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「飯を喰らひて華と告ぐ」新たな当たり役を得た仲村トオルが味のある大暴走!2024/09/20 07:00

「飯を喰らひて華と告ぐ」仲村トオル

 「メディア化は夢見ていたものの、僕は基本的に重苦しい作品を描くタイプなので、なかなかかなわないだろうな…と思っていました」と語っていた、マンガ家の足立和平氏。その彼が描く「飯を喰らひて華と告ぐ」(白泉社刊)が仲村トオルの主演でドラマ化された。1話12分のコンパクトな構成ながら、中身の濃い仕上がりのドラマは一気見してしまう中毒性がある。撮影現場を訪れた足立氏は「主演の仲村トオルさんの立ち居振る舞いが完全に主人公の店主(オヤジ)で笑ってしまいました」とうれしくなったと話す。

 料理の腕は超一級だけれど、ちょっぴり(いや、かなり)感性がズレているオヤジを中心に回る物語は「クセになる」と好評だ。そんな、一風変わったグルメドラマの味わい方を探ってみる。

勘違い暴走系店主が織り成すドラマは絶妙な尺の12分構成

「飯を喰らひて華と告ぐ」仲村トオル、吉村界人

 TOKYO MXで放送中のドラマ「飯を喰らひて華と告ぐ」は、東京都内のとある路地裏にたたずむ中華料理店「一番軒」が舞台だ。昭和で時が止まったような雰囲気の店を切り盛りする店主・オヤジ(仲村)は、なぜわざわざ中華料理店の看板を出している? とツッコみたくなるぐらい、どんな料理でも作る。訪れた客に「望むものは何でも出す」と言い、ラーメンや長崎ちゃんぽんといった定番中華から、ハンバーグ、アジの姿造りやサムゲタンと国籍を問わないさまざまな料理を出す。

 出された料理を食べて、客はそのおいしさに感動するが、その感動もつかの間、オヤジの暴走に客たちはあ然。そう、このオヤジには、自己満足の格言を交えた励ましを語り出すクセがあるのだ。「俺には分かるよ」と、客のバックグラウンドを勝手に推測し、「違うんだけど…」と戸惑う彼らを尻目にどんどん話を進めていく。そんなやりとりは、実際に自分の身に降りかかったら腹立たしさすら覚えるかもしれないが、仲村のど真面目かつ熱い演技を目の当たりにするとおかしさとほっこりした気持ちになってしまうから不思議。

 そんな、どこまでもかみ合わないオヤジと客のやりとりは、12分という尺がぴったりだ。畳み掛けるように物語を回し、ツッコミを入れる間を持たせない。そんな絶妙な尺だからこそ、中毒性のある作品として話題を呼んでいるのかもしれない。

“勘違い系”料理人役の仲村が見せる新境地を拓く見事な怪演

「飯を喰らひて華と告ぐ」仲村トオル

 仲村扮(ふん)するオヤジは、昭和の名だたる俳優たちなら面白おかしく演じるだろうと感じさせる役だ。なぜなら、おしゃべり好きで人との関わり合いが好きそうなくせに、人の話を聞かずに暴走し、最後の最後では自己満足の自己完結で終わる人物だから。昭和にはこんなおっさんが多く生息していて、愛されキャラとして慕われていたものだ。しかし、今は人とのつながりが薄くなりがちな令和。そんなおせっかいなキャラクターを、憎めない愛すべき人物として演じている仲村は、唯一無二の存在感をこの作品で放っている。ややもすると嫌われキャラになってしまうオヤジを見ていて「この人に会いに『一番軒』に行きたいなぁ」と思わせてしまうのは、仲村の振り切った芝居と誠実さがあるからだ。そこには揺るぎない風格さえあるような…。彼は令和の今、人々が忘れかけている人情やおせっかいを思い起こさせる貴重な俳優の一人と言っても過言ではないはずだ。

豪華なゲストと仲村の永遠にかみ合わないやりとりこそ、このドラマのツボ

「飯を喰らひて華と告ぐ」仲村トオル、田村健太郎、猫背椿

 本作は、1話完結で全12話。「一番軒」を訪れ、オヤジの壮大な勘違いに困惑する客を演じるのは、個性豊かな豪華ゲストたちだ。第1話のゲスト・田村健太郎は、経理マンなのに営業マンと勘違いされるサラリーマンを熱演。また、第2話には猫背椿が登場し、夫婦旅行が中止になり、意気消沈しながら店を訪れる主婦をリアルに演じた。

