登山家・野村良太、ヒマラヤへの挑戦を語る!「山の洗礼を一通り受けました」2023/12/12
NHK総合で12月18日に放送されるドキュメンタリー番組「未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~」(午後10:45=NHK札幌放送局制作)の完成試写会が、12月4日にNHK札幌放送局で行われ、北海道・札幌の登山ガイド・野村良太氏が登壇した。
野村氏は2022年4月、北海道を南北に貫く分水嶺ルートの連続踏破に史上初めて成功。同年12月にはこの挑戦を追ったドキュメンタリー番組「白銀の大縦走~北海道 分水嶺ルート670キロ」が放送され、23年の植村直己冒険賞を受賞し、一躍注目を集める存在となった。
そんな野村氏が次の舞台に選んだのが、ネパールと中国の国境に位置するヒマラヤの未踏峰・ジャルキャヒマール(6473m)だ。先輩登山家3人とパーティーを組んだ野村氏が、未知の領域で何を見て、何を感じるのか。「未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~」では、誰も登ったことのない未踏峰に挑んだ日々を、登山家たち自身が記録する映像と、野村氏がつづる日記とともに伝える。語りは桐谷健太。
ヒマラヤに挑戦した理由について、野村氏は「『自分が見たことのないものを見てみたい』という欲望のまま活動してきて、その対象が今回はヒマラヤになったということです。標高8000m級の世界でも大きな山々があり、行きたい思いは以前からありましたが、山のスケールも計画も大きいものになるので(1人だと)二の足を踏んでしまう。それが今回、齊藤大乗隊長に声を掛けてもらい、行かない理由がないと考えました」と説明。
「そもそも海外に行くこと自体が初めて。出発の2カ月前にパスポートを取得するところから行程が始まった」と明かし、「日本での準備段階から、先輩方に海外遠征の組み立て方などアドバイスをもらいました」と感謝を述べつつ、「全部自分で完結してこそ充実感のある遠征になるという考え方もある。いきなり自力で行かないあたり、僕もたいしたことないなと思います」と、ユーモアを交えて自分を語る場面もあった。
世界初登頂に挑んだ感想を問われ、「一言でいえば、とことん、うまくいかない遠征でした。ベースキャンプに着いてから天候の悪い日が多く、現地のベテランサーダー(シェルパ頭)の方も『こんなに雪の降る春のヒマラヤは記憶にない』とおっしゃるほど」と率直に振り返り、「高所にどんどん上がる精神的なプレッシャーに加え、実際に体調が悪化する…呼吸が苦しくなるとか頭が痛くなるなど、知識として知っていた環境に直面し、『これがうわさのやつか、やっぱり苦しいな』と実感しました。過酷な環境に長時間いる経験があまりなかったので、思い通りにいかないことが多かった。そういう面を含めていい経験になったと思います」と続けた。そして、「初の海外遠征で、偉大な先輩方がおそらく通ってきただろう最初の洗礼を一通り受けたのではないかと思います」とまとめた。
同席したNHKの制作ディレクター・小林美月氏は「ヒマラヤの標高4567mにあるベースキャンプまで同行させていただきましたが、標高が上がるにつれ、やはりすごくしんどい。でも、野村さんたち登山隊4人はさらに標高を上げていきます。番組では、格好いい場面だけではなく、大変な部分も使わせていただいていました。大変な中でも挑戦を続ける姿に私自身勇気をもらいましたし、視聴者の皆さんも共感できる部分があるのではないか、あればいいなと思いながら制作しました」と番組への思いを語った。
一方、カメラマンの図書博文氏は「野村くんは、よく食べ、体力もものすごくある登山家という印象。驚いたのは、ベースキャンプより高い標高のテントで彼が歌う映像(笑)。元気な大声でしたけれど、高所で歌うことは、なかなかできません。“よくあんなところで歌うな!”と驚かされました」と笑顔で明かし、さらに、「ヒマラヤの美しい景色はもちろん、登山家たち自身が撮影したセルフィー映像が生々しい。一般的な登山番組というより、20~30代の若者たちが一所懸命に今を楽しもうとしている青春劇になっています」と見どころに触れた。
