ニューヨーク「みんな花火したいと思ったのに」。史上最大規模の単独ライブを前に、過去の迷走を振り返る【ロングインタビュー前編】2023/06/28
2010年に結成し、「M-1グランプリ」や「キングオブコント」といった賞レースでその名を全国に轟かせたお笑いコンビ・ニューヨーク。芸人の中ではいち早くYouTubeを開設してラジオ番組を毎週配信したり、吉本興業の養成所内での出来事を題材にしたドキュメンタリー映画「ザ・エレクトリカルパレーズ」をそのYouTubeで公開し、多方面で大きな反響を呼ぶなど、新しい“面白いこと”を次々と仕掛けている。バラエティー番組でもその姿を見ない日はない。タレントとして他の追随を許さない、圧倒的な華を感じさせる。
そんなニューヨークだが、年に一度、必ず単独ライブを開催している。7月12日に幕開けとなる「虫の息」は、自身最大規模。全国5都市14公演で、延べ1万人以上の動員をもくろんでいる。さまざまなフィールドで存在感を示す2人だが、ネタに向き合い、熱意と時間をかけて挑む理由がある。
「お客さんをしっかり集められる芸人でおれるように、単独ライブはやっとかんとっていう感覚」。
嶋佐和也さん、屋敷裕政さんの2人に、単独ライブに込める思いや、“迷走”した時期について語ってもらった。
結成当初から、ネタ作りは絶対に2人で
――7月よりスタートする単独ライブ「虫の息」は、史上最大規模での開催。延べ1万人以上を動員する単独ライブとのことですが、この規模での開催を決めた理由を教えてください。
屋敷 「自分たちとしては毎年ちょっとずつステップアップできたらええなくらいの感覚やったんですけど、マネジャーからの『去年5500人の動員だったので、切りよく1万人目指しましょう!』という後押しもあって、会場が決まっていった感じですね。今、ちょっとビビッてます」
嶋佐 「こういうふうに取材をしていただいて、やっと気づいたというか。『だいぶ規模大きくしすぎたかな』って思ってます。公演数も全14公演で、なかなか大変だなと。これで夏、半分くらい終わりますから」
屋敷 「結構、みんな負けじとやってますもんね。さらば青春の光さん、空気階段も全国ツアーやってるし、見取り図さんも夏からツアー始まるし。もう始まっている、さらばさんや空気階段がうらやましいです。始まったってことは、ネタができたってことじゃないですか。僕らは今日も朝にネタ合わせしてきたんですけど、一番『大丈夫かな?』っていう時なんで、早く終わってほしいです(笑)」
――今はネタを作っている段階ですか?(取材は5月末に実施)
屋敷 「そうですね。絶賛、いろいろ作っている段階です」
――進捗はいかがでしょうか。
屋敷 「ははは!(笑)。まぁまぁまぁ…ヤバいですね(笑)。2人で作ってるんで、なかなか大変です。ちょっとずつしか進んでいかへんから」
――これまでもほぼ毎年単独ライブを開催されてきたお二人ですが、ネタの作り方はずっと変わらず、2人で作っているのですか?
屋敷 「変わってないですね。どっちかが書いたことは一度もないです。どっちか1人が書いたネタをやるとかも、今までで1回もないです」
嶋佐 「僕ら2人に、作家さんを交えて。そのやり方でずっと作ってますね」
屋敷 「『どっちかが書こうぜ』みたいなんは、お互い言わんようにしてますね。絶対嫌やから」
嶋佐 「もう、いっちばん最初からそうでした」
――昨年も開催した東京、大阪、福岡に加え、今年は愛知、北海道にも単独ライブとしては初上陸。新しい土地で開催することへの期待や不安はありますか?
