明治の天才噺家・古今亭志ん生がカラーでよみがえる! 人間国宝の五街道雲助「師匠は神のような存在…」2023/09/16
9月17日にNHK Eテレで放送予定の「カラーで蘇(よみがえ)る古今亭志ん生」の公開イベントが埼玉県川口市で開催されました。公開収録では“落語の神様”と言われる五代目古今亭志ん生の没後50年のメモリアルイヤーと題して、1955年に収録された「風呂敷」をAIでカラー化、4K映像を大スクリーンで上映し、臨場感あふれる貴重な“動く志ん生”の至芸に会場が歓喜で包まれました。
今回、公開イベントに出演した落語家の五街道雲助さんと古今亭文菊さん、女優で古今亭志ん生さんの孫・池波志乃さんのお三方にお話を伺いました。
——初めて見る方に向けた、志ん生師匠の魅力を教えてください!
文菊 「(志ん生師匠の面白さは)おかしさだけではなく、悲しみや苦しみなどいろんなものが交ざり合って発酵し、醸し出されたものがあの空気になるので、理屈や議論で説明できるものではないと思うんです。当時は戦争という時代で、今のわれわれは想像するしかないんですけれど、“生きる”ということが壮絶だった時代に、独特のくぐり抜け方をしたことで雰囲気が出ているわけと思います。今の時代のわれわれが見ても、そこにおかしさと魅力を感じ面白いなと思ってしまう。そこが師匠の不思議な魅力です」
池波 「私は噺家(はなしか)ではないので専門的なことは分からないんですけれども、ドラマでおばあちゃんの役(志ん生の妻)を演じた時にいろいろ調べましたし、父からも聞くことができたのでそれをお話ししますと、おじいちゃんの生き方は今の世の中だとネタにもならない状態だと思います(笑)。その破天荒な生き方が落語自体にも乗っていて、きゅうきゅうとしているこの世の中で、つらい時に聴くと笑い飛ばせるんじゃないかと、そんな魅力があると思います。今の若い人もそういういい加減で、ちゃらんぽらんなところに憧れて、昔のテープを面白がって聴いているんじゃないかな。破天荒だけど落語だけは真面目にやっていた、そんな真面目にいい加減なところが最大にひかれる点だと思います」
雲助 「志ん生師匠の面白さというのは、持ってる独特の雰囲気、“フラ”(落語の世界で持って生まれたあいきょう、おかしさ)と言いましたけど、そのフラでもって全部笑わしているかというと、決してそうじゃない。今日の映像を見ても、気付いていた方もいるかもしれませんけれど、目の奥の中でお客の反応を見ている。結局、計算されていて、計算の上でのフラ。いろいろ培ってきたものが師匠に身に付いて、あのおかしさが出たのかな。落語に加えて講釈師もやっていたから、自然に計算が身に付いたんじゃないかな。それをひっくるめての志ん生師匠の芸が唯一無二の魅力だと思う」
——圓菊(えんぎく)師匠(文菊の師匠で志ん生師匠の弟子)から聞いた、志ん生師匠の印象に残っている話はありますか?
文菊 「うちの師匠は、当初、噺家に憧れ、夢見て静岡から出てきたという感じではなかったらしいんです。どなたかの紹介でたまたま志ん生師匠のところに行ったわけです。故に逃げ出したいと思ったこともつらいことももちろんあって、救いは志ん生師匠がすごく優しかったっていうこと。うちの師匠がよくしくじることがあったらしいのですが、その時も志ん生師匠が『破門だ! 破門だ!』と単純に言わず、『お前は駄目だよ、かみさんが言ってたよ。お前のこと破門だって』とユーモアを加えて言うそうなんです。その優しさのおかげで師匠は続けることができたのかな」
——圓菊師匠ががむしゃらになんとか続けていくうちに、志ん生師匠から学び取ったものは何だと思われますか?
文菊 「私が言うのはおこがましいのですが、師匠が習ったことは、自分の芸を見つけていかなくちゃいけないんだということ。つまり、世間や評論家が評価するようないいものをそのまんまやるんではなくて、自分っていうものにしかない表現方法で、自分の世界を作っていかなくちゃいけないんだということを学んだと思います。ある時、うちの師匠が独特な言い回しをすると、『そんなものは正当じゃない!』と散々周囲からいじめられたと言っていましたから。かなりつらい目にもあったと思うんですけど、『俺は志ん生の弟子なんだ。志ん生がいいと言ってるんだから、俺はそれでいいと思うんだ!』というプライドを持って、自分の芸風を作り上げたんだと思う。だから、誰になんと言われて、けなされてつらい思いをしても自分の芸を見つけていくんだ!という信念が、原動力になっていたと思います」
——志ん生師匠がご存命だったら、直接教えてもらいたいことは?
文菊 「今という時代に生きる人間にとっては、師匠の生き方やセンスなどずれが生じることだと思います。ですけど、今にも通じることというのも確かにあって、上手下手(かみてしもて)への目線のやり方次第でキャラクターが出たり、物語の奥行きを出したりすることが師匠は天才でした。それを学ぶためには、師匠と同じ空気を吸って、同じ空間にいて、師匠の呼吸を体に染み込ませるっていうことだと思いますね。だから、あえて何かを教えてくださいというよりも、本当にその空間にいさせてくださいとお願いをします! そういうことだと思います。かなうことはないのですが…」
——最後に、雲助師匠は人間国宝にもなられ、少しは志ん生師匠に近づけたかなと思われますか?
雲助 「われわれにとっては神みたいな存在。全く違います。僕はまだまだだし、カタカナの“コクホウ”(国宝)だから(笑)」
筆者は落語をしっかり見るのが初めてでしたが、志ん生師匠の鋭くお客さん全体を見る目、その空気に合わせて言葉のスピードを瞬時に巧みに操るところに感服しました。また、カラーで復活させていることもあり、さらに当時のお客さんと噺家との一体感や空気感が伝わってきて、胸が熱くなる思いでした。落語初心者でも分かりやすい内容となっていますので、番組をご覧になって少しでも落語の面白さ、昔も今の世も通じる“普遍のセンス”というものを感じながら、楽しんでみてはいかがでしょうか。
【番組情報】
「没後50年 カラーで蘇(よみがえ)る古今亭志ん生」
NHK Eテレ
9月17日 午後2:00~2:30
NHK担当 平野純子
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