野村氏は、今回の挑戦で「一番ワクワクしたこと」を問われ、「心躍ったのはマナスル(ヒマラヤ山脈に属するネパールの山)が見えた瞬間。スケールが大き過ぎて、近くにあるように感じるんですけれど、動いても動いても見え方が全く変わらない(笑)。これが標高8000m級の山か!と思った記憶があります」と回答。また、前回(北海道分水嶺ルート連続縦走)の単独行と、今回の複数行の違いについて、「1人だと、苦しい時も楽しい時も感情を共有できる相手がいないし、荷物の分担・交代要員がいなくて物理的にも大変。ただ、気兼ねなくすべてを決められるシンプルさ、奥深さがあります。でも、誰かと行く方が楽しい。僕は、1人の面白さをよく感じるタイプ…と見せかけて、誰かと行く方が楽しいというスタイルです(笑)」と話した。
これからの展望に関しては、「僕は目標に向かってまい進するタイプではなく、気の向くまま、自分の興味の向くままに行きたいところに行く、進めそうなチャンスがあったら後先考えずに飛び込んでいくスタイルでここまで来ました。というのも、北大に入る、北海道に行くという時(野村は大阪府出身)、どういうふうになりたいか考えなければいけないのかなと思った時期もありましたが、まあ、そんなふうには当然いきません。29歳になりましたが、10年前、10年後の自分がこんなところにいるなんて想像しようもなかった。理想像でいえば、今、僕がイメージしている想像の全然違う、“斜め上”にいれたらいいなと思います」と答えた。
活動の拠点とする北海道という土地のポテンシャルについて「北海道で登山を始めた人間としては、魅力的だからいる、という感覚が強いですが、北海道に閉じこもっていると、比較対象もなければ、魅力を再発見する機会もない。違う場所に行き、経験が積み重なるほど、やっぱり北海道っていいなと思えるのでは。そういう経験がそれほど多くないのに北海道っていいよなと今思っていますが…(笑)」と回答。また、以前のインタビューで「強い山屋」の条件に「無事に帰ってくること」を挙げていた点に関してあらためて問われると、「そこは揺らいではいけないと思いますが、あまり固執して安全牌ばかり引いても先は見えません。必ず帰ることに重心を置きながらも、思い切った一歩を踏み出さなければいけない瞬間もあり、そのバランス、見極めが一番難しいところです」と口にした。
番組の見どころについて、図書氏は「野村くんたちは本当にしんどい中、カメラを回してくれました。彼らが自分たちを記録しようとレック(録音)を回すのは、朝焼けなど美しい景色を見た時や、心が動いた瞬間です。その映像がそのまま届いているので、お楽しみいただけたら」、小林氏は「野村さんが番組の中である決断をしますが、それはすごく勇気があることだと思いますし、野村さんらしい選択だったのかなと感じました」とそれぞれコメント。
野村氏は「番組を見直し、客観的に自分を見て、感情がここまで顔に出ているのか…と感じました(笑)。苦しい時は苦しい顔、楽しい時は笑ったり、周囲とじゃれ合ったりしている。『決断』でいえば、番組の最後の最後に映る自分はすがすがしい顔をしているように見えました。時間がたった今思い返すと、もっとああすればよかったなどと思わなくもないんですけれど、あの瞬間の僕はとりあえず納得していたのではと感じました。僕たちの発する言葉や日記に書いた文字もそうですが、僕の表情からも喜怒哀楽を読み取ってもらえると、より面白く見れるのではないでしょうか」とメッセージを寄せた。
なお、12月15日には特別編「はるかなるひと~未踏峰への挑戦 野村良太のヒマラヤ日記~」(午後7:57、北海道ローカル)がオンエア。また、12月11~13日には、北海道・札幌駅前通地下広場(北大通交差点広場)で番組特別展が開催(午前11:00~午後8:00、11日は正午~午後8:00。観覧自由)。最終日の13日には、野村と登山家・服部文祥によるスペシャルトークも予定している(午後5:30開演)。
「未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~」は放送後1週間、「はるかなるひと~未踏峰への挑戦 野村良太のヒマラヤ日記~」は放送後2週間、NHKプラスで配信予定。
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