を真っすぐに見ることができる人。その作用が大きく、原作よりもピュアな浩然になった気がしています。もちろん原作の浩然も素晴らしいのですが、生きた人間が、そして沢村くんがやる以上、彼なりの浩然を作っていかなくてはならない。壮絶な育ち方をしている役柄なのもあり、沢村くんはすごく苦悩していて、本当にたくさん話しました。そういう意味でも面白かったですし、新たな浩然を見せてくれましたね」

――続けて、千紘役の別府さんはいかがでしたか?

「別府くんはとにかく体が動くタイプで、動物に例えるなら犬のような人。犬って、裏表がないじゃないですか。彼のお芝居も同様で、『好き』とか『嫌だ』とか、セリフがなくても伝わってくるんです。うれしい時にはブンブン尻尾を振っているのが見えるような…(笑)。すごくアクティブに千紘を演じてくれました。これもまさに別府くんの個性と、彼自身が作ってくれたもの。別府くんの良さを生かせていたらいいなと思います」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――監督は今作で初めてお2人とご一緒されたそうですが、彼らに感じた“俳優”としての魅力とは?

「これは2人ともに共通することなのですが、若さもあるのかナイーブなんです。相手に対してひどいことを言ってしまうシーンや、つらいシーンを終えた後に、『うぅっ』という感じで自分まで傷ついていることがあって…。でも、これはある種キャリアを重ねていくごとに失われてしまう感覚で、そう感じられることは素晴らしいことだと思うんです。そんな2人のピュアさも写し出せていたらうれしいです」

――別府さんが、以前にインタビューで「古厩監督は何でも挑戦させてくれた」と語っていました。監督から見て、お2人の芝居との向き合い方はいかがでしたか?

「このドラマはいわゆる大作といいますか、何十人も出てきて大変だ、というような作品ではありません。その分、主演の2人が“今どうするのか”をしっかり考えながらやっていくことが必要でした。その状況で彼らから芝居の提案が出てくるというのは、きちんと役に向き合っているということ。2人は僕より役については当然深く考えているので、それはもう彼らの提案を聞いた方が得しますよね。それで実際にやってみてイメージが違ったなら、何度でも一緒に考えればいい。このドラマはそういう有意義な作業ができた、非常に幸せな現場でした」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――ドラマの放送・配信前に何度か行われたインスタライブでは、お2人がたびたび別府さんのアドリブについて盛り上がっていました。

「これに関しては、僕に話すことなく勝手にやっているものもありますよ(笑)。千紘と加治(久保田悠来)が2人でたばこの煙を吹くシーン(第3話)なんて、実はあの後も3回くらい吹いていますから(笑)。でも、そういうシーンこそ面白かったりするのですが。ただ、西郷隆盛の物まね(第5話)は、ちょっと無理をさせてしまったかな。やり終えた後の千紘から、恥ずかしさがあふれていますよね(笑)」

――別府さんが「7話でもアドリブがある」と、古厩監督の仕込みだとおっしゃっていました。千紘がスマホで“パンダの交尾”の動画を見ているシーンでしょうか?(笑)

「そうだと思います。あのシーンは別府くんに『何か面白いこと言ってよ』とお願いしたところ、『えぇ~!?』と言いながらも一生懸命考えてくれて。ただ、実はテストの時にも『パンダの交尾』と言っていて、それがすごく面白かったので『本番ではぜひそれを超えるやつを…』と期待していたのですが、『パンダの交尾』を超えるものが出てきませんでした(笑)」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――撮影では心身ともにつらいシーンが多かったかと思うのですが、現場の雰囲気の和やかさを感じます。

「現場は和やかでしたね。もちろん肉体的には大変でしたし、精神的にキツい場面も多かったのですが、2人とも“僕の作品だ。僕が頑張らなきゃ”という思いがすごく強くて。でも、それは2人だけではなく、僕もそうだし、スタッフ全員が同じ気持ちだったんじゃないかな。みんなが“自分の作品だ”と、自信を持っていたから頑張れたんだと思います。それはまず、全員が原作に魅了されていたことが大きいです」

