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「NHKスペシャル」関東大震災発生からの3日間を高精細・カラー映像で再現! カラー化で判明した驚きの事実とは?2023/09/01

「NHKスペシャル」関東大震災発生からの3日間を高精細・カラー映像で再現! カラー化で判明した驚きの事実とは?

 今から100年前の1923年9月1日午前11:58に起きた関東大震災は、10万5000人もの命が奪われ、明治以降の日本の地震では、過去最大級の被害となりました。9月2・3日放送の「NHKスペシャル」(NHK総合)では、「映像記録 関東大震災 帝都壊滅の三日間」と題し、当時撮影されていたフィルム映像を高精細・カラー化して、発生から3日間の出来事を明らかにしていきます。100年前に東京で何が起きて、人々は何に直面し、どう逃げ惑い、どのように助け合ったのか。高精細・カラー化することで浮かび上がってきた事実に加え、生々しい音声証言や科学的知見も駆使して、震災の全貌を紹介します。

 放送に先立ち、事前に試写をした記者が、「NHKスペシャル」のチーフ・プロデューサー・木村春奈さんから、制作意図や番組の見どころ、注目ポイントなどを伺いました!

――関東大震災はこれまでも紹介されているかと思いますが、今回の企画はどこからヒントを得られたのでしょうか?

「実は関東大震災90年のタイミングでも、『NHKスペシャル MEGAQUAKEⅢ 巨大地震 よみがえる関東大震災~首都壊滅・90年目の警告~』(2013年)でディレクターを務めていて、関東大震災についての番組を作っているんです。関東大震災では、たくさんの被害が起きているんです。建物ももちろん倒れていますし、神奈川では土砂災害があったりと数多くの災害が起きた中で、今知っておくべきことは何なのかを、あらためて考えました。もし同じような地震が来たら、揺れによる被害はもちろん出るはずですが、専門家に話を聞くと、火災のリスクや群集事故、デマは関東大震災の時と同じように共通して起こりうるし、もしかしたら今の方がリスク高くなっている一面もあるんじゃないかということで、何が大事なのかを関東大震災を調べ尽くして、そこから抽出しました」

――高精細・カラー化にあたり、難しかったのはどんなことでしょうか?

「技術が進歩していて、8Kスキャナで映像を取り込めれば高精細化でき、AI技術によってカラー化もできるんですが、実はそれだけでは見られる映像にならないので、かなり手作業で映像にカラー化を施しています。また、カラー化すると言っても、適当に色を付けるわけではなく、専門家と共に大正時代の絵はがきなど、さまざまな資料を集めて、映像の色が妥当かどうかを本当に細かく考えて時代考証にものすごく時間をかけました。場所を特定するのも同じで、高精細にしたことで建物の名前や看板などが見えるようになったのですが、それだけでは、一体どこの場所か分からないんです。だから、専門家らと昔の電話帳を調べて、書いてある店の名前がどこの住所にあるのかまで調べました。また、警視庁に似ている建物だと思ったら、警視庁の写真を取り寄せて見比べて、さらに、どの角度から撮っているのかまで考える。地道な作業の積み重ねで場所を特定し、色付けしていました」

「NHKスペシャル」関東大震災発生からの3日間を高精細・カラー映像で再現! カラー化で判明した驚きの事実とは?

――そうすると、もしかして考証にかけた時間の方が長いということでしょうか?

「場所については、専門家の考証にかなり時間を割いていただきました。その後のカラー化の作業も、人の手が入っているので、番組の構成に至る前の下準備にすごく時間がかかっています」

――高精細・カラー化したことで新たに発見したことや、特に驚いたことはどんなことでしょうか?

「地震が起きた後、火災が発生した時に直面した方々の表情がまざまざと見えたことが、一番大きかったです。というのも、高精細にする前の白黒の映像だと、そこに人がたたずんでいることくらいしか分からないんです。しかし、カラー化すると、意外に笑っている人が多いことや、火災が背後に近づいているのに、ぼんやりしている方がいることが分かって。振り返ると、そこで多くの方が亡くなっているわけですし、燃え広がる結果を知っているので、早く広いところに逃げたらいいのにと思いますが、なかなかそうできないというところがすごくよく分かりましたし、人々の表情がこんなにも見えたことにも驚きました」

――人の表情は、カラー化しないと見えないものだったということでしょうか?

「私もそれが驚いたところで。高精細にした白黒の映像も見たのですが、高精細にしただけでは、そこまで見えないんです。カラー化するにあたって、意図的に笑顔にしているわけではなく、情報を読み取って色付けをしているだけですが、『色が付くだけで、こんなに人の表情が見えるんだ』とびっくりしました」

――番組の冒頭では、関東大震災が起きる2カ月前の映像が映し出されています。そんな映像が残っていることにも驚きました。あの映像はどのように発掘されたのでしょうか?

「実は、先ほど言った10年前の『NHKスペシャル』でも紹介しているんです。撮られたのは別の会社ですが、NHKの膨大なアーカイブの中に保管させていただいていて、NHKの中の映像情報を検索する中で、震災の直前の当時の様子が分かる貴重な映像があることを知ったんです。あの映像も少し薄いですが、カラー化しています。それによって、森の部分や川、そして町並みがすごくよく分かるようになりました」

――震災前の景色があることによって、より一層、関東大震災の災害規模が分かりやすくなっていますよね。

「震災前の映像で、凌雲閣や陸軍被服廠(しょう)跡など、ほぼすべての場所を撮っているので、燃える前のここでこんなことがあったんだと非常にイメージがつきやすいし、心に訴えてくるものになったと思います」

――カラー化によって、人々の顔だけでなく、当時の生活スタイルもよく分かりますよね。荷物が山のように道端に置かれていましたが、地震があって外に出していたのでしょうか?

