「アンチヒーロー」飯⽥和孝プロデューサーインタビュー「予想よりもダークなところにいっている」2024/04/15
長谷川博己が7年ぶりにTBS「⽇曜劇場」で主演を務めるドラマ「アンチヒーロー」。「正義の反対は、本当に悪なのだろうか…?」を視聴者に問いかけ、スピーディーな展開で常識が次々と覆されていく本作は、⽇常のほんの⼩さなことがきっかけで正義と悪が⼊れ替わり、善⼈が悪⼈になってしまう、まさにバタフライエフェクトのような逆転パラドックスエンターテインメント。
⽇本の刑事裁判での有罪率は99.9%といわれているなか、⻑⾕川演じる弁護⼠・明墨正樹は、残り0.1%に隠された「無罪の証拠」を探し依頼⼈を救う救世主のような⼈間ではない。たとえ犯罪者である証拠が100%そろっていても無罪を勝ち取る“アンチ”な弁護⼠で、ヒーローとは⾔い難い、限りなくダークで危険な⼈物だ。
本作を手掛けるのは、「VIVANT」「マイファミリー」「ドラゴン桜2」「義母と娘のブルース」など数々のヒット作品を放ってきた飯⽥和孝プロデューサー。ここでは、ドラマの見どころをはじめ、作品に込めた思いなどを伺った。
――まずは、本作を制作された企画意図を教えてください。
「僕たちは次から次へと見たくなるような、引き込まれるエンターテインメントのドラマを作ることを念頭にやっています。これを最初に企画したのは2020年で、時代がたつにつれさまざまなことが起きていますが、人を傷つけるのも簡単だし、得ていた評価が一瞬にして崩れ落ちるということが昨今すごく増えているなと感じています。ただ、それが本当に真実として見られているのか常々思っていて。そういったものは自分の目、耳、肌、感覚でしっかり物事を感じていかないと、それが引き金になって誰かを不幸にしてしまったり、はたまた自分に返ってきたりしてしまうなと。だからこそ、自分の感覚をもう一度見つめ直すきっかけをこのドラマから届けられたらいいなと思い、今作に至りました」
――ヒーローを生み出そうと思ったきっかけはあったのでしょうか?
「僕は2018年に父親を亡くしました。当時、集中治療室にいる父が悪化したと緊急電話があり、病院から車で45分の実家にいた僕は、病院に車で向かう途中、スピード違反で捕まったんです。農道で確か40km道路だったと思うのですが『もしかしたら死に際に立ち会えないかもしれない』『これが最後かもしれない』『会いたい』という思いが先立って、スピード超過は絶対にいけないと分かっていつつも、オーバーしてしまって。そこで振り払ってでも行きたいと思いました。でも、世の中のルール上従わなければいけなく。そんな時に人はどうするんだろうとかいろいろ考えていて、それが本当の善なんだろうかとずっとモヤモヤしていました。悪だけどそれが何かを変えるきっかけになったら、それは善になるんじゃないかと。この世の中で一番悪いことは殺人だと思っているので、それを救う主人公を描けたら何かを伝えられるかなと思ったのが始まりです」
――こだわっていきたいところはどこですか?
「過ちを犯したらちゃんと謝って更生して償うことが最善の策ですが、その人はまずつぶされる世の中だと思うんですよね。そこに手を差し伸べる人がいるべきで、目を背けてはいけないところであって、そこがすごく矛盾しているなと。だからこそ主人公は、有罪というレッテルを貼らせないために動いていきます。第10話にかけてこのドラマで言いたいことは何か感じてもらうために、あえて最初のシーンは強いセリフから入っています。全部見てもらえると『言いたいこと、これだったんだね』と分かるかなと」
――第1話を撮り終えての感想があればお聞かせください。
「第1話でやりたかったことがやれた達成感はあります。主人公のアンチな弁護士“ダークヒーロー”というキャラクターが、どこまで踏み込んでいくのか注目してくれているポイントかと思いますが、予想よりもダークなところにいっている気はしていて。違法すれすれな内容だけではなく、人間の弱みにつけ込んで、それをどう受け入れて問いただしていくかというストーリーになっています。どういった反応があるか怖くもあり、興味がありますね」
今回のキャラクター像が俳優の中で一番合っている
――主演の長谷川さんを起用した意図を教えてください。
「今作の主人公は、つかみどころがなく何を考えているか一瞬分からない人間ですが、心(しん)の強さみたいなものは持っていて、簡単に正体が分からないところを一番重視しています。それを体現してくれる方が真っ先に浮かんだのが長谷川さんでした。2017年に日曜劇場『小さな巨人』でご一緒した時に、強い部分と同時に繊細で脆い部分もあったりと、いろいろな面を持ち合わせている方だと感じました。その期間だけでは全部をつかみきれていないところがあって、いい意味でつかみどころがない人なのかなと。そこからもう一度お仕事したいという気持ちと、今回のキャラクター像が俳優さんの中で一番合っているなと思いオファーさせていただきました」
――同僚役の北村匠海さん、堀⽥真由さんを選んだ理由もお聞かせください。
「北村さんはすごく頭のいい俳優さんです。実際ご一緒してみると、頭で芝居をしていなくて表現力がすごいなとあらためて感じました。第1話から第10話の中で、こう変遷していくという計算されたイメージがありますが、それをしっかりと逆算しつつも計算っぽくなく演じてくれて、自然なたたずまいが特徴的だなと。難しい役だと考えていたのですが、北村さんが本当に魅力的な役にしてくださっています」
――堀⽥さんはいかがでしょうか?
「堀田さん演じる弁護士役は、今回のような役をやらなそうな人がいいなと考えていて。堀田さんは、TBSでは『危険なビーナス』や『恋はつづくよどこまでも』。他局でも主演などご活躍されてきて、すごく柔らかいイメージがありました。そこで、真逆のような今回の役を堀田さんがやったら面白いんじゃないかなと思い起用させていただきました」
――最後に、放送を楽しみにしている視聴者にメッセージをお願いします!
「とにかく第2話まで見てほしいです! 長谷川博己さん演じるこの主人公を視聴者の方にどうドキドキ、ハラハラしてもらえるか全身全霊で考えながら作っているので、あまり難しく考えず、とにかくこの長谷川さん演じる主人公を見にきてくれたらうれしいです」
【プロフィール】
飯⽥和孝(いいだ かずたか)
TBSテレビ・制作局ドラマ制作部所属のテレビドラマのプロデューサーとして活躍。2023年には「VIVANT」にてエランドール賞・プロデューサー賞を受賞。主な担当作に「VIVANT」「マイファミリー」「ドラゴン桜2」「義母と娘のブルース」などがある。
【番組情報】
「アンチヒーロー」
TBS系
日曜 午後9:00~9:54 ※4月21日は午後9:00~10:09
取材・文/N・E(TBS担当)
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