斎藤工が小児外科医を演じる上での信念とは?「本職の方にチャンネルを変えられないように演じたい」2019/09/27
斎藤工さんが天才小児外科医の西條命(さいじょうみこと)を演じる人気ドラマシリーズ「最上の命医」(テレビ東京系)。10月2日にスペシャルドラマ第3弾として「最上の命医2019」の放送が決定しました。シリーズ史上最悪のかつてない極限状態で命が挑む最難関オペとは!? そして、彼がずっと紡いできた“無限の樹形図”をさらにつなげることができるのか…? 今回も、命の在り方を通して、家族の絆や生命の尊さについてあらためて考えさせられる作品になっています。
このたび、撮影後の現場で斎藤さんを直撃! 2011年に放送がスタートしてから並々ならぬ思いで挑んでいるシリーズということで、年月を経てこその出術シーンへの臨み方や、子役の子どもたちとの接し方などさまざまな思いを明かしてくれました。
──テレビ東京では、昨年1月にドラマ25「MASKMEN」(テレビ東京ほか)で覆面芸人「人印(ピットイン)」をやられてからの西條先生ということで…。
「そうですね。両極をいっていますね(笑)」
──「最上の命医」シリーズでは、毎回かぶり物をやられていますよね。
「毎回恒例になっていて…楽しみにしている人は誰一人としていない気がするんですけど(笑)。でも、そういうコスチュームをしているとドラマに出演してくださるお子さんたちも、近づいてくれたり、心開いてくれる感じがして。小児外科医という職業柄、とても理にかなっている気はしました」
──前回はクジラで、今回は牛。このチョイスには、斎藤さんの意見も入っているんですか?
「いや、全くないです(笑)。でも、CMでいろんな格好をさせていただいているんですけど、考えてみたらかぶり物の原点は、この作品だった気がします」
──もしかぶり物が人印だったら…。
「人印だと、身長が190cmを超えてしまうんです(笑)。で、日本だと怖がられるんですけど、ロンドンの街中をあの格好で歩いたら、たまたまハロウィーンの翌々日ぐらいで街が受け入れてくれて。まだハロウィーンをやってみる人みたいな(笑)。懐かしい思い出です」
──本日撮影されたシーンでも子役の子どもたちとお話されていましたけど、どういう話をされていたんですか?
「これは結構共通しているんですけど、あのくらいの年代の子は感覚が老成している子が多いと思います。大人の社会を冷静に見ていたり、大人が『“自分が子どもである”という接し方をしている』ということも分かっているんじゃないかなと。だから、僕は普通に同業者として話し掛けるようにしています。これはドラマが始まった8年前からそうだったんですけど。そうすると、子どもたちとしっかり向き合えるんです。自分の幼少期も、“子ども”というジャンルのくくられ方をされている時と、逆に対等に向き合ってくれる時の違いをすごく感じていて。だからこそ、自分が大人になった今、子どもたちとは分け隔てなく、フラットに接したいなといつも思っています」
──一役者だったり、一人の人間として…ということですね。
「家庭のことを聞くことが多いです。佐久間健太役の高橋琉晟くんは(撮影当時)小学4年生ですけど、5歳まで大阪で育って、今はこっちに引っ越してきて、仕事しながら学校に通っているらしく…。とても仲が良い事務所の友達とオーディションの最終審査まで残ったんだけど、仲が良くても負けたくないという話を聞かせてくれました。そういうふうに、子役の子たちとの会話は多いかもしれないです」
──斎藤さんから演技のアドバイスをされたりするのですか?
「いや、むしろ逆ですね。彼もですけどこのシリーズの子役の子たちは、演技力がずば抜けている子が多いんです。だから、いわゆる学校で学んできた演技というよりは、憑依(ひょうい)型で本当の感情が目に映るんです。彼らが本番に持ってくる感情がすごいので、幾度となく、西條命の心を揺さぶられてきました。でも、カットの声がかかるとケロッとしたりしていて。僕はそんなふうに気持ちの切り替えができないから『こういう子が天才肌なのかな、すごいな』と勉強になります。むしろ、こうやってシリーズで年月を重ねてやらせてもらっていると、自分の定型文みたいな表現の仕方になってしまうことが怖いです。『こういうふうにやってきたし、これからもこれでやっていく』と決めてしまうと、前に進んでいるようで、実は自転車のスタンドを立てた状態で漕いでいるだけだということがあるんですよね。だから、年齢問わず生きている衝動みたいなものを宿していて“今”である意味を捉えている人というのが、優れた表現者なんだと思うんです。そういったことを、子役のみんなから感じさせてもらって襟を正してもらっていることは多いです」
──手術シーンに関して、監督や監修している医者の方から「成長したね」と言われることはありましたか?
