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ミニチュア写真家・田中達也「自分の生活に“見立て”を取り入れてほしい」2024/08/24

ミニチュア写真家・田中達也「自分の生活に“見立て”を取り入れてほしい」

 ブロッコリーを木に、丸眼鏡を自転車に…身の回りにある物を全く別の物に“見立て”たミニチュアアートを2011年からSNSで毎日発表し続けているミニチュア写真家・見立て作家の田中達也さん。

 現在、東京・日本橋髙島屋S.C.本館にて田中さんが手掛けた日本初公開のミニチュア作品約160点を紹介する「田中達也展 みたてのくみたて MINIATURE LIFE・MITATE MIND」が8月28日まで開催中。

 Instagramのフォロワーは現在386万人(24年8月現在)を超え、海外でも展覧会を開催するなど世界中の人をとりこにしている田中さんに、物を“見立て”ることの面白さや作品制作にかける思いを聞いた。

――ミニチュアを使用した“見立て”作品を制作する作風になったきっかけを教えていただきたいです。

「Instagramに投稿する写真を趣味で撮っていく中で、被写体が欲しくなってきて。そこで、同じく趣味で集めていたミニチュア人形を被写体にして写真を撮るようになりました。ミニチュアを使った写真を毎日Instagramに投稿していて、皆さんの反応を伺いながらその意見を参考にする中で、今のような見立てという作風になっていきました」

――海外でも展覧会を開催されていますが、海外の方ならではの反応はどういったものがありますか?

「これが一緒なんです。(国内の方と)同じ反応なのが面白い。もちろん、国内でしか伝わらない作品もあります。例えば、たこ焼きとかは『これは何?』ってなったりしましたけど、それくらいで。基本的にはほとんどの作品を同じように楽しんでもらえるので、それが一番の良さですね。だからこそ、僕のInstagramのフォロワーは7割くらいが海外の方なのかなと思います。言葉や文化が関係のないところで表現していきたいです」

ミニチュア写真家・田中達也「自分の生活に“見立て”を取り入れてほしい」

――週に一度、一週間に制作する作品のラインアップを決めているとのことですが、作品のコンセプトのバランスなどはどのように決めているのでしょうか?

「まず、その週に“○○記念日”みたいなのがあれば、その記念日にまつわる作品を入れています。例えば、クリスマスのある週だったら、クリスマスっぽいアイデアを入れたりだとか。あとは、スタンダードなミニチュアの見立て作品が続く中に映画や漫画のネタからインスピレーションを受けたちょっとふざけた作品も挟んでバランスを取っています。笑いを取りに行く作品もあれば、間にそういう真面目な作品も挟むっていうのは気にしていますね」

――作品の撮りだめをされないのは、毎回新鮮な気持ちで取り組みたいからですか?

「前日に次の日の事を考えた方がライブ感があるのと、その時の時事ネタを取り入れやすいというのがありますね。結局、いくら撮りだめてもギリギリじゃないとすぐに時間に追い付かれちゃうんです。なので、一日一個っていうのが、精一杯かなというのが一番あります。出張の時とかは、前もって計画的に撮っておくんですけど、次の日の分を前日に撮影するのがやっぱり一番良いかなと思います」

――お忙しい中でも作品制作の時間を毎日確保されていてすごいです。

「毎日作品を撮影することを第一優先にしています。それができなくなるくらいだったら、仕事をお断りするということはあります。そのくらい優先順位は高いです」

――作品は何らかの縛りがあった方が作りやすいのでしょうか?

「縛りがあった方が作品のイメージが湧きやすいですし、ルールがあるので見る人も見やすいですよね。例えば、僕の作品で言うと“見立て”というのがテーマになっているから、見る人が頭をそちらにシフトして見てくれます。作品ごとにテーマが違ったりすると、『どうやって見ればいいんだろう?』となってしまうと思います。それもそれで楽しいのですが、一つのルールに乗っ取っている方が見る方の理解度が違うので、僕は結構縛りを入れますね」

ミニチュア写真家・田中達也「自分の生活に“見立て”を取り入れてほしい」

――ソフトクリームをウエディングドレスに見立てた「アイスることを誓います」、ハンガーを波に見立てた「この波にかける」など、作品に掛けたダジャレのようなタイトルを付けられていますが、その言葉のチョイスはどのくらいの時間をかけて考えられているのですか?

「結構時間がかかっていて、一時間くらい考えたりしています。すぐに出る時はいいのですが、一回難しいなとなったりすると1時間以上考える時もあります」

――タイトル先行で作品のアイデアが浮かぶこともあるそうですね。

「ジャック・ニコルソンをモチーフにした作品は、(音の響きが)チャックに似ているから、チャック・ニコルソンにしたらいいかな? とか、そういうところから作品を考えることもあります。そんな感じでタイトルを優先することもたまにありますね。でも、作品を撮影した後にタイトルを考えることがほとんどです」

――何をしていても作品のことを考えてしまって、疲れることはありませんか?

