何げないシーンの積み重ねで若者たちのいとおしい瞬間を切り取る――「スイートモラトリアム」プロデューサーインタビュー2023/07/11
TBSの深夜ドラマ枠ドラマストリームにて放送中の「スイートモラトリアム」。本作は累計1800万ダウンロードを突破し、人気漫画家の新作連載が無料で読めることで大好評のマンガアプリ「マンガボックス」で連載していた、たまいずみ氏による同名漫画を実写化した作品。
社会的な責任や義務を果たすことを猶予された、自分探しのための試行錯誤の時間=“モラトリアム”。そんなモラトリアム期の若者たちが悩み傷つき、もがきながら成長する姿を描く、じれったくて切なくて甘い等身大のラブストーリーです。
ここでは、本作を手掛けるプロデューサーの近藤紗良さん、スーパーバイジング・プロデューサーの久保田修さんにインタビュー。映像化にあたりこだわった点や、メインキャストの魅力などについて語っていただきました。
――初めに、原作漫画と出合ったきっかけや最初に読んだ際の感想をお聞かせください。
近藤 「原作を以前読んでいたことがあって、たまたまTBSさんから企画のご相談がありました。主人公の柏木心(鈴鹿央士)が、元カノと今カノと3人暮らしするというエッジの効いた設定が非常に面白いなと思ったのが、作品の最初の印象でした。また、3人がそれぞれ小さな闇を抱えていて、誰かに認めてほしい気持ちから他者に依存してしまうところなどが、現代の若者特有の一面が描かれていると感じました」
――原作からドラマ化するにあたり、オリジナルの設定にした部分はありますか?
近藤 「原作だと大森りんご(小西桜子)が雑誌のモデルとしてデビューしているのですが、現代の若者はどちらかというとインフルエンサーの方がなじみがあるだろうということで、変更させていただきました」
――ほかにも映像化するにあたって差別化したところはありますか?
近藤 「ドラマの方が原作よりも尺が短い中で物語を描いていかなければならないので、キャラクターをより特徴づけるような設定を加えています。例えば、上条小夜(田辺桃子)には心理学部という設定、しげ(葛西繁人/中島歩)には古着屋だけでなく、アパレルブランドを起業しているという要素を加えています」
――メインキャストの鈴鹿央士さん、小西桜子さん、田辺桃子さんのお芝居や、現場での様子はいかがですか?
近藤 「3人ともとてもお芝居が上手なので安心感があります。クランクイン前に5日ほどリハーサルを行ったのですが、そこでコミュニケーションを取り合っていただけたことで、通常の撮影よりも早めに打ち解けた雰囲気を作り出していただけたと思います」
久保田 「一般的に深夜ドラマで5日もリハーサルを取ることはほとんどありません。しかし本作では、田中広紀役の若林時英さんと葛西繁人役の中島歩さんを含めた5人にご協力いただいて、しっかりと時間を取ることができました。クランクイン前の段階からそれぞれのキャラクターをしっかりつかんだ上で撮影に入っていただけて、本当に良かったと思います」
――主演を務める鈴鹿さんの特に印象に残っているシーンがあれば教えてください。
近藤 「第1話の小夜とのキスシーンがすてきでした。女の子に対して見せる少し情けない心の姿に、鈴鹿さんのもつチャーミングさや柔らかい雰囲気が合わさって心のさまざまな魅力を表現できたシーンになったのではないかなと」
――鈴鹿さんは色気のあるシーンに挑戦するのは今回が初めてとのことでした。現場ではどのような様子でしたか?
近藤 「まずは、本作で初めてのことに挑戦していただけてありがたい限りです。現場では特別に意識されていた感じはなく、とても自然体で、緊張もされてなさそうだなと思って見ていました。鈴鹿さん自身が柔らかい雰囲気をもった方なので、色っぽいシーンでもいやらしくならず、心のキャラクターにもぴったりでした」
――小西さんと田辺さんの印象に残っているシーンもあれば教えてください。
近藤 「小西さんは、第6話で高校生のりんごが、心に対して自分の感情をぶつけるシーンが素晴らしかったです。原作では、りんごの複雑な家庭環境や心との関係のすれ違いを丁寧に描いているのですが、ドラマでは尺の関係でそういった部分をやむなく省いてしまっているんです。そんな中でも迫真のお芝居をしてくださったおかげで、描ききれなかったりんごのバックグラウンドを表現できたのではないかなと思います」
久保田 「小夜は、一歩間違えるとただの真面目でつまらない女の子で終わってしまうキャラクター。田辺さんは、ある意味、一番普通の女の子をものすごく魅力的にしてくれました。それって意外と難しいことなので、田辺さんが上手に演じてくださったことで本当に助けられました。女の子が抱えるジェラシーを胸の内に秘めながら、一方では真面目にしか生きられない小夜を、清潔感を保ったまま演じてくれました」
――3人の演じ分けは本当に素晴らしいですよね。
近藤 「そうですね。台本と原作を深く読み込んでいただいていて、キャラクターの多面性を上手に表現してくださっています」
――キャストの皆さんにリクエストしたことはありますか?
