朝ドラ「虎に翼」制作統括が語る“制作秘話”とは!?2024/06/01
NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。佐田(猪爪)寅子(伊藤沙莉)は女性初の弁護士となり、書生だった佐田優三(仲野太賀)と結婚し、幸せな家庭を築こうとした直前、日本は戦争に突入。兄・猪爪直道(上川周作)、夫・優三を戦争で、父・猪爪直言(岡部たかし)を肺炎で亡くした寅子は残った家族を支えるために裁判官への道を進む。
今回は、制作統括の尾崎裕和氏にドラマの制作秘話や今後の見どころをインタビューしました!
これまでの振り返り
――あらためて、伊藤さんの座長ぶりはいかがですか?
「自然体でいらっしゃることが印象的で。言うべきところは、きちんと言ってくださるし、普段はこちらが気を使わなくてもいいような感じで、自然に現場にいてくださって。あとは、朝ドラって実は、幼少期を子役が演じたり、『一方その頃』みたいなシーンを挟むことで主役がずっと出ていない作品もあるんです。今回は最初からずっと伊藤さんが出ているので、大変なこともあると思うんですけど、現場ではそういうところは見せずに、しっかりと座長としていていただけているのがすごくありがたいです」
――「社会的信用を得るため」の寅子と優三との結婚が印象的でしたよね。
「寅子が社会的地位のために優三を利用しているように見えたかもしれませんが、これから寅子がそんな結婚に関して後悔する場面もあり、それが本当に良かったのかどうか、議論の余地を残すような物語にしています」
――そんな2人でしたが、優三が出征してしまうシーンは本当に切なかったです。
「寅子と優三の河原でのシーンは、伊藤さんと仲野さんのお互いの信頼関係もあって、出し切ったシーンになったと感じています。伊藤さんのマネジャーと仲野さんのマネジャーがモニターを見ながら泣いていたのが印象的でした」
同級生たちキャラクター作りの裏話
――男装をしている山田よね(土居志央梨)は寅子の同級生の中でも特に特徴的な女性ですが、脚本の吉田恵里香さんとどんな相談をしてキャラクターを作っていったのかを教えてください!
「よねは、寅子にとって対照的な人物です。(寅子の兄・直道の妻)猪爪花江(森田望智)もそうなんですけど、寅子とはまた違うテーマを背負っている人として描いていて。寅子は恵まれた家庭環境で育ったのに対して、よねは過酷な環境から立ち上がってきたので、いろんなものが奇麗ごとに見えてしまうんです。寅子の主張や思いに対して、対峙(たいじ)する意見や『そんなに甘いもんじゃないんだよ』ということを言える人物で、でも、そういう存在だからこそ、同期として一緒に歩んでいる。男装の意図は、吉田さんのアイデアで、セリフにもありましたが、当時も男装の麗人・水の江瀧子がいたり、女性が男装して社会で働いていた事例もあって。社会の中で、戦うための武装として、男性の服装をしている人物のアイデアが膨らんでいったんです」
――学校を卒業して同級生とは離れ離れになりましたが、平岩紙さん演じる大庭梅子の再登場フラグに視聴者も期待を寄せていますね!
「寅子と共に学んだ同級生たちが視聴者に愛されているのがうれしいですね。女子部で一緒に学んだ同級生たちは、寅子と一緒に人生を重ねていくつもりで描いているので、今後も彼女たちの歩みは、ぜひ期待していただきたいです。それぞれの人生がドラマの中でまた交差していく予定です」
家族とのエピソード
――第9週から猪爪直明を三山凌輝さんが演じていますが、アーティスト活動をしている時のパワフルなイメージと違ってすごく柔らかい人物を演じていますよね。
「誠実で、真っすぐな直明を表現したいというのがチームの思いで、子役の子たちが演じていた直明の映像を見ていただいたりしました。真っすぐな思いを持った直明の目をキラキラさせるために、照明を使ったりも。あと実は、出演のちょっと前ぐらいにお会いした時に、トレーニングをしているという話を聞いて、気合が入っているなと感動しつつ、『あまりトレーニングし過ぎると、戦争前後の時代感と合わないので、うまく調整してください』という話もしました」
――吉田さんは、花江も主人公のつもりで書いていると語っていましたが、花江に託した思いを教えてください。
「花江は、寅子のように仕事に生きる女性とは対照的で、家庭を守りながら生きる女性として想定されているキャラクターで、寅子のような生き方もあるけど、家の中でしっかりと仕事をして生きることも当然肯定されるべき生き方であるということを描きたいという吉田さんの思いを背負っている人物です。そういう意味で、もう一人の主人公的な存在なんです。花江の背負っている思いは、寅子に対してのセリフとしていろいろ出てくるので、今後も、森田さんと伊藤さんの息の合ったお芝居を楽しみにしていてほしいです」
「虎に翼」が朝ドラとして正攻法な部分とそうでない部分
――第9週まで奇をてらわずに正攻法で作っているように感じますが、このドラマをどのような意図で作っているんでしょうか。
「良いもの、クオリティーの高いものを作れば皆さんに見ていただけると信じて作っています。なので、奇をてらった展開やキャスティングで視聴率を取るための狙いを作るというよりは、この物語をつむいでいく中で合う方をキャスティングして、物語は吉田さんの描きたいテーマを膨らませていく方向で作っています」