――ドラマの雰囲気や色合いなどがアジア映画のようで、SNS上では「千紘が映画好きだから?」などの考察も上がっていました。その意図を教えてください。

「この作品はラブストーリーでありながら、半分くらいはノワール、犯罪ものですよね。小さな部屋を中心に2人の思いが交わる中、恐ろしい他人が出てきて、実はそういう人がすぐ隣にいるのかもしれないと思わされる。さらには加治やマヤ(浅利陽介)、売春婦や犯罪者などさまざまな人が出てきて…原作を読んだ時に、まるで“街の映画”のようだと思ったんです。そして、実は常々そういう感じの作品ができたらいいなと考えていて。なので、このドラマは決まった当初からシネライクにしようとカメラマンと話していました。昔の香港や台湾の雰囲気が好きで、このドラマに関してはウォン・カーウァイ監督の映画『恋する惑星』(1994年)に影響されている部分が大きいです」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす
沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――ここからは話題を呼んだシーンについてお伺いさせてください。まず、クライマックスの一つとなった第5話。母のような存在の女性を失いふさぎ込んでいた浩然を、千紘が上野へ連れ出したところから、2人の幸せな時間が描かれました。

「あの日、浩然の中である程度(命を絶つ)心が決まっていたのだろうなっていうのは薄々分かると思うんです。浩然にとっては、最後のハッピーアワーという感じですよね。楽しそうなのに、なぜか見ていて胸がギュッとするような…。本当は上野での夜歩きのシーンをもっと描きかったのですが、ロケの時間的にもどうしてもうまくはまらず、回想シーンを入れることで彼らが長時間歩いたことを演出しています」

――不忍池のボート上でのキスシーンも美しく印象的でした。ここが今作唯一のキスシーンでもありますよね。

「実は、脚本上ではもう少しキスシーンがあったのですが、途中でふと“キスは大事にしたいな”と思ったんです。というのも、原作と比べるとどうしてもラブシーンが少なくなってしまう分、その純度を高めたいなと。2人にも、『キスを大事にしたい。1回だけにしてもいいかな?』ということを話しました。その後、キスシーンを入れるのはどこだろうと考えた時に、ここしかないなと思って。キスはこのシーンに集中して臨むことにしました」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――その直後、トンネル内で横たわり、2人で“死”を選ぼうとする衝撃の展開に、驚いた視聴者の方も多いのではないのでしょうか。

「このシーン、原作では踏切でピアノの音がしていて…と素晴らしいシチュエーションですよね。なので、ドラマでもその通りにやりたかったのですが、踏切で撮影するというのが、いま実は非常に難しくて。他の場所で踏切がある体でやるとか、電車が来ないのに来る体でやるとか、いろいろなうそをつかなくてはならず、2人の気持ちが途切れてしまうと思ったんです。それならばあのトンネルで、実際にトラックを走らせてやりたいなと。原作の情緒が好きな方には申し訳なさを感じつつも、いいシーンになったと思っています」

――迫り来るトラックから浩然が千紘を救い、2人は“生”を選びます。さらには浩然がその壮絶な過去から封じられていた”痛み”を感じ、いわば浩然の魂が再び宿ったことを感じさせる素晴らしいシーンでした。

「“痛みを感じている”というのははたから見て分かることではないし、浩然の中だけで起こる現象なので、あのシーンは作り上げる難しさを感じました。でも、その直前の沢村くんの『幸せになれるかもって期待しちまう』という芝居がすごく良かったので、ここはもう沢村くん、そして別府くんにお任せしようと。というか、2人に任せてばかりで僕はあまり何もやっていないんです(笑)」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす
沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――第8話、駅での別れのシーンについても伺わせてください。走り出した電車に乗る千紘が、駅に残る浩然に対し、車内を逆走して窓から名前を叫び続ける…。今作の予告にも使用された名シーンですが、実はこの流れ、台本には書かれていないんですよね。

「はい。別府くんが本当にいい動きをしてくれました。彼から『窓から顔を出したい。叫びたい』と言ってきてくれたので、それはもうぜひやってよと。そして、あのシーンをよく見ると、実はカメラマンが顔を出すための窓に、一度別府くんが顔を出しかけているんです。でも、感情が高ぶっている時って、何が何だか分からなくなりますよね。なので、全然オーケーといいますか、むしろあれが良かったなと。心と体が同時にワーッと動くすごくエモーショナルなシーンで、僕も大好きです」

――原作ではこのシーンの舞台は神奈川・江ノ島ですが、ドラマで茨城・大洗を選ばれた理由は?

