【映画「シェアの法則」独占インタビュー！】主演・小野武彦＆共演・貫地谷しほり＆脚本兼出演・岩瀬顕子が語る“演じる面白さ”とは？2023/10/13

　劇団青年座で上演された舞台「シェアの法則」（作・岩瀬顕子）が映画化され、10月14日から順次全国公開されます。シェアハウスを経営する老夫婦、春山秀夫役の小野武彦さんと、その妻・喜代子を演じる宮崎美子さん。そして、シェアハウスの住人・高柳美穂役の貫地谷しほりさん、秀夫の息子・春山隆志に浅香航大さんが扮（ふん）するなど実力派俳優が名を連ね、心温まるシェアハウスの人間模様が描かれます。

　「80歳の大台になった区切りの年に、すてきなプレゼントをいただいた」という映画初主演の小野さん。また、久万真路監督とは旧知の仲で、若い頃から見てくれていたという貫地谷さん。そして、自身も大家族で育ち、大学時代は寮生活を経験している原作者であり、シェアハウスの住人役でもある岩瀬さんが思いの丈を存分に語ってくれました。

——初めにこの物語を読んでどのように感じましたか？

小野　「秀夫の持っているこだわりだとかある種の偏見は、全く一緒ってわけではないけど似たような部分があるなと感じたのが第一印象です」

——久万監督から、小野さんが衣装の香盤（シーンごとに何を着たかを記録するもの）を作ったり、監督といろいろ相談しながら現場の雰囲気を作られていたと伺いました。

小野　「もちろん監督にはいろいろなプランがあるけど、ふに落ちずに現場で進行しちゃうより、同じ方向に向かいたいじゃない？　それにはコミュニケーションが必要で、相談や質問という形を取りました。僕に限らず皆さんされていたと思います」

——久万監督が、貫地谷さんから演出のヒントをいただいて、それがすごく鋭くてドキッとしたとおっしゃっていました。

貫地谷　「あるシーンで、台本を読んでこんな感じかなと思って動いてみると、実際にこれはなかなか動けないなって時があったんです。でも、その場面を成立させるためにどうしようかと壁にぶつかった時に、小野さんが仕切ってくださって。みんなの意見をまとめて監督に提案をしてくださり、本当にみんなで一つのチームを作ったという感じでしたね」

小野　「今回の映画も、リハーサルから演出がズバッと決まっているわけじゃなくて、それぞれのキャラクターや人間関係の中でエチュード（即興劇）のように動いてみると、頭の中で描いていたこととは違うことが起き、より生き生きとすることが多々あったんです。それが自分は結構楽しくて…。偶然とも必然ともいえる産物の中から、足し算や時には引き算をして、最終的にいいものを監督がジャッジしてくれました」

貫地谷　「演出の時に『どうしようか？』ってなった時に、普通だったら岩瀬さんが（台本も）書いてらっしゃるから思いがあるはずなのに、グッと何も言わず見守ってくださってるんで、おかげでみんなが自由に動けたんです」

岩瀬　「いえいえ」

小野　「岩瀬さんは出演者の1人でもあり、ライターでもあるから、なかなか複雑な立場だよね。普通の脚本家はなかなかそれができないんだよ」

岩瀬　「現場入ったら書いたことは忘れてました（笑）。信頼できる役者さんと監督が、いろいろな意見を出して取り入れてくださったりしたので、いい雰囲気でできたなぁと」

小野　「やっぱり役者がふに落ちて動くと、動きが生き生きとするんだよね。ふに落ちずに言われたままやってしまうと映像に映ってしまう。先輩、後輩関係なく、同じシーンを共有する人たちが生き生きする方がお互い得だから。いろいろ試して、納得した上で動けたので楽しかったですよね！」

――その上でのアドリブなどはありましたか？

小野　「車の中で耳が聞こえないシーンで、1回テストで動いてみた後に、貫地谷さんが『こういう方向でもやってみてもいいですか？』と別のパターンを提案されて。そうすることによって、少なくともどっちがいいかを選択できるわけ。監督が客観的にAとBのパターンを比較して、いい方をチョイスできるから、すごく大事なことだと僕は思う。当たり前のことだけど、意外にみんなできないことなんだよね」

貫地谷　「ありがとうございます」

小野　「思い出した！　その時、急に雨が降ってきたんだよね」

貫地谷　「そうです！　私のクランクインの時で、工場から早退するシーンだったんです」

小野　「本当は雨の設定ではなかったんだけど、撮らざるを得なくて（笑）。いろいろありましたね」

貫地谷・岩瀬　「懐かしい！　もう1年たちますね」

——最後に、演じ終えた時の感想と、映画をご覧になる皆さまへのメッセージをお願いします！

貫地谷　「生きている中で“変化”ってすごく急に訪れるんです。この映画の中では、強制的に変化しなきゃいけない時がやってきて、そういう時ってすごく戸惑うし、つらいし『どうしたらいいの？』って悩むんですけど、それを超えて変化できたら、その先長く、楽しく、有意義に生きられるんじゃないかなと思うので、変化を恐れないで生きていきたいなと思いました」

小野　「やっぱり、偏見や先入観など固まった見方ではなくて、フリーでニュートラルな見方をする癖を身に付けたいですね。おのおのがそうなっていくだけで、ちょっとでも世の中が良くなる気がする。そういうことを感じてほしいです」

