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【小野武彦主演・映画「シェアの法則」独占インタビュー!】久万真路監督&俳優・脚本の岩瀬顕子が語る、本当のシェアハウスの住人さながらのチームワークと心温まる秘話2023/10/13

【小野武彦主演・映画「シェアの法則」独占インタビュー!】久万真路監督&俳優・脚本の岩瀬顕子が語る、本当のシェアハウスの住人さながらのチームワークと心温まる秘話

 劇団青年座で上演された舞台「シェアの法則」(作・岩瀬顕子)が映画化され、10月14日から順次全国公開されます。シェアハウスを経営する老夫婦、春山秀夫役の小野武彦さんと、その妻・喜代子を演じる宮崎美子さん。そして、シェアハウスの住人・高柳美穂役の貫地谷しほりさん、秀夫の息子・春山隆志に浅香航大さんが扮(ふん)するなど実力派俳優が名を連ね、心温まるシェアハウスの人間模様が描かれます。

 今作で脚本を担当し、シェアハウスの住人役も務めた岩瀬顕子さんと、映画「うちの執事が言うことには」(2019年)でもメガホンを取った久万真路監督が、撮影秘話やエピソードを語ってくれました。

――脚本が生まれたきっかけを教えてください。

岩瀬 「2019年に青年座さんから舞台用の脚本を依頼されまして、候補をいくつか挙げたのですが、その中の一つがニュース記事で見かけたシェアハウスについてでした。青年座には幅広い年代の役者さんがいるし、バラエティーに富んだ登場人物が出せそうということで題材が決まりました」

――そこから内容はどのように固まってきたのですか?

岩瀬 「まずは都内のシェアハウスをいくつか訪れて取材しました。住んでいる方々と話したり本を読んだりするうちに、中国人実習生や問題を抱えたシングルマザー、ひきこもりなどのキャラクターを描くことにしたんです」

――題材と登場人物が決まり、いよいよ書き始めようと思ったところでコロナ禍に突入してしまったわけですね。

岩瀬 「そうなんです。緊急事態宣言が出され、さまざまなニュースが流れている中で、相手を思いやることや誰かの立場に立ってみることを本当にしなくなっているなと感じました。自分だけ良ければいい、『コロナになったなら来ないで』などとギスギスした世界になっていることが悲しくなってしまって…。なので、『共感』をテーマに書くことにしました」

——久万監督が台本を初めて読まれた時の気持ちを聞かせてください。

久万 「最初に読ませてもらったのはコロナ禍真っただ中で、密になってはいけない、コミュニケーションを取ってはいけないという時期でした。ただ、コロナもいつかは終わるだろうと思っていましたので、終息した時に、逆にコミュニケーションを取ることで人が変わっていくこの映画こそを今やるべきだなと、すごく感じました」

——映画の脚本についてですが、久万監督と岩瀬さんで考えを擦り合わせながら作っていったそうですね。

岩瀬 「舞台版では秀夫の妻・喜代子は出てこないんですよ。でも、映画では絶対に出した方がいいという話になり、喜代子も重要な役割を果たしています。ほかにも秀夫をはっきり主役として描いた方がいいなど、映画にする上でのアドバイスをたくさんいただきました。本当に監督の言葉がありがたかったです」

——普段書かれている舞台と映画の脚本の違いはどうでしたか?

岩瀬 「基本的に舞台は言葉で全部説明しなきゃいけないので、セリフが圧倒的に多いんですよね。でも、映画だと映像で説明できる部分が多いので、セリフは極力削りました。それから、ト書きに気軽に“トイレが壊れる”などと書いてしまうと、みんなが全力でそれを実現しようとしてくださるので、時間や費用が驚くほどかかっちゃったりするんです(苦笑)。映像作品では、ト書きの部分を充実させる作業が必要なんだと学びました」

——岩瀬さんは刑事ドラマの脚本なども書かれていますが、ドラマの脚本とも違いますか?

岩瀬 「そうですね。初めてドラマの脚本を書いた時、テレビドラマは何かをしながら見るものだから、聞いているだけでもある程度内容が分かるようにしてほしいと言われました。だけど、映画は映画館でその時間ずっとスクリーンに集中して見るものだから、セリフがなくても、ちょっとした役者の表情や象徴的な映像だけで表すことができるんですよね。そこは大きな違いだと思います」

久万 「そうそう。テレビは受け身で見る前提なので、作り手が情報を発信するんです。映画はじっくり見て参加してくれることを前提に作るので、情報量をなるべくそぎ落とした方が、見る側の人間はちゃんと参加して前のめりに見てくれる。だから、その辺のさじ加減をああでもないこうでもないと試行錯誤しました」

——映画製作に当たって、特に苦労されたことはありますか?