「これも驚いたところの一つではあるんですが、地震と火災があって、財産を失いたくないので、大八車に荷物を積んで家財道具ごと逃げたということなんです。当時は借家に住んでる方が多かったので、体と家財道具があれば、また生活を再建できるということで運んでいた。しかし、それが被害を広げた一因にもなっているんです。火事の被害にも遭いやすいし、避難もしにくくなるし、果ては群集事故にもつながるので」

――大八車は現代で言えば、自動車のようなものなのですね。

「そうですね。だから、今は大八車がないからいいかというとそうではなくて。車に乗って逃げようとして大渋滞ができて逃げ道をふさいでしまうことは、容易に想像できるのかなと」

――映像の中の人々は荷物などを出して逃げる準備はしているのに、危機感を持っていないように見えました。あれはどういう心理なんでしょうか?

「普通の火災であれば、一カ所で火事が起こるだけですが、地震火災の特徴は、同時多発火災で、いろんなところで火事が起きてしまうんです。しかし、その状況を当時は誰もがラジオを持っている時代ではないので把握できていないからこそだと思います」

――まだラジオがない時代なんですね!

「今だったら火事が起きていることをテレビやラジオなどで伝えてくれて、あそこでもここでも火事が起きていると分かりますが、当時、平場にいた人は、目の前の火事だけ見ていると、『ここで火事が起きているから逃げればいいや』と。実は火災って、普通はそんなに延焼速度が速くないんですよ。普通の火事だったらゆっくり広がっていくので、ゆっくり逃げても間に合うのですが、当時は、周りで火事が起こっていることも分からない。さらに、強い風が吹いていて、普段よりも速い速度で火が燃え広がってしまったことがあって、人々が火災に囲まれ、逃げ場を失ったのではないかと専門家も分析しています」

「NHKスペシャル」関東大震災発生からの3日間を高精細・カラー映像で再現! カラー化で判明した驚きの事実とは?

――番組では、映像以外に証言音声も登場しました。あれもNHKにあった音声なのでしょうか?

「30年ほど前の1990年代に災害の研究者が、当時を体験した方に聞き取りを行った研究としての聞き取り調査のテープです。先ほどもお話した10年前に制作した『NHKスペシャル』の取材の過程で、証言を取られた研究者の息子さんを経由して、入手させていただいていた記録になります。実は10年前はまだ語っていただける生存者がいらっしゃったんです。ただ、100年経つ中で、いまだご存命で語っていただける方はそうそういらっしゃらない。やはり、人の言葉で語る力の大きさは、お聞きいただいたらすごく伝わると思いますが、非常に生々しいですよね。1990年代に聞き取りをされた記録ですが、昨日起きたかのように語られている。客観的な事実や自分たちの思いも語ってくださっている、非常に貴重なものになので紹介しました」

――今回、初めて登場した音声なんですね。大正時代にとられた音声なのかと思うくらいリアルで、ついこの間体験したことを語っているように聞こえました。

「30年前のテープなので、取材対象の方にしてみると、70年前の出来事だったのですが、体感として、それだけすごい地震だったと感じていらっしゃったということです。30年経っても事細かに覚えているほど、本当に生涯忘れられない衝撃的な出来事だったんだろうなと思います。それだけにそういった方々の声を受け取って、次の世代に渡すことが番組の意義でもあると思います」

――証言記録の中で、特に注目してほしいところはどこでしょうか?

「すべてのシーンについて詳細に語ってくださっているのですが、中でも、その場にいないと分からない群集事故でしょうか。一部映像もありますが、橋に人が密集していて、橋に押し付けられていたことなどは、体験した方でないと分からないので。それは火災旋風も同じで、映像に撮られていないんです。今の時代だったら、スマートフォンで誰でも撮れますが、当時は本当に限られた映画のカメラマンだけが映像を回していた状況なので、シビアな現場は映像がないけれども、生き残った方々が語ってくれることで私たちは知ることができるんです」

――限られたカメラマンが映像を回していたとのことですが、震災の映像は偶然の産物ということですか?

「当時は映画社がいくつか立ち上がっている時期で、先ほど言ったように、テレビももちろんない時代で、ニュースを伝えるのは写真と記事で構成する新聞社だけだったんです。だから、当時の映画のカメラマンたちは、使命感を持ってカメラを持ち出して、燃えている現場にある意味、決死の覚悟で撮りに行ったということになります。番組でもご紹介しますが、カメラマンの1人は、音声が少し残っていて、ずっと撮り続けているのには、後世に残しておきたいという思いがあったみたいです。その気持ちを私たちが受け取って、それをより良い形で届けられたし、これからもずっと長らく見ていただく番組にしたいなという思いです」

――最後に注目してほしいポイントをお願いします!

「巨大災害が起きると、こういうことに直面するんだと、感じ取っていただきたいです。それぞれのシーンで、今だったらどうなのかなと考えたり、今後、震災が起きた時に、ここを注意しておかなくてはいけないんだと、100年前の関東大震災が示唆するものをくみ取って、感じ取っていただきたいです。『地震は防げないけれども、震災は人の力で防ぎ止める』と当時の地震学者が言っているのですが、日本は地震からは逃れられない国で、東京でも首都直下地震が、近い将来、起こる可能性も高いと言われている中、少しでも被害を減らすために、何ができるんだろうかと考えていただけるとうれしいです」

――ありがとうございました!

【番組情報】

NHKスペシャル「映像記録 関東大震災 帝都壊滅の三日間」 
9月2日 午後10:00~10:49 
9月3日 午後9:00~9:49

NHK担当 K・H



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