岩瀬　「お二人と同じような感じですが、“共感力”というか、“誰かの立場に立って物事を考える”ということを全世界の人がやったら、本当に戦争とかなくなっていくんじゃないかなと思うんです。そこまで社会的な映画でもないんですが、見終わった後にちょっとでもそういうことを考えてもらえるとうれしいです」

——ありがとうございました。続編をぜひお願いいたします！

　筆者の父も秀夫と同い年のTHE昭和の頑固おじさんです。本当に普段自分の気持ちを言わないので、何を考えているか分からないのですが、この映画を見て少し父の気持ちが分かった気がしました。小野さんから「お父さんと話してみたら？　話してみないと何も分からないよ」とアドバイスをいただいたので、お酒でも誘って、いろいろ聞いてみたいなと思います。いろいろな年代の人がこの映画をご覧になって、心のつながりというものをもう一度感じて、少しでも優しい風が吹くといいなと思いました。秋の夜長に、鑑賞後、月でも見ながら大切な人に思いをはせてみてはいかがでしょうか。

【プロフィール】

小野武彦（おのたけひこ）
1942年、東京都出身。俳優座養成所、文学座を経て、60年代後半から映画、テレビドラマで活動。｢王様のレストラン｣、｢踊る大捜査線｣シリーズ、NHK大河ドラマ｢新選組!｣、｢科捜研の女｣シリーズ、「DOCTORS ～最強の名医～」シリーズなど話題のテレビドラマに多数出演。近年の作品に映画「半世界」（2019年）、「一度も撃ってません」「仮面病棟」（20年）、舞台「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」（19年）、「にんげん日記」（21年）、「海の木馬」（23年）など。芸歴57年にして「シェアの法則」で映画初主演。

貫地谷しほり（かんじやしほり）
1985年、東京都出身。2002年「修羅の群れ」で映画デビュー。映画「スウィングガールズ」（04年）で注目を集め、NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」（07年）で初主演を務め「エランドール賞」新人賞受賞。主演映画「くちづけ」（13年）では「第56回ブルーリボン賞」主演女優賞を受賞。近年、ドラマでは「顔だけ先生」（21年／フジテレビ系）、「大奥」（23年／NHK）、映画では「総理の夫」（21年）、「サバカン SABAKAN」（22年）、主演映画「オレンジ・ランプ」（23年）などにも出演。俳優としての活動にとどまらず、「アストリッドとラファエル文書係の事件録」（NHK）の主人公アストリッドの吹き替えを担当し「第十七回声優アワード」、外国映画・ドラマ賞を受賞するなど声優・ナレーターなどさまざまな分野で幅広く活躍している。

岩瀬顕子（いわせあきこ）
栃木県宇都宮市出身（とちぎ未来大使）。アメリカ・バージニア州立ウィリアム＆メアリー大学国際関係学部卒業。自ら企画・脚本・出演する劇団「日穏-bion-（びおん）」を2008年に旗揚げ。映画「アースクエイクバード」では、アカデミー賞女優アリシア・ヴィキャンデルの友人役、21年に公開した映画「MINAMATA」（アンドリュー・レビタス監督）では胎児性水俣病患者の母親役を演じ、ベルリン国際映画祭で主演のジョニー・デップ、真田広之らと共にレッドカーペットを歩く。21年1月に製作、脚本、主演した中編映画「月の海」（萩生田宏治監督）はプラハ国際映画祭での最優秀作品賞受賞。脚本家としては数々の舞台作品のほか、「警視庁捜査一課9係」「特捜9」（ともにテレビ朝日系）、NHK BSプレミアムのドラマなど幅広く手掛けている。映画「シェアの法則」では、脚本、プロデュース、そして主題歌の作詞も担当。

【作品情報】

映画「シェアの法則」
10月14日（金）新宿K’s cinema、10月21日（土）より横浜シネマ・ジャック＆ベティほか全国順次ロードショー

東京の一軒家で暮らす春山夫妻。自宅を改装して始めたシェアハウスには、年齢も職業も国籍もバラバラの個性的な面々がおり、彼らは互いに協力し合い、時には衝突しながらも、共同生活を営んでいる。管理人である妻の喜代子（宮崎美子）は食事会を開くほか相談に乗るなど、住人たちの母親のような存在だったが、ふとした事故をきっかけに入院することとなった。そこで、しばらくの間、夫の秀夫（小野武彦）が妻の代わりを務めることになる。社交的な喜代子とは対照的に、人付き合いが嫌いで誰とも打ち解けようとしない秀夫は、住民からも疎まれ、息子の隆志（浅香航大）に対しても厳しく接している。そんな中、キャバクラで働いている高柳美穂（貫地谷しほり）が勤務先でトラブルを起こし呼び出されることになった。自分の価値観でのみ物事を見てきた男が、さまざまな境遇の人たちと関わることによって、少しずつ相手を「思いやる」ことを学んでいく物語。予想外の連続に思わず「学び」「笑い」「涙する」ハートフル・エンターテインメント作品。

監督／久万真路　脚本／岩瀬顕子　出演／小野武彦　貫地谷しほり　浅香航大／鷲尾真知子　宮崎美子　岩瀬顕子　大塚ヒロタ　小山萌子　上原奈美　内浦純一　山口森広　岩本晟夢　久保酎吉

取材・文・撮影／平野純子