【推しの作家さま】「何曜日に生まれたの」野島伸司2023/08/31
ドラマになくてはならない存在である作家=脚本家を深掘りする、国内有数のドラマ専門メディアサイト「TVガイドみんなドラマ」のコラム「推しの作家さま」。こちらをTVガイドWebでも展開。今回は、テレビ朝日系で放送中のドラマ「何曜日に生まれたの」の野島伸司氏を紹介。
ドラマの中に感じるリアルな日常。野島作品が支持される理由
70年におよぶテレビドラマ史の中で「一世を風靡(ふうび)した」と言われる作家はそう多くないが、野島氏は間違いなく「一世を風靡した」ドラマ脚本家の1人だ。テレビドラマが一つのピークを迎えた1990年代前半頃に「愛しあってるかい!」(89年/フジテレビ系)、「101回目のプロポーズ」(91年/フジテレビ系)、「愛という名のもとに」(92年/フジテレビ系)、「高校教師」(93年/TBS系)、「ひとつ屋根の下」(93・97年/フジテレビ系)などの大ヒット作を連発。その後も、「未成年」(95年/TBS系)、「聖者の行進」(98年/TBS系)、「世紀末の詩」(98年/日本テレビ系)、「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」(2001年/TBS系)、「プライド」(04年/フジテレビ系)などの話題作、時に問題作を多数世に送り出し、ドラマ界に“野島伸司の時代”をつくり出した。
そんな野島作品のヒットは、その後のドラマに大きな影響を与えた。一つは、登場人物たちのセリフの躍動感。「何曜日に生まれたの」にも出演している陣内孝則や、小泉今日子が出演した「愛しあってるかい!」での登場人物たちの自由な生き方やライフスタイル、何よりそれまでのテレビドラマにはなかったセリフのテンポとリズム感に、当時の若者たちは憧れ、共感した。ドラマのセリフが、当時のリアルな日常にアップデートされた感じだろうか。「これは自分たちのドラマだ」と思えたのだ。このような、ドラマの言葉を現実にアップデートさせていく作業は、その後も宮藤官九郎らによって引き継がれていくことになる。
二つ目は、ドラマに漂う、ある種の不吉さ。「高校教師」に顕著な、リリカルな清涼感と不穏な兆しが同居する独特のムードは、確実にその後のテレビドラマを変えた。90年代以降、家族や学園の日常を描くドラマにいびつな価値観が入り込む作品が増えたのは、震災や事件の影響だけではなく、野島作品の影も色濃く反映されている。
見る者それぞれの“あの頃”を思い出させる主題歌
もう一つ、野島ドラマといえば主題歌だ。どちらかといえば演出の領域にある主題歌が常に話題に上がるのも、野島作品ならでは。「高校教師」の森田童子や、「未成年」のCARPENTERS(カーペンターズ)、「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」のABBA(アバ)、「プライド」のQUEEN(クイーン)など、野島ドラマの主題歌になってリバイバルヒットを記録したアーティストは数え切れない。往年のヒット曲をドラマの主題歌にするという手法は、今では一つの定石になっているが、そのきっかけが野島作品の成功にあったことは間違いない。そして、「何曜日に生まれたの」にこれらの要素がすべて反映されていることにも驚かされる。The Hollies(ホリーズ)の「Bus Stop」のイントロが流れるたびに心が躍り、往年の野島作品を楽しみにしていたあの頃を思い出す。
そして今回、最も強調したいのは、90年代の名作群の存在が、今の野島作品を語る上での目くらましになっているということだ。90年代から活躍している脚本家の中には、自らや視聴者層の年齢に合わせて作風を移してきている人も多いが、野島氏は常にその時代の若者たちをターゲットにする書き方を変えていない。特に2010年代以降の佐藤勝利主演「49」(13年/日本テレビ)や、鈴木梨央&岸優太主演「お兄ちゃん、ガチャ」(15年/日本テレビ)の斬新さは、明らかに野島ドラマの新たなステージを告げていた。
そこからさらに、野島氏は主戦場をHuluやFODなどの動画配信サービスでのドラマへとシフトしていく。「何曜日に生まれたの」の企画・プロデュースを務める清水一幸氏とは配信作品でタッグを組んできており、今回は満を持して、今の若者たちに向けたドラマを地上波で、という思いを共有しているのだろう。
コミカルな主旋律×アフターコロナ、相反するものの共存
結論から言えば、「何曜日に生まれたの」は90年代の野島作品の延長線上というよりも、近年の“シン・野島ワールド”の流れの中にある。特にアフターコロナというタイミングの妙が大きい。マスクの着用も個人の判断にゆだねられた今、コロナ禍をドラマで描く、というアプローチが登場し始めた。コロナ禍が特に若者にとって、どれだけ大きな出来事だったか、未来にどんな影響があるのかは、まだ誰にも分からない。このドラマは、そんな若者たちの不透明な未来に向けてこそ作られているのかもしれない。
YU演じる雨宮純平の俺様全開セリフにミステリアスな表情
落ち目の漫画家・黒目丈治(陣内)が、編集長・来栖久美(シシド・カフカ)の命令で、売れっ子ラノベ作家・公文竜炎(溝端淳平)と共に“コモリビト”(引きこもり)の娘・すい(飯豊まりえ)をモデルにした新作に挑む、という主旋律のコミカルさは、さすがの野島スタイル。往年の野島世代にも親しめるキャスティングが光るが、興味深いのはやはり、すいの同級生たち。特にサッカー部の元エースで、今や化粧品会社の常務である雨宮純平(YU)のあやしく謎めいた表情。このミステリアスさ加減は、かなり魅力的だ。このまま俺様感全開で推移するのか、それともどんでん返しがあるのか? 二転三転して行くのか?
第3話まで放送された今、この先どうなるのか、皆目見当がつかない。すいが、だいたい皆に「ナンウマ?(何曜日に生まれたの?)」と聞いて回っているのに、曜日占いが全然出てこない、相性が分かると面白いのに…(笑)。ということで、以前の野島作品を楽しんだ人もそうでない人も、先入観抜きで今の野島ワールドを楽しんでほしい。
【番組情報】
「何曜日に生まれたの」
テレビ朝日系
日曜 午後10:00~10:54
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