「江ノ島は観光客の方が多く、特に昨今のアニメブームもあって鎌倉高校の周辺は人があふれているので、おそらく撮影は厳しいだろうなと思っていました。江ノ電にも相談に行ったのですが、やはり難しく…。そんな中、大洗は江ノ島とはまた違った情緒があり、太平洋が広大でどこか殺伐としていて、地の果てのような感覚にも陥るなと。それがこのドラマに合っているなと思い、大洗を選びました。近くに水族館があり、イルカ・アシカショーをやっていたのも幸運でしたね(笑)」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――大洗で別れて数年後、浩然は偶然千紘のSNSを発見しますが、最新投稿として表示される「お気に入りの場所」は、最初に千紘が浩然を撮影した公園ですよね。ここに、離れ離れになった後も浩然を愛し続けた千紘の思いが一つ詰まっていたように感じました。

「そうですね。ただ、視聴者の方には気付いてもらえなくてもいいと思っていました。千紘にとっても純粋に大事な場所を紹介したくて投稿しただけで、きっとあの投稿に深い意味はないんじゃないかな」

――待ち受けるラストは、再会した2人が笑顔で見つめ合う感動のシーンでした。この形にした理由を教えてください。

「原作のラストでは浩然の表情が逆光で見えず、千紘の笑顔で終わりますよね。当初は、ドラマもその形で終わろうと思っていました。でも、原作を最後まで読み終え、あらためて3巻の表紙を見た時に、この浩然の笑顔は千紘が撮影したものだったのだと気付き、ここまでやらなくては、とあの終わり方になりました」

――心がじわっと温かくなり、誰もが2人の幸せを願いたくなる、最高のラストだったと思います。

「最初の頃の浩然は千紘を手のひらの上で転がしていて、気持ちが通じ合ったかと思いきや『俺一人で行く』と千紘を突き放すように別れ、ずっとどこか擦れ違い続けていたんですよね。でも、最後は2人が本当に真正面から向き合ったことを物理的にも表現したくて。ドラマや映画って、見て分かる、テーマが絵になっているということが大事だと思っていて、それをやれたらいいなと考えていました」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす
沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

――これまでいくつかのシーンについてお話をお伺いしてきましたが、監督のお気に入りシーンを挙げていただくと?

「第8話で、夕闇の中、海の中へと走っていく浩然を千紘が追いかけて抱きしめるシーンでしょうか。びちょびちょになってしまうので、リハーサルでは海に入らず想定で本番も一発撮りだったのですが、2人のおかげで素晴らしいシーンになりました」

――作品のタイトルであり、第8話のサブタイトルにもなっている「ハッピー・オブ・ジ・エンド」。監督はどのような意味に捉えていますか?

「僕はダブルミーニングなのかなと思っています。いつ死んでもいいと、生きている意味なんかないと思い続けてきた浩然が、最後は千紘と幸せになり、その先を生きていくということ。そして、物語としては終わりなのだけど、これから幸せが始まるということ。最後まで原作を読むとタイトルの意味が分かるところがすてきだなと思い、ドラマでもそう感じていただけたらいいなと、最後にどんとタイトルを出しています」

――最後に、ファンの皆さんへ伝えたい思いを。

「僕らは誰しも最後は死ぬので、実はめちゃめちゃ孤独じゃないですか。でも、そういうことを考えると頭がおかしくなってしまうので、普段は考えずに過ごしていますが、この作品に出てくる人たちは死を考えないといけない人たちなんですよ。つい考えてしまう人たち、というのが正しいのかな。原作は、そんな人たちが誰かの隣にいることはできるのだろうかという問いと、その回答を描いた素晴らしい作品です。でも、そのテーマを生きた人間が、さらには20代半ばの男の子が演じるというのは非常に難しかったはずで。2人ともアプローチの仕方は違いますが、よくその問いに飛び込み、答えを見つけてくれたなと思います。ぜひ、そんな2人の姿を見届けていただけたらうれしいです」

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

【プロフィール】

古厩智之(ふるまや ともゆき)
1968年11月14日生まれ。長野県出身。近作は、映画「のぼる小寺さん」(2020年)、「PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜」(24年)、ドラマ「飴色パラドックス」(MBSほか/23年)、「癒やしのお隣さんには秘密がある」(日本テレビ/23年)など。

【作品情報】

ドラマ「ハッピー・オブ・ジ・エンド」
FODにて全話独占配信中
配信URL:https://fod.fujitv.co.jp/title/302s/

【リリース情報】

沢村玲×別府由来「ハッピー・オブ・ジ・エンド」古厩智之監督が名シーンの裏側明かす

ドラマ「ハッピー・オブ・ジ・エンド」
2024年12月25日(水)Blu-ray&DVD BOXリリース
各本編約240分(全8話)+特典映像約90分

<共通特典映像>
メーキング、インタビュー、予告集 他

<共通封入特典>
・32Pブックレット(原作者・おげれつたなか氏描き下ろし漫画1P&手書きメッセージコメント1P入り)
・アクリルスタンド
・複製サイン入りフォトカード2枚(4種のうちランダム封入)
※各法人特典はドラマ公式HPを参照

発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

Ⓒおげれつたなか・竹書房/NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン

取材・文/片岡聡恵



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.