「時間をかける大切さを実感してほしい」ダースレイダーが提示する、これからの情報との向き合い方&楽しみ方とは?2023/11/30
私たちが正しく判断するために、今、何をどう知るべきか――その極意を学ぶ連載「私のNEWSの拾い方」。月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS」で掲載中の人気連載を、TVガイドWebでも展開中。12月号では、YouTubeの配信番組「ヒルカラナンデス」でもおなじみのラッパー・ダースレイダー。日本映画専門チャンネルで、プチ鹿島と監督を務めた映画「劇場版 センキョナンデス」「シン・ちむどんどん」が放送! ということで、本作について、またこれからの情報との付き合い方について聞いた。
POINT 1◆自分が普段見ている以外のメディアにも目を向ける
――たくさんのニュースがあふれる中、私たちはどんなニュースの拾い方をしていくべきでしょうか?
「まずは、今自分が見ている情報が、実は自分に合わせてセッティングされている、限定されたモニターの情報だと気付くこと。テレビだとチャンネルによって違う、新聞だと新聞社によって違う、スマートフォンだとどのサイトを見るか、どんなトレンド設定をしているかで違う。そこに気付くことが1歩目です。
その上で、自分のセッティングじゃないモニターで見てみる。そうすると、全然違う情報が入ってきます。同じニュースでも取り上げ方が違うし、そもそも取り上げるニュースが違ったりもする。僕の場合だと、ニューヨーク・タイムズやガーディアン、あるいは別の独立系メディアなどを見ています。『自分のモニターに映るニュースは信じない!』となると、陰謀論の入口になってしまいますが、そうではなく、自分のモニターに映るニュースは(仮)という扱いにして、ほかのモニターも見てみる。そうやって、『自分はこういう立ち位置にいるから、こう見えるんだな』というのを実感する…というのがスタートラインです」
POINT 2◆速報に左右されず、自分のテンポ感を維持して情報に当たる
「正直、面倒くさいですよね? 僕が子どもの頃は、今よりももっと単純なニュースの拾い方でよかったと思います。でも今はその面倒くさいことをやらないと、ちゃんとニュースを読めない時代なんです。そこまでやらないと『綿密に取材を続けてきた記事』と『PV稼ぎで適当に作られた記事』の区別がつかなくなる。面倒くささから無関心を決め込めば決め込むほど、罠に陥りやすくなってしまう。一つキーワードを挙げるとすれば、『時間をかけて見ていく』ということ。普段とは違うモニターを見ていけば時間はかかりますし、SNSは特に速報ばかりが目立ちやすい。いろんな速報に引っ張られているうちに時間が経ってしまう。速報のスピード感に左右されず、自分のテンポ感を維持して情報に当たっていくのが大事だと思います」
――面倒くささといえば、「シン・ちむどんどん」の中に、辺野古の座り込みをひろゆきさんがやゆしてバズるシーンが出てきます。積み重ねてきたものを、反論という形ではなく、最小限の一発でひっくり返すことに快感を覚えるという意味で、とても現代的だと感じました。
「基本的にみんな、いろんなことを面倒くさがっているという無意識の自覚がたぶんある。積み重ねてきたものにちゃんと向き合おうとしても追いつけない。だからそれを無効化したい、さぼってきたことを正当化したい、その積み重ねは価値がないんだと思いたいという心理が、人間にはあると思うんです。ひろゆきさんは、そういった状況をゲームに例えた時に、そのゲームをやるのが非常にうまい。『今の状況はこうだから、こうやった方が点数稼げるじゃん』とやっているのを見たら、『自分もそうしたい』と思う人が出てくるのは、ある意味では当然のことです。
だから『彼は間違っている』と批判する前に、『そういうゲームをやった方が点数を稼げてしまう社会になっている』とまず認識しないといけない。そして、そのゲームの外側にも面白いものがあることに気付く必要がある。『センキョナンデス』や『シン・ちむどんどん』で僕らはこういう見方、考え方、楽しみ方もあるよと提示してみました。それはもとからあるものとじっくり向き合うことでもあるんですが、速報やひっくり返しとは違う面白さとして見せていかないと、現状はなかなか変わらないと思います」
取材・文/前田隆弘
【プロフィール】
ダースレイダー
パリ生まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京大学入学後、ラップ活動に傾倒し中退。2000年にラッパーとして本格デビュー。10年、脳梗塞で倒れ左目を失明するも、眼帯をトレードマークに復帰。各界の言論人との配信番組に多数出演。
【オンエア情報】
「劇場版 センキョナンデス」
BS Ch.255 日本映画専門チャンネル
12月4日 午前8:05~10:05(UDCast対応で放送)
ダースレイダーと芸人・プチ鹿島によるYouTube配信番組「ヒルカラナンデス」から生まれたロードムービー。
「シン・ちむどんどん」
BS Ch.255 日本映画専門チャンネル
12月18日 午前8:45~10:35
基地問題を抱え、アツい選挙戦を繰り広げる沖縄県知事選挙を2人が突撃取材する。
Ⓒ『シン・ちむどんどん』製作委員会
【「見つけよう!私のNEWSの拾い方」とは?】
「情報があふれる今、私たちは日々どのようにニュースと接していけばいいのか?」を各分野の識者に聞く、「スカパー!TVガイドBS+CS」掲載の連載。コロナ禍の2020年4月号からスタートし、これまでに、武田砂鉄、上出遼平、モーリー・ロバートソン、富永京子、久保田智子、鴻上尚史、プチ鹿島、町山智浩、山極寿一、竹田ダニエル(敬称略)など、さまざまなジャンルで活躍する面々に「ニュースの拾い方」の方法や心構えをインタビュー。当記事に関しては月刊「スカパー!TVガイドBS+CS 2023年12月号」に掲載。
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