岩瀬 「これまで役者として、海外作品も含めて映画にはいくつも出演していますが、長編映画の製作にも関わったのは今回が初めてでした。なので、映画1本作るのにこんなにやることがいっぱいあるんだとあらためて知りました。舞台も準備段階はたくさんやることがありますが、千秋楽の幕が下りたらそれで終わり。でも、映画はそうはいきませんからね(笑)」

【小野武彦主演・映画「シェアの法則」独占インタビュー!】久万真路監督&俳優・脚本の岩瀬顕子が語る、本当のシェアハウスの住人さながらのチームワークと心温まる秘話

——ほかに舞台との違いはどんなところですか?

岩瀬 「まず、映画はリハーサルをほとんどやらずに撮ることが多いですよね。舞台は1カ月ぐらい稽古して、お互いの信頼関係も築いた上で本番を迎えるのですが、映画だとその場で探り合って、瞬発力みたいなものが必要だったりするので、監督がその場でパンパンと決めていくところがすごいなと思っていました(笑)」

久万 「そういう意味では、小野さんは映像でずっと活躍されている方なのでパッパッと決めるし、そういうリズムで進行していくので、舞台中心で活動している方もうまく調整できるように考えましたね。今パンパンと決めていくとおっしゃいましたけど、このスピードでやりづらいかなとか考えながら、どういうふうにしていくのがいいのかは悩みました」

岩瀬 「映画は一度撮ったら終わり、そのシーンには戻れないので、あとは編集でなんとかしてくださいということになります。でも、久万さんはすごく役者に寄り添って監督してくださる方なので、こちらも納得いくまで芝居できましたし、みんなもやりやすかったと思います。本当に皆さんそうおっしゃっていました」

――小野さんも現場で意見を出され、意欲的に参加されていたとお聞きしましたが…。

久万 「小野さんのすごく前向きな姿勢が本当にありがたかったんです。小野さんはシーンごとにどんな衣装を着たかというのをご自分で記録し、まとめられていて、僕は役者さんが衣装香盤を作られているのを初めて見ました」

岩瀬 「演出や脚本に対しても前のめりで意見を出してくださいましたよね」

久万 「主役でやるからこそ、よりそういう気持ちが強かったんだと思います。小野さんのキャリアと演技力があれば、どう球を投げられても絶対打ち返せるはずなので、準備を念入りにしなくても全然できる方だと思うんです。初主演で、自分が座長だからけん引していかなきゃいけないという気持ちもあったでしょうが、それは決して義務ではなくて、単純に本当に好きだからだと思います」

岩瀬 「そうなんですよね。小野さんが現場にいらっしゃると楽しくて、いろいろなお話をしました」

久万 「小野さんのすごさって、別に努力して無理にやっているわけじゃなく、自然にできていることなんですよ。率先して一番早く現場に来たり、みんなに『こうじゃない?』とか『ああじゃない?』と提案してくれたりして引っ張ってくれたので、シェアハウスのメンバーが自然にまとまって同じ方向を見られたんだと思います。小野さんが言っているんだから自分も言っていいんだって思えたし、みんなが前向きに意見を出して参加しやすい土壌を間違いなく作ってくれました。本当に助かりました」

——シェアハウスの住人、美穂役を務めた貫地谷しほりさんはいかがでしたか?

久万 「彼女が19歳くらいの頃に出会っていて、僕が監督になったら一緒に仕事したいねってずっと言っていたのが、今回かなったんですよ。貫地谷さんは本当に感性が鋭くて、普段は僕たちに演出を任せてくれるんですが、ここぞって時に意見を出してくれるんです。具体的に言うと、松岡加奈子(岩瀬)がワン・チン(小山萌子)を迎えに行ったシーンで、『子どもがいるので私の方から言う方がいいんじゃないですか?』と、ドキッとするアイデアを出してくれるんですよ。しっかりと役に入り込んでいるからこそ、的確で自然なセリフが出てくるんだと思うんです。昔から知っていますが、さすが第一線でずっとやり続けている彼女だからこそと感心します。それも監督に負担を掛けないように、気遣って言ってくれるんですよ」

【小野武彦主演・映画「シェアの法則」独占インタビュー!】久万真路監督&俳優・脚本の岩瀬顕子が語る、本当のシェアハウスの住人さながらのチームワークと心温まる秘話

——現場がとてもいい雰囲気にまとまっていて、まるで本当にシェアハウスの住人のようですね。

岩瀬 「そうですね。みんなが意見を言い合える関係で、さらにそこでお互いを認めるといういい形ができていました。それは監督の人柄が大きいと思います」

久万 「みんなやっぱり上手ですからね、それに乗っかりたいなって思うんですよ(笑)」

――最後に映画の見どころとメッセージをお願いします!

