「どうする家康」正室・瀬名が殿に思いを託し、自害。有村架純「瀬名がいなくなった後、殿がどのように変わっていくのかを楽しみにしています」2023/07/02
第25回(7月2日放送)の大河ドラマ「どうする家康」(NHK総合ほか)では、武田四郎勝頼(眞栄田郷敦)の裏切りにより、瀬名(有村架純)と松平信康(細田佳央太)の壮大な“はかりごと”が世に知れ渡ってしまいます。徳川家康(松本潤)は愛する妻と息子を救うべく奔走しますが、2人は自害の道を選びました…。
今回は、瀬名を演じる有村架純さんに、初めての大河ドラマ出演に対する感想や築山殿事件への思い、これまでの撮影で印象に残っていることなどをお伺いしました!
――初めての大河ドラマでしたが、撮影でどんなことが印象に残っていますか?
「クランクインした時は、第6回(2月16日放送)の『続・瀬名奪還作戦』まで集中しないといけないシーンの連続で、緊張感があって。撮影が進めば体がなじんでくると思っていたのですが、緊張感は全然消えませんでした。私は緊張するとあまりしゃべれなくなるので、現場でも静かに過ごすことの多かった半年間でもありましたね。瀬名のシーンは一つの週にまとめて撮影することが多く、撮影がある日は朝から夜まで、ものすごく濃密な時間を過ごしてきました。彼女のシーンはすべて重要で、心情のつながりをパズルのように組み立てながら撮影していたら、あっという間にここまで来た感覚です。その後、第18回、第19回あたりから第25回まで、瀬名の“はかりごと”を怒濤(どとう)のように撮影していたので、それはどのシーンも色濃く残っています」
――印象的だったのはどんなシーンですか?
「第19回(5月21日放送)の、初めての夫婦げんかをして、瀬名が『あほたわけ』と言い放つシーンです。最初で最後の夫婦げんかで、瀬名は言いたいことはいっぱいあるんだけど、きっと我慢していて。いつもは相手を尊重する気持ちがあるから見守ることに徹しているけど、そのシーンだけは瀬名の怒りの感情が見えてすごく面白かったです」
――コミカルなシーンもありましたよね。
「第10回(3月12日放送)の側室選びのあたりはテンポ感がありました。みんなでワイワイするシーンもあって、家臣団の方たちと一緒にいる時は、本当に仲良く皆さんでずっとおしゃべりされているので、私も少し入らせてもらったりそばで見ていたりと、程よい距離感でいられたので、そういう楽しげな空気感を味わえたのはよかったです。ほかにも、岡崎城で松嶋(菜々子)さん演じる於大の方とやりとりをするシーンでは、たぬき顔のメークを施してもらいましたし、本證寺で踊っているところに殿(家康/松本)に出くわしてやりとりをするシーンは、楽しくお芝居させてもらって、ほっこりする時間でした」
――松本さんが演じる家康の魅力的なところを教えてください!
「今までの大河ドラマで、こんなに感情豊かな武将を見たことがなくて。泣く時にはものすごく泣くし、うれしそうな時はすごくうれしそうで、何かをごまかしたい時はごまかすのがだだ漏れしている。人間としていとおしいキャラクターを松本さんがご自身にしっかり落とし込んで演じられていて、こんなに素直な家康を見たことがなかったので、それが魅力的でした」
――撮影で悩んだ時に松本さんとお話することはありましたか?
「芝居の上での細かい話はしませんでしたが、撮影するにあたって、どういう方法だったらベストパフォーマンスができるかを監督と交えて相談させていただきました」
――家康の母・於大の方は家康が優しいからあえて厳しく育てたようですが、瀬名は家康の優しさを分かった上でどのように接していたと思われますか。
「何かあった時にそっと手を差し伸べる。歩いているのをずっと横で見ながら、何かにつまずきそうになった時に、さっと止めるサポートをするような感覚といいますか。なるべく殿の言うことを否定したくないという思いがあって、相手のいいところをたくさん伸ばしていく感じでした。そうはいっても人間だから、たまにぶつかることもあるし、『ん?』って思うこともあるので、そこは悟すように言っていました。暴走しそうな殿をちょっとチクチクと刺している感じでしたね(笑)。夫婦像としては、瀬名が上に立つのではなく、あくまでも後ろにはいるんだけども、その人がいなくなっちゃうと困るくらいの感じで演じていました」
――相思相愛で結ばれたすごく仲のいい夫婦ですが、客観的に見てどんなところが魅力的な夫婦だと思いますか?
