【独占インタビュー】監督・村越麻海の渾身の作品「絵画を作るように一枚一枚丁寧に描きました」――「サイエンスSARU×MBSオリジナルショートアニメ大作戦!」2024/03/22
MBS/TBS系では、スーパーアニメイズムおしり枠にて「サイエンスSARU×MBSオリジナルショートアニメ大作戦!」(金曜深夜1:50ごろ)が絶賛放送中。アニメ「DEVILMAN crybaby」(Netflix)、「平家物語」(フジテレビほか)、2024年10月に放送が決定したアニメ「ダンダダン」(MBSほか)を制作するアニメーション制作会社「サイエンスSARU」イチ押しのクリエーターたちが手掛けた珠玉の90秒アニメーションを全4回にわたってお届けします。
3月22日放送の第4回「パンテオンの鳥」の監督を務めるのは、アニメーターとして「ピンポン THE ANIMATION」(フジテレビほか)などの作品に携わり、近年はプロデューサーとしてだけではなく「スター・ウォーズ:ビジョンズ」(Disney+)の「赤霧」で監督を務めたチェ・ウニョンさん。彼女とチームを組んだのは、2019年にサイエンスSARUにクリエーターとして入社し、「映像研には手を出すな!」(NHK総合)、映画「犬王」(22年)で原画を、「平家物語」では作画監督を務めた村越麻海さんです。
「パンテオンの鳥」は、絵画を連ねたような画面や長髪の滑らかな動きが魅力的な、90秒という短尺の中でさまざまなアニメーション表現に挑戦した実験的作品です。迷い込んだ鳥が、天井をぐるぐると飛び回るパンテオン、「彼」の後ろ姿を彩る雨の日の登山道、印象的な絵画の飾られた美術館。夢の中のようにめくるめく移り変わる情景を、色や音楽が一つにつなげていきます。とらわれていた鳥はどこへ向かうのか、「ラン」のまなざしを通して見届けるという作品です。
TVガイドWebでは、「パンテオンの鳥」にて共同監督として監督デビューを果たしたサイエンスSARUの村越麻海さんに独占インタビュー。制作のこだわりなどについて語っていただきました。
――共同監督に決定した際の心境をお聞かせください。
「当初、ウニョンさんより『キャラクターデザインと作画監督などで参加していただけないか。好きな感じで作ってほしい』とオファーを直々にいただきました。ウニョンさんが手掛けた『ピンポン THE ANIMATION』のエンディングを学生時代に拝見して感動したこともあり、務まるのかなという気持ちもありつつ、緊張とうれしさの中で作業させていただきました。制作を進めていく中で、作業量を鑑みて共同監督というクレジットが適当ではないかというお話があり、図らずも監督デビューする運びになり、うれしい驚きでした」
――「こんな感じで作りたい」など、大まかな考えはございましたか。
「大まかなプランはウニョンさんの方で既に固まっていましたので、私自身のプランとしてウニョンさんにお話を伺う方向で制作に臨みました。その結果、『ピンポン THE ANIMATION』のエンディングのような“連続性のないエラーが入る画面”と、“丁寧に日常を描く”という二つの方向で本作を進めていくことになりました。最近は激しいアクションを用いて魅せるアニメーションが主流なのですけれども、その手法を使わずとも日常を丁寧に描き出すことで良い画面を作れるのではというお話を経て、画面を探っていきました」
――実際に制作をされてみていかがでしたか。
「ショートアニメーションということですので、いろいろな表現やウニョンさんのコンテを再現していくため、さまざまな実験を試みながら作業できたのが大変貴重な経験となりました」
――さまざまな実験を試みたということですが、具体的にどのようなことに挑戦されたのでしょうか。
「背景は美術さんにご担当いただいているのですが、今回は数カット自分でも背景を制作してみました。私が入社する前は油絵を触っていたということもあり、背景ごと動くカットで、油絵のようなタッチを残したものを連ねてアニメーションにする技法を取ったことが、一番大きな挑戦です」
――それは大変だった点でもあるのでしょうか。
「かなりの枚数になるので作業量として大変で、また、完成したものはほんの数コマしか映らないのですが、絵画を作るように一枚一枚丁寧に塗りを考えて作業することは楽しかったです」
――これまで数々の作品に携わってこられましたが、ショートアニメの魅力をお聞かせいただけますでしょうか。
