「たとえあなたを忘れても」風間俊介が見る人に届けたい作品への思いとは――「何かをしながらではなく、この作品のためだけにお時間をいただけたらうれしい」2023/11/19

　ABCテレビが4月から新設し、日曜夜10時の全国ネット連続ドラマ枠の第3弾として放送中のドラマ「たとえあなたを忘れても」。脚本家・浅野妙子さんが手掛ける本作は、夢を失った女性と、記憶を失った男性が奏でる切なくも美しいヒューマンラブストーリーです。

　ピアニストになるという夢を失った女性・河野美璃（堀田真由）は、記憶を失った男性・青木空（萩原利久）との出会いから、傷つきながらも少しずつ前へと歩み始め、空も自身の記憶障害と向き合うために心療内科の医師である遠山保（風間俊介）のもとでカウンセリングを受けることを決意。ここまで、2人の成長が優しい世界観とともに丁寧に描かれてきました。

　そんな2人をつなぎ、本作のテーマでもある“記憶”というものに欠かせないのが、美璃のいとこでもある保。常に美璃のことを気にかけ、患者である宮下茜（畑芽育）や空にも優しく接する一方で、ミステリアスな一面を抱える保を、演じる風間俊介さんは「シンパシーを感じるところもある」と語ります。今年は全クールでドラマ出演を果たした風間さんに、本作の魅力を余すことなく伺いました。

――あらためて、本作の出演が決まった時の率直な気持ちを教えてください。

「『たとえあなたを忘れても』というタイトルの美しさから、まずはかなさのようなものを感じました。浅野さんの脚本を読ませていただいて、読めば読むほど『記憶って失われるかもしれない』と分かって、そこからすでに物語も生まれていて。でも、その予想を超えてくる切なさがあったと思うと『これを映像にした時、きっと美しい映像になるんだろう』と感じていました。第1話を見たら本当に美しい映像になっていたので、見ている人にも染み入るような作品になっていると思っています」

――情報解禁のコメントで、「保を“どう演じるか”、ではなく保として“人物にどう向き合うか”を大切にし、この美しい物語の一部になれる幸せをかみ締めながら、演じていきたい」とコメントされていましたが、保という役をどう捉えられていますか？

「保は心療内科の医師ということで、いろいろなことに一線を引きながら客観的に物事を見ているキャラクター。そこに自分の主観や思いというのはあまりほころばせないと思うんです。僕自身もそこはすごくシンパシーを感じるところもあって、そう思うと、このキャラクターの中に入っていくよりは『このキャラクターをもう一歩外から見た自分はどうなるのか』と思ってコメントした記憶があります。このキャラクターが一線を引いて、客観的に俯瞰（ふかん）して物事を見ているからこそ、もう一つ奥に行けそうな気がすると感じています」

――どういったところからシンパシーを感じられたのでしょうか？

「僕自身も、今こうやって取材でお話している時に『この言葉で伝わるかな、この言葉で興味を持ってもらえるかな』と、どこかでチェックしていると思うんですね。普段からそういうフィルターをかけてしゃべっているからこそ、仲のいい友人からは『本当にしゃべり方がうさんくさい』と言われることもあって（笑）。でも、それは『この言葉で失礼がないだろうか』ということを大事にするタイプだからこそ、しゃべる前に脳内で一度チェックを通しているからそうなると思うんです。保自身も、すごく優しくて穏やかなキャラクターなのですが、寄り添うというよりは少し離れたところから見守っている。だから頼りがいがあるけど少し遠く感じるようなキャラクターなので『分かる』と感じることも多いです」

――確かに、ここまでの放送を見ていても、保は一番何を考えているのか分からない印象があります。

「どこか達観しているような感じがあるんですよね。第4話で元カノの古賀百合江（高橋ユウ）から『あなたは常にどこかで距離を取っているような気がする。でも、そういう人が心のお医者さんになるんだね』と言われるシーンがありましたが、彼女の言葉はこのキャラクターを造形する中で“核”となる言葉だなと思っています」

――制作発表会見でも、キャストの皆さんの雰囲気がすごくいいなと感じていました。ここまでの撮影の雰囲気はいかがですか？

「すごく丁寧に撮影しています。明かり一つをとっても『今太陽の角度がこうだから、もうちょっと待とう』と、今この瞬間を切り取ろうとしているんだと思うと、うっかりミスをしてはいけないなと思いますね。作品を見ていて、ただ登場人物たちが歩いているようなシーンが、会話がなくても一番胸に来るようなこともあって。なので、このドラマを見てくださる方々に一つだけわがままを言わせていただけるのであれば、日曜の夜10時は、何かをしながらではなく、この作品のためだけにお時間をいただけたらうれしいです」