屋敷 「今まで、がっつりした単独ライブをやったのは東京と大阪だけやったんです。『M-1』で決勝にいく前は、新ネタ+アリネタのミニ単独みたいなんを福岡、愛知、北海道で、ゲストを呼んでやっていて。ダイタクさん、空気階段とか、一緒に行きたい人たちと共にライブをやっていた土地ではあったので、この5都市は『いつか、がっつりした単独ライブもできたら』と思っていた場所でした」
嶋佐 「去年は東京、大阪、福岡の3都市だったんで、『今年は五大都市、全部回ろう』と。東京以外だと大阪はしょっちゅう寄席でも行くんですが、それ以外の地方ってなかなかないんで、単独で回れるのはうれしいですね。ただ、どうやら北海道がですね、すごくチケットの売れ行きがよろしくないようで…」
屋敷 「(笑)」
嶋佐 「だからぜひね、北海道の皆さん。記念すべき初の北海道での単独ライブなので、ぜひ見に来ていただきたいですね」
屋敷 「北海道、2公演ありますから。だいぶ無謀なことしてもうたんかな?(笑)。しかも埋め方も分かんないですね。マジで手売りするかもしれないです」
――4都市を回った後、最後は東京で4日間6公演。会場は「東京芸術劇場 プレイハウス」です。
屋敷 「プレイハウスは空気階段もツアーでやっていた会場なんですけど、相当いい場所みたいですね。この前、劇団ゴジゲンの松居大悟がラジオに呼んでくれて話したんですけど、『東京芸術劇場は僕もやりたい会場だよ』って言ってました。男性ブランコの平井(まさあき)も『あそこでやるなんてすごいですね!!』って言ってくれたり。俺、全然分かってなかったんですけど、すごい場所なんやなって。ありがたいです」
単独の動員数は「1年間やってきた結果」
――初単独ライブはちょうど10年前、13年3月に開催した「Sex and New York」。会場は渋谷の∞ホールでしたが、当時のことは覚えていますか?
屋敷 「初の単独で気合入ってましたよ。公演自体は60分やったんですけど、20分くらい押して始まって。すごいたくさんのお客さんが来てくれて、立ち見で芸人もすごい来てくれたんです。なかなかチケットが売れんかったけど、最終的にはあふれるくらい来てもらって、開演が押しに押してもうて。で、同期のデニスと西村ヒロチョが急きょ前説してくれたんじゃなかったかな?」
嶋佐 「そう。同期のいい話よ」
屋敷 「今思えば、アツい話っすね(笑)。デニスとヒロチョがつないでくれて、立ち見には先輩、同期、後輩がずらーっておってくれて。今まで何回も単独ライブやってきましたけど、たぶん一番芸人が見に来てくれたんじゃないかな」
嶋佐 「結構高揚したのを覚えてます。お客さんも満席で。200人ちょいが集まってくれたのかな」
屋敷 「時間も遅かったんです。夜9:30開演とかで、人気者が出るライブが全部終わった後の、おまけの時間にやらしてもらうみたいな。でも結局押して10:00過ぎにスタートして、11:00くらいまでかかっちゃいましたね。懐かしいな」
――準備も大変かと思いますが、お二人とも「単独ライブは毎年やりたい」という考えですか?
屋敷 「そうですね。やらんでええんやったらやりたないですけど(苦笑)。単独ライブをやってないと、なんか…。テレビのお仕事って、いろんな方に助けてもらって、僕らがプレーヤーみたいな立場になるというか。そういう仕事が多くなって自分らで全部考えてやるっていうことがなくなってくると、結構バランスが悪くなっちゃいそうやなって気がするんです」
嶋佐 「お互い、自然と『今年もやろうか』って感じになってるかも」
屋敷 「『今年は単独やらんとこう』ってどっちかが言い出すとしたら、なんかよっぽどのことがあるんやろうなって」
嶋佐 「うん。まぁ、今のところは。あとはやっぱりお客さんですね。ありがたいことにどんどん来てくれる人が増えているので、やりがいもあります。昔は頑張って集めて200人くらいだったのが、今は1万人の規模でやろうとしているわけですから。1万人の前でできるってなったら、そりゃやる価値がありますよ」
屋敷 「そうやな。お客さんをしっかり集められる芸人でおれるように、単独ライブはやっとかんとっていう感覚はありますね。単独の動員数って、1年間やってきた結果というか。分かりやすい数字じゃないですか。だから1万人を掲げておいて1000人しか集まらんかったりしたら、だいぶ凹みます。『今年1年、あんまり良くなかったのか』って」
――テレビのお仕事は、応援してくれるお客さんの存在を感じるのが難しい部分もありそうです。
屋敷 「そうなんです。いろんな方に応援してもらっていても、実感が湧きづらいというか。目の前にお客さんがいるって、一番分かりやすいですよね」
グッズや特典で迷走「もうむちゃくちゃです」
――今までの単独ライブで、印象に残っている年はありますか?