「脚本の古沢(良太)さんが、『瀬名は現代女性に近いかもしれません』とおっしゃっていたのですが、本当に現代の感覚に寄り添った夫婦像や感情だったなと。もう少し重厚な緊迫感のある瀬名像を求められていた方もいたかもしれないですけど、古沢さんの台本からはそういう温度感の瀬名が読み取れました」
――瀬名には大変な出来事が数多くありましたが、そんな中でも最大の山場である築山殿事件のシーンが近づいてきた時の心境を教えてください。
「瀬名の“はかりごと”がいよいよ来るとドキドキしていました。その時があっという間に来てしまったので、私も心して挑まないと、という緊張が走りましたし、第23回から25回のあたりはすごく構えて現場に入っていました」
――そのあたりを振り返って、まずは第23回(6月18日放送)で瀬名が息子・信康(細田佳央太)に“はかりごと”を伝えるシーンで、細田さんと相談したことはありましたか。
「言葉を交わさなくとも、細田くんの中に信康という人物がしっかりと息づいていたし、瀬名として信康から漏れる心情を現場でずっと見ていたので、芝居についてはあまり多くは話していません。気持ちと動きがリンクしづらそうな時は『今の大丈夫?』などとお声掛けをしましたが、基本的にはお互い信頼し合いながらお芝居ができました」
――瀬名は信康をどのように育てていたと思いますか?
「瀬名が両親に育ててもらったように、相手を尊重する育て方だったんじゃないかと。決して否定をしない感じがして、怒る時はもしかしたら殿に任せていたかもしれません。あまり手がかからない子だったんじゃないかと思いました。亀ちゃん(當真あみ)の方がもしかしたら手がかかったかもしれませんね(笑)」
――強い武将ではなく、人間的に強くなってほしいと。
「殿は強い武将になってほしい気持ちがあったかもしれませんが、それは殿の分野だと認識していたんじゃないかと思います。夫婦の中でも役割が自然にできていて、瀬名は人間的な強さを教えたような気がします」
――瀬名が“はかりごと”を企てた理由についてはどのように考えていますか?
「殿や監督と話していた時に、瀬名の“はかりごと”の根源にあったのが殿で、彼女の中で殿が常に中心にいた人だったとあらためて感じました。殿が駿府にいた時からずっと内に秘めていた戦のない世を作るという思いを傍らで見ていた瀬名は、殿と会っていなくても、いろんな人が戦でいなくなることに対する気持ちや悔しい思いを感じ取っていて、女の自分ができることは殿の夢を一緒に追いかけることだと思って“はかりごと”を企てたと考えています」
――家康のためだけではなく、信康が僧を殺してしまった姿を見て決意した側面もあったのでしょうか。
「そうですね。やはり最愛の優しい息子が人をあやめるなんて異常じゃないですか。それが格好いいといわれる時代で、仕方ないことかもしれないけど、信康の精神が崩壊してしまっている以上、ただごとではないと感じて。彼が抱える心の負担を受け止めて、殿の夢も息子も守ろうとする正義、使命感みたいなものがあったのかなと思っています」
――築山殿事件では信康とともに奮闘してきた瀬名ですが、母親としての信康に対する思いはどのようなものだったと思われますか?
「信康と一緒に死ぬつもりはなく、何か策を立てて、生き抜いてもらおうと考えていたはずです。信康が精神的に苦しんでいるところをずっと見ていて、どうすればこの子の気持ちが救われるだろうかと考えた時、殿の夢でもあり、信康が望んでいることでもあった争い事をなくすことしか方法がなくて。瀬名が愛する家族のために、これだという自分の中に思い浮かんだ方法を迷いなく実行していったのかなと演じながら思っていました」
――第24回(6月25日放送)では、瀬名が家康や家臣団たちに“はかりごと”の真意を語るシーンがありましたが、演じていかがでしたか?