「アニメーションを作り出すためにさまざまな実験ができるのが魅力だと感じました。また、通常のアニメーションというのは集団の力で作られるので、それぞれのクリエーターさんの色が混ざり合った作品になりますが、ショートアニメになると、監督の色がそのまま濃縮されたような1本が作れるのかなと感じました。とても面白かったです」
――ご自身の色が出る渾身(こんしん)の作品になったということですね。
「ウニョンさんのコンテがあり、それをいかに具体化するかというところに尽力をしました」
――制作されてあらためて気付いた点など教えてください。
「ウニョンさんのコンテはとても魅力的ですが、通常のアニメのフローではその魅力を再現するのは難しく、作品のルックの開発、共有が最大の難所でした。今までは信頼できる監督や演出の方が旗を振って『こっちだよ!』と誘導してくださるところについていけば作品が出来上がるような位置にいました。でも今回は、連名にはなりますが、自分が監督として立ったことで、自分が作りたいものや描きたいものを強く見せていく力がないと良い作品にならないと実感し、大きく旗を振ることを意識して作業しました。今までご一緒させていただいた監督のすごさがあらためて身に染みました」
――制作にあたり、こだわった点をお聞かせください。
「とらわれていた鳥の行方を追いながら、パンテオン、山、美術館……という感じで場所も移り変わっていきます。音であったり色であったり、カットつなぎであったりを用いて、糸を通していくような感覚でつないでいきました。寝ている時に見ている夢は整合性のない世界だと思うのですが、それを再現するように、一見バラバラに見えるものを一つの作品にしていく作業にこだわり、作品の持っている静ひつな雰囲気を出しつつ、ストーリーを感じながら描き起こしていくという意識で臨みました」
――作品づくりにあたって大切にしていることがあればお聞かせください。
「今まではアニメーターや作画監督というポジションにいたため、その時は監督や演出の方が何を表現したいのかをくみ取って、それをいかに出力するか、どうすれば伝わるかという作業に意識を置くことが多かったです」
――今後、サイエンスSARUが「こんなクリエーター集団になったらいいな」など思いをお聞かせください。
「ショートアニメが故にいろいろな実験をしましたが、長編アニメーションでもさまざまなことに挑み続けるスタジオだと思うので、これからも頑張ってチャレンジしていきたいです。そして、サイエンスSARUの中から新しく監督に立つ方も続々と活躍されているので、私もサイエンスSARUならではの新しい色を見つけていきたいです。原作ありでもオリジナルでもその色を生かして、作品自体の魅力になればいいなと思っています」
――サイエンスSARUのロゴキャラとはまた別に、サイエンスSARUという名の主人公のキャラクターを作るとしたら、どんなキャラクターを作ってみたいですか。
「きっと元気に飛び回るキャラクターなのかなと思います。動物、もしくは謎の生物かもしれないですね(笑)。人間ではなさそうです」
――最後に視聴者に見どころやメッセージをお願いいたします。
「90秒という短い時間の中で、いろいろな表現を試み、絵画を連ねるように丁寧に一枚一枚制作に臨みました。ぜひじっくりと何度もご覧いただけますとうれしいです」
――ありがとうございました。村越監督が丁寧に細かく描いた本作、じっくり拝見したいと思います!
【プロフィール】
村越麻海(むらこし あさみ)
2019年にサイエンスSARUにアニメーターとして入社。「映像研には手を出すな!」(NHK総合)、映画「犬王」(22年)、「平家物語」(フジテレビほか)、映画「四畳半タイムマシンブルース」(Disney+)などの作品に原画として参加。
◆最初に夢中になったキャラクター:「『けいおん!』の中野梓ちゃんです。中学生の頃にギターを買って、友人とコピーバンドをするほど憧れていました!」
【番組情報】
「サイエンス SARU×MBS オリジナルショートアニメ大作戦!」
MBS/TBS系全国28局ネット スーパーアニメイズムおしり枠
金曜 深夜1:50ごろ〜全4回(3作品)
AT-X
「パンテオンの鳥」
3月30日(土)午後9:15~9:20
4月1日(月)深夜4:45~4:50
4月6日(土)午前7:15~7:20
※TVer、MBS動画イズムほかにて配信あり
取材・文/山本恵代(TBS・MBS担当) 撮影/蓮尾美智子
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