 田村、猫背のほか、吉村界人きたろう高橋ひとみ三河悠冴、華村あすか、福井俊太郎(GAG)、山崎紘菜、山城琉飛、円井わん柄本時生といったゲストが毎回登場するが、中でも目を引くゲストは、第4話で妻に先立たれ元気をなくした元気のない老人を好演した、きたろう。

「飯を喰らひて華と告ぐ」仲村トオル、きたろう

 彼は、気の抜けた様子で一番軒の前にいたところ、その様子を心配したオヤジに担ぎ込まれて店に入る。オヤジは老人が余命いくばくもないと思い込んて励ますが、それは大きな勘違い。老人は「俺はまだ死なない!」と激怒するが、オヤジが作った里芋とイカの煮物の味に亡き妻を思い出し……。まだまだ死んでたまるか! と奮起した様子を演技巧者のきたろうが見事に体現。しゃきっとよみがえった彼の姿に元気をもらった。

「飯を喰らひて華と告ぐ」山崎紘菜
「飯を喰らひて華と告ぐ」仲村トオル、山崎紘菜

 オヤジの過去を描く番外編的なストーリーの第9話には、20年前の同棲相手役として山崎が出演。彼女は30歳を前に結婚を焦っていた。結婚情報誌を目につく場所に置いてみたりと、涙ぐましいアピールを重ねる。が、その性質は昔からまったく変わらない若かりしオヤジに彼女の思いが届くはずもなく…。救いようのない勘違いをして、的外れな反応をする彼に諦めたような表情を見せる彼女がなんとも切ない。そして、時は現在、辛いものが好きな彼女に作ってあげた豚キムチを1人で頬張るオヤジは何を思うのか。…きっと彼女の真意とは違う思いを抱えているに違いない。それもまた切ない。

 9月24日に放送される最終回には、日々に追い詰められた役者志望の青年役として柄本が登場し、物語に華を添える。

 どのキャラクターも、オヤジのとんでもない推測に最初は戸惑うものの、抵抗するのを諦めて岐路につき、翌日からなんとなくすっきりした様子を見せるのがとても印象的で、彼らの未来に幸あれと応援したくなってしまう。そんな、魅力的でいとおしさを感じる人物を演じているゲストと仲村の暴走のかみ合わなさこそ、このドラマの醍醐味(だいごみ)なのだ。

深夜に見るには破壊力が過ぎる絶品料理が物語を彩る

「飯を喰らひて華と告ぐ」第1話〜第4話料理
「飯を喰らひて華と告ぐ」第5話〜第8話料理
「飯を喰らひて華と告ぐ」第9話〜第12話料理

 オヤジが客の様子に合わせて真心を込めて作る料理は、どれも、見ているだけでよだれものの品々ばかり。本放送は午後11:45からということで、夕飯を済ませている人にとっては小腹の減る時間。仕事終わりで空腹のまま帰宅したばかりのタイミングで見る人にとっては刺激の強すぎる“飯テロ”にほかならない。テレビの前で見ている視聴者は実際にその味を確かめることはできないものの、完成して客の前に出された料理がアップで映し出される瞬間やたまらないといった顔で頬張る客の表情などなど、どの料理も間違いなく絶品であることは容易に想像できる。「明日、これ食べよう!」と心に誓いながら眠りにつく視聴者は少なくないはず。

ついに、オヤジのもとに弟子希望者が現れる!?

「飯を喰らひて華と告ぐ」柄本時生

 数々の勘違い(本人はそう思ってはいないが…)をしながらも、客を幸せにする料理を提供し続けるオヤジ。ついに迎える最終回では、包丁を片手に思いつめた様子の青年(柄本)が一番軒に押し入って来る。彼は、俳優を夢見て上京してきたものの、生活に困窮していた。何日もまともに食事をしておらず、腹をすかして入った店が一番軒だったのが運の尽き…!? オヤジの勘違いワールドに巻き込まれてしまう。極限状態でうつろになっている柄本の芝居はリアリティー満載。そして、目に狂気が宿る彼を相手に、包丁を持っている=料理人志望と的外れな推測をするオヤジこと、仲村の鈍感力爆発の演技もすごい。今、さまざまな悩みや葛藤を抱えている人にぜひ見てほしいエピソードだ。

【番組情報】

「飯を喰らひて華と告ぐ」キービジュアル


「飯を喰らひて華と告ぐ」
TOKYO MX
火曜 午後11:45~深夜0:00
TVerほか各配信サービスでも配信中

文/高橋真希子



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