「人間vs生成AI 番組キャッチコピー対決」勝つのはどっち⁉ 衝撃のキャッチコピー誕生秘話2024/04/19
現在、CBCテレビでは「放送局リアルDX化バトル!宣伝部社員VS生成AI 番組キャッチコピー対決」を展開している。これは週に1回、番組宣伝担当者と生成AIが、番組のキャッチコピーの完成度を競い合うというもの。
【対決のルール】
・両者がキャッチコピーを考え、CBCテレビの公式X(@CBC5ch_pr)で発表。
・どちらが作ったかを伏せた状態で、Xのフォロワーに“より番組を観たくなったキャッチコピー”に投票してもらう。
・得票数の多かった作品を実際の広告などに採用。
ChatGPTなど、何かと話題の生成AIを活用するという、これまでのプロモーションとは一味違った番宣施策だ。この番組キャッチコピー対決を企画した、CBCテレビ総合編成局専任局次長・須原健太郎氏(人間のキャッチコピーを担当)と、同コンテンツデザイン局IT戦略部・長谷川琢也氏(生成AIのキャッチコピー担当)に話を聞いた。
GAFAに負けないスピード感で企画スタート!
―――番組キャッチコピー対決を行うことになったきっかけは?
須原 「CBCもいろいろな業務で生成AIを積極的に活用しようということになっている中で、今年に入って、AIを使って番組宣伝も効率化しようという流れが加速していました。完全にAIに任せるのは難しいクオリティーでしたが、まずは使ってみようと。今回の企画以前にも、第一線では使ってないですが、試しに番宣情報を入力して、テキストで出力する、ということはやっていました」
長谷川 「例えば、試しに生成AIに番組の企画の記事化をやらせてみたり、タイトルだけだったらどうだろうと、記事タイトルを書いてもらったりはしていたんです」
須原 「中には使えるものもあったんですが、まだ玉石混交でしたね。そこで人間と生成AIが対決する形式にして、『AIが作った』ということを押し出せば、たとえクオリティーが達していなくても企画が成り立つだろうと考えたんです。こうして、今回の企画が生まれました」
長谷川 「私の所属は宣伝を担当する部署ではなく、動画配信やSNSなど、Webに関係したものに携わるIT戦略部です。この部署で生成AIを使っているのが私だったので、そのままこの企画に参加することになりました」
―――企画が決定してから実施されるまで、どのような準備をされたんですか?
須原 「長谷川とやりたいことが合致したので、実施までものすごいスピードで進みましたね。上司から振られた翌日に企画書を提出、2週間後にローンチしてました。GAFA(米国の4大IT企業のGoogle、Apple、Facebook/現・Meta、Amazon)に負けないようなスピード感を大事に!と(笑)」
長谷川 「一方で、丁寧に進めたのはルール決めです。生成AIは何度でも聞き直せるじゃないですか。でも、やりすぎると勝負としてどうなのかなと考えたので、作る側のルールとして、プロンプト(AIへの指示)を入れるのは3回まで、と決めました。それがちょっと制限になるのですが、もっといいものが出るかなと思いながら、プロンプトを作っています」
「AIに学習させ始めてからキャッチコピーを出すまで、最短5分」
―――この対決では、生成AIに指示を出す“プロンプト”が一番肝になるかと思います。AIに対して、どのように指示を出されているのでしょうか?
長谷川 「毎回決めているわけではないんですが、まず番組情報を学習させて、『こんな番組ですよ』という情報を入れた上で、生成AIに『キャッチコピーを五つ考えてください』と投げます。そこから出てきた五つの回答の中から、具体的に絞っていくという流れです。例えば『地名しりとり』という番組での対決でいうと、AIに考えてもらったところ、“過酷”というワードが出てきました。そこで次に、『“過酷”を強調したキャッチコピーをさらに五つ考えてください』と指示しました。ここには人間の意思が入ってしまうんですが、AIから出てきた案を基に『こう見せたいな』という指示を出しています」
―――最初に番組情報を学ばせる時は、広報リリースなどのテキストを読ませているのでしょうか?
長谷川 「はい、基本的にはリリース情報を入力したり、ホームページからテキストを取ったりしています。昔から放送している番組だったら、ほかの記事ページも含めて学習させて…という感じです。3月に復活した『天才クイズ』は、昔放送されていた時の情報も入れた方が“復活感”が出るかなと思ったり。この学習量が多ければ多いほど、絶対にクオリティーは上がります。逆に、ホームページしか情報がない時は、結構つらいですね」
須原 「いろいろ入力しないといけないので、大変だと思いますよ」
長谷川 「でも慣れてしまえば、コピー&ペーストをするだけです(笑)。なので、学習させ始めてからキャッチコピーを出すまで、最短5分で終わります。もちろん、そのキャッチコピーで正しいかどうかチェックしないといけないので、それは須原さんと一緒にチェックしています」
須原 「私は締切の前日、通勤中に考えているんですが、キャッチコピー作りに集中している時間を寄せ集めると、合わせて30分ぐらいですね。番組のことを把握する時間とか、プロデューサーと話す時間とか、番宣のプランを考える時間をすべて足すと、もう少しあるかもしれません。さすがに5分ではアウトプットはできないですね(笑)」
人間では作れない!「それスノ」衝撃のキャッチコピー
―――生成AIが生み出したキャッチコピーの中で、面白かったものはありましたか?