嶋佐 「初めてルミネ(theよしもと)でできた時(14年開催「I LOVE NY」)は、なんか感慨深いものがありましたね」
屋敷 「確かにな~」
嶋佐 「芸人にとってルミネでやるって、アーティストでいう日本武道館でやるようなことなんですよ」
屋敷 「本当にそうです」
嶋佐 「武道館に比べたらだいぶ規模は小さいんですけど、芸人の中ではそういう思いがあるみたいで。いろんな周りの芸人が『すごいね!!』って言ってくれたんですよね」
屋敷 「当時、俺らくらいの芸歴でルミネで単独やる芸人がおらんかったんですよ。田畑藤本の田畑(勇一)さんが、Twitterで『こいつら、とんでもないことやるぞ!』ってめっちゃ褒めてくれたのを覚えてます」
嶋佐 「いざやったら、当日すごい数の芸人も見に来てくれて。脇の、見学の席にぶわーって芸人が集まってたんです。あんな光景見たことなかったです」
屋敷 「しかも自分らのことを好きな人だけでルミネ埋まっとるっていうのは、すごいことやなって。最初舞台に出て行った時、うれしかったですね」
嶋佐 「あとは、グッズもね。グッズ大喜利とかやり始めて…」
屋敷 「変なグッズを毎回出すっていう。水、花、花火、入浴剤…。『ニューヨーク水』っていう水を出したりとか」
嶋佐 「ことごとく売れなかったですね(笑)。最近はね、『グッズもちゃんとしよう』って作るようになったんですけど。結構買ってくださる方もいてうれしい限りですけど、迷走した時期もありましたね」
屋敷 「グッズ会議を幕間のVTRにしたりしてたもんな。むちゃくちゃや(笑)」
――花火は珍しいですね。
屋敷 「『PERFECT SUMMER』っていうタイトルの単独(15年開催)やったんですよね」
嶋佐 「マジ売れなかったな、花火。みんな花火したいと思ったのに」
屋敷 「水が一番ヤバいで」
嶋佐 「売れ残った花火、ほぼしけっちゃった」
屋敷 「(笑)。ペットボトルの水に『ニューヨーク水』って書いて、2人の顔写真載せて。売れんかったな(笑)」
嶋佐 「Tシャツも全然売れなかったんですよ。Tシャツって定番だし、普通売れるじゃないですか?」
屋敷 「でも、席は埋まるは埋まるんですよ。俺らの単独ってお客さんは来るんですけど、とにかく金を使わんっていう(笑)。お客さんも男性ばっかりやったし」
嶋佐 「俺たちを『応援したい』っていうファンが全然いないんですよ。『ネタだけ見せてくれ』みたいな」
屋敷 「俺らは“推し”じゃないんですよ(笑)」
嶋佐 「Tシャツもめっちゃ余った結果、血迷って、おしゃれなデザインにしようとかもやりましたね。『NEW NEW YORK』という単独(18年開催)の時、単独のポスタービジュアルが、僕ら2人と、エキストラの格好いいイケメンの外国人男性の3ショットで」
屋敷 「ボケですよね。全員タキシード着て、格好つけて。タイトルが『NEW NEW YORK』やったんで、ニューヨークが生まれ変わってトリオになったみたいなポスターにしたんです」
嶋佐 「その外国人の顔だけをプリントしたTシャツをグッズで出して。カート・コバーン風の、ロックTシャツみたいな。それが200枚くらい刷って、売れたのが8枚?」
屋敷 「7枚か8枚。衝撃(笑)」
嶋佐 「あれヤバかったな~」
屋敷 「あの時は本当にセンスがなかったんやろな。すべてにおいて」