――撮影は神戸で行われているとのことですが、撮影中の印象的なエピソードはありますか？

「本当に美しいですね。坂が多いということもあって、撮影をしていても神戸の街並みや景色がドンッと抜けることが多くて、ほかの方がどういう芝居をしているのか台本を読んでいて分かっていても、作品を見た時に『キャラクターがどんな思いでしゃべるかも大事だけど、作品って“どこで”しゃべるかもすごく大事なんだな』とあらためて感じています。神戸での撮影というのがいかんなく発揮されている作品だと思いますね。作品の話をしていない時は…みんな食べ物の話ばかりです（笑）。昨日誰がどこで何を食べたのか、誰かが『うまかった！』といえば『それはどううまいんだ!?』と食い気味にしゃべっていますし、何より演者だけではなく、一緒に撮っているスタッフの皆さんはずっと神戸にいらっしゃるので、何がおいしかったのかを知り尽くしているんです。スタッフチームが大将と仲良くなったといううわさのチャーハン屋さんがあるのですが、最近はそこにすごく興味を持っています」

――制作発表会見では、畑さんとパンのお話で盛り上がっているというエピソードもありましたね。

「畑さんとパンについてのお話をしていて、『え、それってレストランや結婚式で最初に配られるめちゃくちゃおいしいパンと同じレベル？』と聞いたら『そのレベルです！』ということがあって（笑）。『それはうまいだろうな』と思うので、畑さんが『おいしかった！』と言っていたパン屋さんにはぜひ行きたいなと思っています」

――本格的に神戸で撮影をしていると、環境が役作りに影響しているということもあるのでしょうか？

「そうですね。ほとんどの登場人物が関西弁でしゃべっていて、僕と美璃は標準語でしゃべる、東京の人たちなんですね。なので、ほかの人と仲良くしていても、美璃の中で頼れるのは保であって、保も美璃をほかの人たちの中にはカテゴライズしていない、標準語をしゃべる2人に隠された孤独感と支え合おうとしている感じは、神戸での撮影が影響しているなと思っています。一筋縄ではいかないじゃないですが、『男女として好き』ということではない、いとこである美璃と保の関係性というのは絶妙な距離感だと思います」

――風間さんから見て、堀田さんが演じる美璃の魅力をどのように感じているか、教えてください。

「美璃はすごく共感できるキャラクターなのではないかと思っています。金銭面だったり経済面での不安だったり、自分が志していたものがかなわなかったことだったりと、みんなどこかでうまくいかないことがあると『これが自分なんだ』と思うことってあると思うんです。美璃の共感できるキャラクターというのは、どこか立ち行かない思いみたいなものを抱えている人たちにとても寄り添うキャラクターだと思っていて。特に、日常の中で立ち行かなさを感じている人たちにとっては『これは私の物語かもしれない』と思っていただけるのではないかと思っています。個人的な話にはなってしまうのですが、脚本家の坂元裕二さんが、『作品の中で10％元気な人が100％元気になる物語はたくさんあるから、マイナスにいる人がゼロになるような作品を私は書いていきたい』とおっしゃっていて、その言葉にすごくグッときたんです。ドラマって、いろいろなドラマがあってほしいと思っていて、今回浅野さんが書いてきてくださったこの作品は、見終わった後に『イエーイ』というテンションになるより、『明日自分が目にするものだったり、今自分が持っているものをいとおしく感じて大切にしよう』と感じる物語だと思うので、そういう意味では美璃は日常の大切さを教えてくれるキャラクターだと思います。その美璃自身も気付いていなかったことに気付かせるキャラクターが、記憶障害がありながらも今を懸命に生きる空だと思います」

――萩原さん演じる空の魅力はどのように感じていますか？

「誰かの思いを踏みにじりたいわけではないのに踏みにじってしまう可能性を秘めているキャラクターで、本人にその自覚がないから、後からついてくるつらさのようなものにも時差があって、切ないですよね。“失ったもの”というのも、自分が失わせたのではなく、突然失われて、失ったことにも気が付かないキャラクターなので、それと対峙（たいじ）する人たちはどういう思いで向き合えばいいのか。言葉がまとまらないのですが、『その人自身は変わってないけれど、その人の記憶から自分がなくなった時、その人を変わらずに愛せるのだろうか』という意味では、この物語のキャラクターたちも同じように答えを出せないでいるのかなと思います。空というキャラクターは、物語全体を動かしていくけど、それを革新的に動かしていくのではなくて、無意識に動かしていってしまうキャラクターだと思うと、魅力的だなと思っています」