「それが悩みですよね。例えば、映画館で映画を見ている時に、思い付いたアイデアをメモしたいと思うことがあって。でも、映画館で上演中にスマホを出してメモをすることはできないじゃないですか。そっちを気にし始めて映画に集中ができない時があったりするので、配信で見た方が楽なんです。すぐに再生停止したりできるから。映画館で見ているとつらいことが結構ありますね。完全に職業病です(笑)。ご飯を食べている時も、途中で食べるのをストップして、撮影をし始めちゃっておいしくなくなることとかもあります」

――お子さんからアイデアをもらうこともあるとか。

「ありますね。子どもがアイデアを言ってきて、作ることはちょこちょこあります。何か初心にかえりますね。子どもの『これでいいんじゃない?』みたいなアイデアは、意外と表現すると伝わりやすかったりして。ずっとやっていると、『もっと面白いものを!』と難しく考えてしまいがちですけど、『意外とあっさり考えた方がいいのかな?』とか、思い返すことはあります。大きくなって、誰かが土日くらいやってくれたら楽ですけどね」

ミニチュア写真家・田中達也「自分の生活に“見立て”を取り入れてほしい」

――毎日継続して作品を制作していて良かったなと思う瞬間は?

「もちろん、皆さんの反応というのもあるんですけど、それ以上に『何で今まで気付かなかったんだろう?』みたいなアイデアが出た時はうれしいですね。たまにあるんですけど、それが気持ちいい瞬間ですね。毎日探ってやらないとそういうアイデアも出ないと思うので、毎日やっていて良かったなと思いますね」

――SNSのコメント欄は読まれますか?

「読みますね。結構大喜利みたいなのが(コメント欄で)行われているんで。いいねを押すかどうかは迷うのですが、コメントを眺めては自分より良いタイトルを言われていると、『あぁ、しまったなぁ』と思ったりすることはちょこちょこあります。だから、それに負けないように僕も毎日頑張ってタイトルを付けています」

――田中さんの作品を見て多くの方がワクワクした気持ちになっていると思うのですが、田中さんご自身が心躍る瞬間は?

「物を集める癖があるので、物をたくさん買っている時ですね。特にミニチュアが好きなので、ミニチュアを爆買いしている時は興奮します。海外に行って掘り出し物のジオラマだったり良いものがたくさんあるとテンションが上がります。アイデアが広がっていくのと同時に、材料がたくさん集まってきているなと感じるので。料理人で言う、『いい食材が手に入った』と近い感覚かもしれないです。『良い仕入れができたぞ!』という」

――気分転換の時間はありますか?

「あんまり意識していないですね。夕食は必ず家族と取るとか、夕食後に子どもと一緒にゲームをするとかはありますが、そのくらいです。あとは、あまり無理して朝起きないでたっぷり寝ることとかは気にしています。そんなに縛らないと言いますか、決まった時間以外は自由に暮らしています。“必ずやること”みたいなのは、比較的少ないと思います」

――選ぶのは難しいと思うのですが、今までの作品の中で特に思い入れのある作品はどれですか?

「全作品の中から一番を選ぶというのは、くくりをつけないと難しいんですよね。なので、“モチーフ”というくくりの中で選ぶとしたら、“ブロッコリーを木に見立てる”というのは結構好きなやり口ではあります。今回の展覧会でもあえてブロッコリーで作ったツリーハウスを展示しています。同じアイデアなんですけど、“見立て”を考え付いたきっかけでもあるし、やっぱりブロッコリーは外せないなと思って。象徴的なものではあります」

――“見立て”を皆さんにどういうふうに楽しんでもらいたいですか?

「自分の生活に“見立て”を取り入れてほしいです。作品を作ってほしいというわけではなくて、弁当を盛り付ける時に取り入れてもらうとか。普段の暮らしの中にも取り入れようはあると思うので、ちょっとでも意識して実践してみると楽しくなるきっかけになるのかなと思います」

――今後、実現させていきたい事は?

「ミニチュアで“見立て”をずっと作ってきているので、“見立て”で作っているものを逆にモチーフを大きくして、皆さんが通勤や通学で通る場所などに置けるといいなと思います」

――ありがとうございました!

【プロフィール】
田中達也(たなか たつや)
1981年生まれ。熊本県出身。身の回りにある物を別の物に見立てたミニチュアアート「MINIATURE CALENDAR」を2011年よりSNSで毎日発表し続けているミニチュア写真家・見立て作家。9月11日からは、「横浜髙島屋 開店65周年記念 MINIATURE LIFE展2 ―田中達也 見立ての世界―」を神奈川・横浜髙島屋で開催する。



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