――主人公の子役時代がなかったり、出産シーンがなかったり今までの朝ドラとは違う面もありますよね。
「『朝ドラだから幼少期を描く』ということではなく、寅子の人生で重要なタイミングが、女学校卒業間近に法学に出会う場面なので、そこからスタートしようということになりました。主人公の出産もそれを描くことが物語の流れにおいて必要なかったということだと思います」
――戦争の描き方についても違いがあれば教えてください。
「玉音放送のシーンがありませんでした。物語を検討する中で、結果的に『なくてもいいよね』という感じになったんです。社会全体よりは個人にスポットを当てていきたいという思いで、みんなでラジオの玉音放送を聞くシーンではなくて、それぞれのところに知らせが届くシーンにフォーカスを当てています」
――尾野真千子さんの語りも従来の朝ドラとちょっと違いますよね。
「あの形の語りになったのも吉田さんの案で。最初に吉田さんが書いたものを読んだ時は驚きましたが、それがこのドラマの特徴というか、シリアスな部分でも、客観的に寅子の気持ちが入ることで、ちょっと面白くなったり。ツッコミや笑えたりする語りが入ることで、ポップにテンポよくしたいという吉田さんの意図がうまく反映されています。本当に難しい語りなので、尾野さんも収録前は不安だったそうですが、最初の収録が本当に素晴らしくて、『これはいける』と確信しました」
――尾野さんと伊藤さんは相談などされているんでしょうか?
「細かい相談はしていないと思います。尾野さんがナレーションをとっている時に、同じNHKの中のスタジオで撮影していたりするんですけど、『顔出すと気を使わせたりするから、行かないようにしてます』とおっしゃっていて。尾野さんも、『カーネーション』で朝ドラヒロインの経験があるので、『放送を家で毎日楽しんでいます』という感じの距離感で伊藤さんを見守っているんだと思います」
――今回、朝ドラファン以外からの反響も多いですが、今まで見ていない層へ届けたいという意図はあったんでしょうか。
「まずは朝ドラファンの方がしっかり楽しめるものを作ろうということが根底にあります。朝ドラが持っている女性の人生を描くというテーマや、朝ドラならではの良さを突き詰めるからこそ生まれてくる、いろいろなテーマや問いかけについて考えながら作っています。そういう作り方をすれば、今まで朝ドラを見ていなかった方にも興味を持っていただけるんじゃないかと」
脚本・吉田恵里香のここがすごい!
――尾崎さんからみて、吉田さんの魅力をどう感じていますか?
「描きたいことやテーマがあるとして、そこからゼロベースで考えているところです。『いつも描いているから』ではなく、このドラマの物語の中で必要なのかをイチから思考して脚本を作り上げています」
――寅子が生理痛に悩まされている様子が描かれるのは、朝ドラとしては新鮮ですよね。
「『吉田さんが書くのであれば、そういう描写も書いてくれるだろう』と脚本をお願いした段階で思っていました。吉田さんが物語の流れの中で書いてくださったものが『確かに、女性の人生やキャリアを描く上で、生理が描かれていることは自然だよね』と思える脚本になっていました」
「はて?」の誕生秘話
――寅子の「はて?」が、SNSを中心にすごく反響を生んでいますが、誕生したきっかけを教えてください!
「吉田さんの台本に、ドラマの中のキーワードみたいな形で最初の段階から入っていた言葉で、それがどんどん膨らんでいった感じです。いろんな『はて』の言い方を、お芝居に落とし込むことは難度が高いと思いますが、すごくナチュラルに演じてくださっている伊藤さんも本当に素晴らしいです」
――撮影現場で「はて?」を使っている人はいますか?
「いると思うんですけど、僕の前ではあんまり…(笑)」
今後の見どころ
――来週、第10週以降はどのように描かれていくんでしょうか。
「職場での寅子がどう戦っていくのかが描かれていきます。法律に向き合い、新しい法曹界の面々たちと、どう対峙し、戦って乗り越えていくかを見ていただきたいです」
――後半のキーパーソンを教えてください。
「滝藤賢一さんが演じる多岐川幸四郎と、沢村一樹さんが演じる久藤頼安が、寅子を振り回します。仕事を誠実にする人たちなんですけど、多岐川はエキセントリックに見えてしまう面もあり、久藤はジェントルマン過ぎて少し浮いている。岡田将生さん演じる星航一も含め新しい登場人物が出てくると同時に、今まで寅子と一緒に歩んできた人たちの人生が交錯する様子も描いていきます」
――ありがとうございました!
【番組情報】
連続テレビ小説「虎に翼」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15ほか ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月〜金曜 午前7:30〜7:45ほか
NHK担当/Kizuka
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