「どうですかね…でも、手慣れてはきたところはあって。オペの意味をちゃんと理解できるようになってきました。綿密にリハーサルをしていただくこともあり、実際にどことどこを縫合してつなげるのかなどを分かった上で撮影できていると思います。今回のオペでは、首の静脈の一部を切り門脈という損傷した部分につなげたりするんですが、そういうことも台本の文字だけで追うと、ただ難しいワードが説明的に出てくるだけになってしまうじゃないですか。でも、やっていることは結構シンプルだったりするんです。なので、アナログな部分を理解した上で、オペのシーンに臨むと自分の心持ちが大分変わってくるということも感じていて。以前と比べると、いろんなことが理解できているのかなと思いますけど」
──作中に出てくる医療用語なども、台本で読むだけではなく、ネットで調べたりされるのですか?
「そうですね。『膵頭(すいとう)十二指腸』などよく出てくる名称があるんですけど、それがどういう部位でどういう機能を果たしているのかが分からないので調べると、図説はもちろんオペの動画が見られたりするんです。恐らく、実際にオペが行われる時に、いざ本物の患者さんを前にすると自分の想像を超えちゃうと思うんです。そこに近づけた緊張感を持っていたいなと思って、動画を見て勉強させてもらっています。そして、たくさんの監修の先生方に多角的に支えていただいています。分からないことがあれば直接質問させていただいたり、個人的に連絡をさせていただいている先生方もいらっしゃいます」
──具体的にどんなアドバイスを受けられたのですか?
「このドラマを見ていた人が、『実は子どもがこういう状況で…』と僕に聞いてきてくださることがあって。そんな時にこの作品で出会った先生方にアドバイスをいただいています。全員に対してそういうケアができるわけじゃないんですけど、僕の立場で話を聞ける先生がいてくださるので、とてもありがたいです」
──斎藤さんご自身も、かなり勉強されて臨まれているんですね。
「そうですね。今作の小児外科医だけではないんですけど、専門職の役柄をいただいた時には、その道のプロフェッショナルが見た時にうそっぽさを感じさせたり、冷めさせるのは一番嫌だなと思っていて。もちろん視聴者の皆さんに娯楽として伝えるのも大事なんですが、実際の専門職の方が見た時に『いや、違うでしょ』と思わせないようにするのが、僕ら俳優の責務なんじゃないかなと。見よう見まねであろうが、裏付けをどうしていくかはそれぞれだと思うのですが、僕はどんな役柄をいただいた時も、本職の方にチャンネルを変えられないようにということを念頭に置いて演じています」
【プロフィール】
斎藤工(さいとう たくみ)
1981年8月22日生まれ。東京都出身。大河ドラマ「いだてん」(NHK)、主演映画「家族のレシピ」「麻雀放浪記2020」や、日露合作「ソローキンの見た桜」などの話題作に出演。ドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理2019」(日本テレビ系)が9月29日に放送されるほか、主演の他に企画とプロデュースも務めた映画「MANRIKI」が11月29日、「魔法少年☆ワイルドバージン」が12月6日、「ヲタクに恋は難しい」が2020年2月7日、「Fukushima 50」が3月、「糸」が4月24日、「シン・ウルトラマン」が2021年に公開予定。フィルムメーカーとしても活動し監督作「Life in a box」(HBOアジア)や「COMPLY+-ANCE」の20年公開が控えている。
【番組情報】
ドラマスペシャル「最上の命医 2019」
テレビ東京系
10月2日 午後9:00~11:09
取材・文/鬼木優華(テレビ東京担当)
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