長谷川 「『それSnow Manにやらせて下さい』(TBS系)の時は、韻を踏んだ方が面白いかなと思ったので、最初に出てきたものをベースに『韻を踏んで書いてください』と指示を出しました。すると、「Snow Manはamazon探検マン!」という、人間ではあんまり考えないようなキャッチコピーが出てきました」
須原 「考えないですよね…これは、なしかなと思いましたよ(笑)」
長谷川 「でもこの勝負、AIが勝ったんです(笑)。『こんなの出てくるんだ!』と思いましたけど、あえてクオリティーが低くても許されるとか、ちょっと変でも許されるっていうのがあるので、こちらも楽しみながらプロンプトを作っています」
須原 「こういうところで気付きだらけなんです、この対決」
―――作ったキャッチコピーは、ほかの宣伝部員の方に評価をしてもらうんですか?
須原 「事前に聞くことはないですね。私は公式Xに投稿した後に、番宣のスタッフに画面を見せて、『どっちがいいと思う?』と聞いてはいます」
長谷川 「私も、同じことをしています。でも社内の人間だと、『こっちが、須原さんが書いたキャッチコピーだな』って分かるみたいですよ(笑)」
須原 「私が作ったキャッチコピーには、何かパターンがあるんでしょうね。振り幅がないというか。人間が作った方は、比較的番組の内容をそのまま言わないパターンになると思います。一方、生成AIが作るキャッチコピーは、内容をより記録的に表すパターンになっている」
長谷川 「たぶん、そこが生成AIの弱さだと思います。生成AIは、基本的には学習した情報に基づくことでしかアウトプットできないんです。例えば、『新天才クイズ』の対決の時に須原さんが作った『名古屋一エモいクイズ番組』というような、番組情報からは書けない抽象的な表現のキャッチコピーは、かなり具体的に指示しないとAIからは出てきません。『エモい』とは何か?という定義をしてあげないと、この言葉は出てこないと思います」
須原 「でも、この時は私が作ったキャッチコピーが負けたんですよね(笑)。惨敗した!」
長谷川 「2人で見せ合った時には『あ、これはやられたな』って思って、須原さんに『今回も完敗です』と伝えたのに、ふたを開けたら違った……みたいな(笑)」
―――企画スタートからこれまで、評判はいかがですか?
長谷川 「公式Xのリポストやインプレッションも多くいただいていますし、直近の対戦では投票が2000を超えました。フォロワーも着々と増えていて、楽しんでいただいているなと感じています」
須原 「社内では、われわれの年齢が離れているので、『おっさんと若手がやってる』っていうのを面白がるというか、関心を持ってくれている人がいますね。特に『DXを進めよう』と言っている経営幹部の人たちです」
長谷川 「『いい勝負してるらしいね、あれ』と声をかけていただきました(笑)」
―――これまでの対決を通じて、感じたことや気付いたことなどはありましたか?
長谷川 「生成AIの可能性は感じるんですが、まだ精度が低いなということも実感しています。もっとこういう答えが返ってきたらいいなとか、自分の想像を超えるようなキャッチコピーが出てきたらいいなと思うんですが、学習量が足りないからなのか、プロンプトの問題なのか……まだ研究中ですね。これからも勉強していきたいと思っています」
須原 「今回のように、一般ユーザーにキャッチコピーの評価を求めることは、初めての試みです。自分の中で番組プロモーションのやり方のルールが決まっていて、それは必ずユーザーに寄り添った言い方にすること。これまでの対決でもすべてそのスタンスで作っているんですが、半分負けている。そこが気付きというか、驚きですね。プロモーションは奥が深いというか……自分の考えているプロモーションのルールが、ちょっと揺るがされています。先ほど話に出た『それスノ』なんて、訳が分からないですもんね(笑)。でも、生成AIが作ったキャッチコピーの方が面白そう、という結果になったわけで。あと、短い方が刺さりやすいっていうのは、あらためて参考になりました」
局次長が更迭⁉ 放送局がAIと描く「おもしろDX」の未来
―――今後、生成AIの活用が、番組宣伝のやり方や人の働き方も変えていきそうですね。
長谷川 「私が所属するIT戦略部としては、生成AIを使って番組の企画を記事化する試みもできたらいいな、と思っています。現在はライターさんに書いていただいていますが、今後変わっていくかもしれないですね」
須原 「基本的には今後、AIの利用度を高めていくことが前提です。キャッチコピーに限らずさまざまなテキスト情報を、AIを使ってより効率的にアウトプットしていくと思います。人の仕事について話すと、実は私と長谷川との間の非公式ルールで『人間が5連敗したら、担当者は更迭』っていうことにしてたんです。でも長谷川から、『5連敗はちょっと甘すぎます、5敗にしましょう』と。なので、私は本当に更迭されるかもしれないんですよ!(笑)」
―――これから生成AIをどう活用していきたいか、ぜひ意気込みを聞かせてください!
長谷川 「CBCが楽しいことやっているのを知っていただき、番組を見ていただくことが本来の目的なので、今回の企画でフォロワー数が増えていくのは、IT戦略部としてはうれしいです。実際、フォロワーがかなり増え始めている手応えもありますので、今後も続けたいなと思ってます」
須原 「ChatGPTなどの生成AIって、今ものすごく注目されてるじゃないですか。それをCBCテレビが使うと『やっぱりちょっと違うよね』って感じていただきたいなと思ってます。テック企業に限らず、あらゆる企業がAIに取り組んでいますが、そのどれともかぶらない、『CBCは、そんな使い方するんかい!』みたいなことを目指したい。名づけるなら、「おもしろDX」! 放送局は面白いことをする会社であるべきなので、われわれも面白いことをやっていきたいですね」
この番組キャッチコピー対決は、ここまで人間の5勝5敗。あなたの1票が、この先の勝敗を分けるかも!? ぜひ投票してみてほしい。
取材・文/A・I
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