――風間さんは今年、全クールでドラマに出演されましたが、今年の活動を振り返ってみてどのように感じていますか？

「僕は、求めていただけるのであれば、どんなことでも挑戦したいと常日頃思っていて。“自分のやりたいこと”はあまり持っていないんです。この仕事は、誰かの“見たい”という思いから動いていると思うので、もちろん僕の“やりたい”という思いが形になることも大事なのですが、僕は『誰かの見たいを大事にする』という自分の考え方を大事にしていきたいと思っています。今年、全クールドラマに出演させていただいたことには、『一緒に作品を作ってほしい』と言ってくださるプロデューサーさん、その作品を見てくださる視聴者の皆さんにまず感謝しかありませんし、それが存在意義だと思います。『今年は全クールドラマに出演していますね』『出演作品が続いていますね』と言っていただけるのはうれしいのですが、『作品数が大事か？』ではないんだろうなと振り返る時もあるんです。でも、自分の経験というものが積み重なっていくことには喜びがあるので、すごくうれしいのと同時に、あまり考えすぎずに今まで通りこれからも続けていきたいと思います。ずっと『来年の目標は？』『俳優としての目標は？』と聞かれると、『現状維持です』と言い続けていて、そう言えば言うほど『う、うん…』みたいな空気になって（笑）。でも、僕にとっての“現状維持”というのは、『去年と同じだったらいい』ということではなく、去年だろうが今年だろうが来年だろうが、自分のやるべきことをやって、自分がちゃんとやったなと思えるところをキープし続けていけば、積み木のように『この年はこれ』と、いつの間にか何かが造形される気がするんです。『こうなりたい』ではなく、『毎年一生懸命やります』ということをずっと続けていけば、『あ、これになったんだ』というのがいつか見えてくるのではないかと。たぶん、来年同じことを聞かれても同じことを言うと思うので、いつかみんなに飽きられてしまうのではないかと思うのですが（笑）、同じことをお話すると思います」

――最終的にどんなものが出来上がるのか、少し楽しみに感じているところも？

「そうですね。自分が亡くなる時なのか、もう仕事ができないと思う時なのかは分からないのですが、僕自身は目標を決めたくないタイプなので、どこかに向かっている旅ではなくて、出会う人たちと一緒に一生懸命やっていくことで『あ、ここにたどり着いたんだ』という旅にしたいと思っています」

――ドラマも折り返しですが、この作品はどんな形でクランプアップしたいと考えていますか？

「これもインタビューでよく答えてしまっているのですが、『この作品で何を得ましたか？』と聞かれるたびに『僕は今回、“種”をもらったと思うので、これがどんな花を咲かすのかは10年後なのかもしれないし、20年後なのかもしれません』と言っています。ズルい言い方ですし、ほぼ逃げですよね（笑）。でも、本当に分からないと思っているんです。自分の人生だったり、俳優としてのキャリアにどんな影響があるのか、自分の中で何の血肉になったのかは後に振り返らないと分からないので。今はみんなでワイワイ仲良くやっているので、この作品が終わったら…シンプルに寂しいだろうなと思います。今まで出会ったすべての作品も、振り返ってみると『あの時ああだったな』というのがなんとなく見えてくるんです。作品が終わったばかりだと『今年出た作品』とカテゴライズされるのですが、それが自分の心の中で『あの作品はこういうことだったんだな』と、自分の中でその作品がどんな存在なのかも見えてくるのではないかと思っています」

【プロフィール】

風間俊介（かざましゅんすけ）
1983年6月17日生まれ。東京都出身。主な出演作にドラマ「陸王」（TBS系）、「記憶捜査〜新宿東署事件ファイル〜」シリーズ、「初恋、ざらり」（ともにテレビ東京系）、「監察医朝顔」シリーズ、「silent」（ともにフジテレビ系）、「大奥『8代・徳川吉宗×水野祐之進編』」（NHK総合）、「勝利の法廷式」（日本テレビ系）、映画「後妻業の女」（2016年）、「鳩の撃退法」（21年）など。