「すごく緊張しました。人を説得するってとても難しいんですよね。ただ言うだけじゃなく、内容に筋が通っていて熱量がないと、相手の心を動かせない。でも、瀬名は熱量が高いタイプではないし、かといって普通に言うのも違うので、本当に難しかったです。長いセリフの中のどこに温度を加えるべきかを考えました」
――そして迎えた第25回の築山殿事件。多くの視聴者がどんな展開になるのかと楽しみにしていた前半の山場の一つでしたが、展開を知った時にどういう感情が湧きましたか?
「こういう結末になったのかという驚きもありましたし、納得する部分もありました。古沢さんが瀬名のラストスパートに向けて、すごく力を込めて書いてくださったそうで、古沢さん自身もしんどかった、苦しかったと監督つてに聞きました。そんな思いをして描いてくださった第25回の台本には、瀬名の人物像や瀬名の持つ愛情が集大成として落とし込まれていると思いました」
――家康との別れのシーンはどんな思いで演じましたか?
「最初に台本を読んだ時に涙が出てきて、自分でもびっくりしました。台本は大河ドラマの厳かな雰囲気がありながらも、少し現代的な部分を感じ取れるものでした。戦国時代を生きている人たちにとって、潔く死ぬことが格好よいというイメージがありますが、その中でも生きたい、死にたくないという思いが表現されていたシーンで、現代を生きる自分たちに寄り添っている台本のような気がします。そんな中、瀬名が自害する時は、どんな表情がいいのだろうかとものすごく悩みました。一貫して慈愛の心を持っていた女性だったので、家族や最愛の人との別れに対する迷いと覚悟は、表現としてはあった方がいいのかなと思いながら撮影させていただきました」
――台本を読んで涙が出てきたとのことですが、どんなところが特に胸に響いたのでしょうか?
「瀬名が信康と一緒に覚悟をして企てていく、第23回の終わりくらいから第24、25回の流れは気持ち的に積み上げていったんですが、瀬名の殿に対する精いっぱいの思いや殿と過ごした日々だけでなく、史料には残らない瀬名の本当の気持ちにも思いをはせながら読んでいたら、グッとくるものがあったんです」
――瀬名の最期を演じるにあたり悩みながら撮影したとのことですが、どんなことを悩んだのか具体的に教えてください。
「瀬名の気持ちとしてはあまり動かない方がよいと思っていたので、監督の希望する動きとの兼ね合いを考えたり、動きながらどう気持ちを作っていくかをギリギリまで練ったりしていたので、緊張感がありました。また、本当に長いシーンで、当日はみんなで気持ちを一つにして撮影ができたんですが、そこに向かうまでの自分の精神力や集中力と戦うのに苦労しました」
――ご自身との戦いもあったんですね。
「そうですね。また、台本で先のことを知っているので、早い段階で鼻がつんと来ることがあったのですが、物語上、そこまで感情を積み重ねるのはまだ早いということもありました」
――第25回の終盤には木彫りのウサギが登場し、瀬名が「よいですか。ウサギは強うございます。オオカミよりもずっと強うございます」と言いながら家康に渡しました。この言葉をどのように解釈されましたか?
「第17回(5月7日放送)で、弱い心を置いていくとウサギを預けた殿に対して、瀬名が『いつか必ず取りに来てくださいませ』と見送ったのは、弱い心のウサギがレベルアップして強くなった時に受け取りに来てほしいという思いがありました。実は、その時に監督が手を握って指に口づけをしてほしいとおっしゃったんですが、かつての弱い殿とは違う戦う覚悟を決めた姿がそこにあったから、そのおまじないをしなくていいんじゃないかと思ったんです。だから、第17回では殿は背中で語るだけで、瀬名はその背中を受け止めるだけのシーンになったんです」
――そんなことがあったんですね。
「なぜ瀬名が自害をすることを決めたのかといえば、誰かのためにひたむきに戦い続けてたくましくなっていく殿の姿を見てきたからというのもあると思うんです。殿を置いて1人で死ねないと思ったら迷いも生まれていたけれど、今の殿なら絶対に大丈夫という気持ちで、『オオカミよりも強うございます』というセリフに気持ちを全部乗せたところ、殿の立派になられた姿や、信じている殿に対する思いがあふれて自然と涙がこぼれました。それは私の中で気持ちがうごめいた瞬間でした」
――最期、瀬名に後悔はなかったのでしょうか?