近藤 「監督が特にこだわっていたのはお芝居のテンポ感。相手とのセリフの間を、監督のビジョンを元に細かく詰めていきました。それによって、映像でも気持ちのよいテンポで会話が繰り広げられていると思います」
久保田 「玉田真也監督は気持ちの面の演出はもちろん、テンポ感などの技術的な部分も含めて出来上がりの映像を想像し、構成を考えてくださるんです。気持ちだけを説明する演出ではなく、具体的な指示を出してくれるので、キャストの皆さんもやりやすかったんじゃないでしょうか」
最終話に向けて丁寧に描いているのは「心たちが自分が何者であるかを模索し葛藤する姿」
――近藤さんはドラマ作品を手掛けられるのがほぼ初めてとお聞きしました。あらためて、本作はどんな作品になりましたか?
近藤 「本作はラブストーリーがメインですが、その中で若者たちの不安もすくい取って描けたらいいなと思いながら制作したので、そういった目標は達成できているのではないかなと思っています。“モラトリアム”という言葉がタイトルについている通り、心たちが自分が何者であるかを模索し葛藤する姿は、最終話に向けて丁寧に描きたいと思っているので、ぜひ多くの方に見ていただきたいです」
――映像としてこだわった点についても教えてください。
久保田 「本作は普段映画を制作しているスタッフで作っていることもあり、映像に粒子を乗せてフィルムルックに仕上げるなどの細かい部分にこだわっています」
近藤 「若者たちのリアリティーある姿を描いているので、華やかな形にすることにもこだわりました。オープニングでは、ポップな音楽に合わせてフィルム写真を見せていく構成にしていたり、エンドクレジットも現場で撮った場面写真を使用したりしています。フィルム写真の活用は今の若い方にも刺さっているようですね」
――お二人の元にはどのような反響が届いていますか?
近藤 「SNSで視聴者の感想を見ていると、キャスティングがすごくハマったなとあらためて実感します。心の気持ちが、最終的にりんごと小夜のどちらに傾くか分からないように描いているので、そこにいい意味でやきもきしたり、悶絶してくださっている様子を知ることができてとてもうれしいです」
――ご自身でも手応えを感じた一押しのシーンはありますか?
近藤 「第3話の心と小夜がラブホテルから帰るシーンがお気に入りです。現場で撮影の様子を見ていた時から、これはいいシーンになるなと思っていました」
久保田 「あのシーンはただラブホテルで結局できなかった2人が、帰路について『じゃあね』って言うだけ。ささいなシーンではありますが、恋に落ちている若い男女にしか持てない特別な空気感を映像にすることができました。ただの段取りになりがちで難しいシーンにも関わらず、2人のお芝居と玉田監督の演出のおかげで、尊くていとおしい瞬間を切り取ることができたと思います。俳優さんや、ストーリーとしての見せ場に重きを置きがちですが、意外と映像ではこういうところこそ大切。何げないシーンの積み重ねが作品の善しあしを左右するんです」
――では最後に、物語終盤に向けての見どころを教えてください。
近藤 「第8話からは、いよいよ心、りんご、小夜の3人暮らしが始まります。共同生活の中での人間関係の変化はもちろん注目して見ていただきたいですし、3人の成長もしっかり描いているので、それぞれに起こる出来事も楽しみながらご覧ください!」
【プロフィール】
久保田修(くぼた おさむ)
C&Iエンタテインメント代表取締役。岩井俊二監督作「スワロウテイル」で映画プロデューサーをスタート。主なプロデュース作品として、映画「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「NANA」「ソラニン」「のぼうの城」など。最近では映画「ドライブ・マイ・カー」エグゼクティブプロデューサーを務める。
近藤紗良(こんどう さら)
C&Iエンタテインメントのプロデューサー。ドラマ「スイートモラトリアム」「ガチ恋粘着獣」などでプロデューサーを務める。
【番組情報】
ドラマストリーム「スイートモラトリアム」
TBSほか
火曜 深夜0:58〜1:28 (※一部地域を除く)※7月11日は深夜1:13〜1:43
※U-NEXTでは各話地上波放送の1週間前毎週火曜正午に先行有料配信中
※地上波放送後、TVer、TBS FREEにて各話無料1週間見逃し配信あり
TBS担当/A・M
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