久万 「なかなか秀夫の年代の人が主役になる話ってないじゃないですか。『昭和のお父さんって何考えてるんだ?』みたいな。ある意味、僕らも若い人のことは分かりかねるとこもあるように、若い人たちも秀夫の年代のことって全然分からないと思うんです。この映画を見て、昭和の頑固なお父さんがさまざまな葛藤を通し、どんなことを考えているのかを知ってもらって、知らない年代の人たちとつながれることがこの映画の魅力の一つじゃないかなと思います!」

岩瀬 「世の中にはさまざまな価値観を持った人たちがいます。自分と違うからといって相手を責める前に、まずは相手の立場に立って物事を考えてみることによって、相手を受け入れやすくなったりするんじゃないかなって思うんです。この映画を見て、そんなことを感じていただけたらうれしいです」

久万・岩瀬 「ぜひ気軽に見に来てください!」

【小野武彦主演・映画「シェアの法則」独占インタビュー!】久万真路監督&俳優・脚本の岩瀬顕子が語る、本当のシェアハウスの住人さながらのチームワークと心温まる秘話
【小野武彦主演・映画「シェアの法則」独占インタビュー!】久万真路監督&俳優・脚本の岩瀬顕子が語る、本当のシェアハウスの住人さながらのチームワークと心温まる秘話

 作品を見させていただいて、たった冒頭の30分でここのシェアハウスの住人の一員になったかのような、不思議な感覚に陥りました。その後、なぜかのんびりした気持ちになり、会う人がみんな仲間に感じるというすてきな現象が起きました。世界がちょっと優しい色に変わったようでした。うまく言葉で説明できないので、ぜひこの映画をご覧になって気持ちをシェアできるとうれしいです。

【プロフィール】

【小野武彦主演・映画「シェアの法則」独占インタビュー!】久万真路監督&俳優・脚本の岩瀬顕子が語る、本当のシェアハウスの住人さながらのチームワークと心温まる秘話

久万真路(くま しんじ)
1968年、神奈川県横浜市生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業後、テレビ番組のADを経て、廣木隆一・富岡忠文・平山秀幸・西川美和・李相日・林海象などの作品に助監督として就く。代表作は「うちの執事が言うことには」(2019年)、「増山超能力師事務所 激情版は恋の味」(18年)、「白鳥麗子でございます! THE MOVIE」(16年)、Netflix オリジナルドラマ「火花」、「ワカコ酒season7」など。


【小野武彦主演・映画「シェアの法則」独占インタビュー!】久万真路監督&俳優・脚本の岩瀬顕子が語る、本当のシェアハウスの住人さながらのチームワークと心温まる秘話

岩瀬顕子(いわせ あきこ)
栃木県宇都宮市出身(とちぎ未来大使)。アメリカ・バージニア州立ウィリアム&メアリー大学国際関係学部卒業。自ら企画・脚本・出演する劇団「日穏-bion-(びおん)」を2008年に旗揚げ。映画「アースクエイクバード」では、アカデミー賞女優アリシア・ヴィキャンデルの友人役、21年に公開した映画「MINAMATA」(アンドリュー・レビタス監督)では胎児性水俣病患者の母親役を演じ、ベルリン国際映画祭で主演のジョニー・デップ、真田広之らと共にレッドカーペットを歩く。21年1月に製作、脚本、主演した中編映画「月の海」(萩生田宏治監督)はプラハ国際映画祭での最優秀作品賞受賞。脚本家としては数々の舞台作品のほか、「警視庁捜査一課9係」「特捜9」(ともにテレビ朝日系)、NHK BSプレミアムのドラマなど幅広く手掛けている。映画「シェアの法則」では、脚本、プロデュース、そして主題歌の作詞も担当。

【作品情報】

映画「シェアの法則」
10月14日(金)新宿K’s cinema、10月21日(土)より横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次ロードショー

東京の一軒家で暮らす春山夫妻。自宅を改装して始めたシェアハウスには、年齢も職業も国籍もバラバラの個性的な面々がおり、彼らは互いに協力し合い、時には衝突しながらも、共同生活を営んでいる。管理人である妻の喜代子(宮崎美子)は食事会を開くほか相談に乗るなど、住人たちの母親のような存在だったが、ふとした事故をきっかけに入院することとなった。そこで、しばらくの間、夫の秀夫(小野武彦)が妻の代わりを務めることになる。社交的な喜代子とは対照的に、人付き合いが嫌いで誰とも打ち解けようとしない秀夫は、住民からも疎まれ、息子の隆志(浅香航大)に対しても厳しく接している。そんな中、キャバクラで働いている高柳美穂(貫地谷しほり)が勤務先でトラブルを起こし呼び出されることになった。自分の価値観でのみ物事を見てきた男が、さまざまな境遇の人たちと関わることによって、少しずつ相手を「思いやる」ことを学んでいく物語。予想外の連続に思わず「学び」「笑い」「涙する」ハートフル・エンターテインメント作品。

監督/久万真路 脚本/岩瀬顕子 出演/小野武彦 貫地谷しほり 浅香航大/鷲尾真知子 宮崎美子 岩瀬顕子 大塚ヒロタ 小山萌子 上原奈美 内浦純一 山口森広 岩本晟夢 久保酎吉

取材・文・撮影/平野純子



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