「命を懸ける覚悟をしていた瀬名でしたが、殿が絶対に死なせないと言ってくれたことは、すごくうれしかったと思います。“はかりごと”については、こんなことできるはずがないという思いと、成功するかもしれないという淡い期待の両方の気持ちがあったけれど、あっという間に世に広まってしまって。落胆も絶対あったし、瀬名も心の奥底では死にたくない、一緒に生きていたいという思いがあったと想像します」
――大河ドラマ初出演にして重要な役どころを演じられましたが、本作出演はどのような経験でしたか?
「時代劇は難しいことの連続だとあらためて思いました。私にはまだ足りないものがあることを周りの役者さんを見ても感じましたし、本当に毎日勉強の連続で。『瀬名は現代の女性に近いのかもしれない』という古沢さんの言葉から、戦国時代と現代を結ぶ役割を担わせていただいていると解釈していたので、どこまで重みを持たせるのか、どこまで軽やかに見せるのかというバランスが自分の中でも課題で、毎回探りながら瀬名という役に向き合いました。瀬名はすべてを受け止める縁の下の力持ちのような役で、これまで演じてきた役柄とはまた違った役に出会えた実感があります。私自身30歳という節目で大河ドラマに初めて出演できたことは、自分の中では大きく、振り返った時に必ず思い出すであろう作品になりました」
――瀬名を長く演じたことで、1人の女性としても影響を受けたことがありましたら教えてください。
「本当の強さは穏やかでいることなのかなと思いました」
――有村さんご自身が穏やかな印象ですが…。
「瀬名ほどではありません(笑)。どんなことがあっても穏やかにいようとするその心が、もうすでに強いというか。私はまだそこまで心が鍛えられていないので、瀬名を見ていつも本当にすごいなと」
――クランクアップから少し時間がたったということですが、すべてを撮り終えた今の気持ちをお聞かせいただけますか。
「第25回の最後のシーンを撮り終えた時に達成感があったというか、無事に終えられて本当にホッとしました。築山殿という女性が報われたらいいなという気持ちにもなりました。最期は自害することになりましたが、自分で選んだ道なので、恨みつらみの感情はあったとしても、ごくわずかだったと思います」
――撮影が続く松本さんにエールをお願いします!
「松本さんも瀬名との別れのシーンを撮ってから、力が入らない、抜け殻みたいなんだよねとおっしゃっていて。一つの節目が終わって、ここからまた次の章が始まります。1年半はすごく長いですし、精神的にも体力的にもご自身との戦いでもあると思うんです。撮影が昨年6月に始まって、今年1月の放送まで世の中の反応を見られずに撮影し続けるのはつらかったでしょうし。台本が最後までないという不安定な環境の中、自分自身を保ち続けるって大変なことです。そんな中、現場で真ん中に立って、皆さんに声をかけて引っ張ってくださるので、いつもすごいものを背負われていると感じます。だから、撮影がない休みの時にお友達などにいっぱい会って、気分転換をしてほしいです。これから関ヶ原の戦いなどもあって、物語の空気も変わっていくと思います。瀬名がいなくなった後、殿がどのように変わっていくのかを楽しみにしていますので、どうか皆さんに助けられながら、最後まで健康に乗り越えていただきたいです」
――ありがとうございました!
【プロフィール】
有村架純(ありむら かすみ)
1993年2月13日生まれ。兵庫県出身。みずがめ座。B型。2010年、「ハガネの女」(テレビ朝日系)でドラマデビュー。15年、映画「ストロボ・エッジ」「ビリギャル」で主演を務め、「ビリギャル」で日本アカデミー賞優秀主演女優賞・新人俳優賞をダブル受賞。21年、映画「花束みたいな恋をした」では日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。23年2月23日からNetflixにて映画「ちひろさん」が全世界配信中。
【番組情報】
大河ドラマ「どうする家康」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BS4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BSプレミアム
日曜 午後6:00~6:45
NHK担当/K・H
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