嶋佐 「あと、ベストネタのDVDを出させてもらったんですけど、その購入特典で俺がプロレス技をお客さんにかけてあげる会もやりましたね」
屋敷 「俺がお客さんにハグで、嶋佐がプロレス技をかけるっていう(笑)。それは会社が企画したんですけど、それに逆らうという発想もなかったんで、甘んじて受け入れてましたね。変なことめっちゃやったよな。それからいろいろ経て、1回ルミネで単独するのをやめて、渋谷の『CBGKシブゲキ!!』っていう会場で『ありがとう』という単独ライブを3日間やったんです(19年開催)。初めての試みで、生まれ変わった気分でやったのも記憶に残ってるんですけど、その時のグッズでスクラッチカードを出したんですよ。500円くらいで、スクラッチを削って当たりが出たら、俺らと単独終わりに飯行けるっていう。もうむちゃくちゃです!!(笑)」
――(笑)。でも、売れ行きとしては…。
屋敷 「それは飛ぶように売れました(笑)。1万円分くらい買ってくれた子もいたって聞きました。その時はTシャツのデザインもお客さんから募集して、採用された方にはニューヨーク旅行をプレゼントしたり」
――ニューヨーク旅行?
屋敷 「ニューヨークまで行ける航空券をプレゼントしました(笑)」
嶋佐 「あと、俺の実家にも来たよな? マジで話題になんなかったけど」
屋敷 「マジで話題にならんかったわ(笑)。なんかのくじで当たったら嶋佐の実家に連れて行くっていう企画で、女の子3人くらいと、俺らと、あともう1人、当時俺らがハマってた伊藤っていう変なやつと、その6人だけで山梨行きました」
嶋佐 「みんなで富士急ハイランド行って、俺の実家行って、母ちゃんが作った飯食って。めちゃくちゃでしたね。それが2018年?」
屋敷 「2019年じゃない? 『M-1』決勝いった年でした、確か。懐かしいな~。そう考えたら、本当に試行錯誤してますね。めっちゃ頑張ってるわ、俺ら!(笑)。あと、カップルシート作ったりもしましたね。カップルで来た人はちょっと安くなるっていう。俺らの単独のお客さんって男性が多すぎたんで、『女の子増やしたいから、女の子連れて来い!』って。ほかにも、女の子をナンパして成功したら、楽屋まであいさつに来ていいとかもやってました。男性のお客さんに『とりあえず女の子連れてきてほしいから、ナンパしてきて!』って(笑)」
嶋佐 「うん。それで本当に楽屋来たし」
屋敷 「でも全部話題にならなかったですね、恐ろしいことに。なんもうまいこといってないっすわ(笑)」
インタビュー後編はこちら:https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-2285743/
【プロフィール】
ニューヨーク
嶋佐和也(1986年5月14日生まれ、山梨県富士吉田市出身)と、屋敷裕政(1986年3月1日生まれ、三重県熊野市出身)が、ともに東京NSC15期生として入学。2010年、コンビ結成。「M-1グランプリ」2019・2020、「キングオブコント」2020・2021ファイナリスト。現在のレギュラー番組は、「まだアプデしてないの?」「マッドマックスTV 論破王」(ともにテレビ朝日ほか)、「ラヴィット!」木曜レギュラー(TBS系)、「超絶限界~ソコまで見せる!?大百科~」(フジテレビほか)、ラジオ「ニューヨーク・小湊よつ葉のマジックミラーナイト」(文化放送)など。7月12日の愛知・名古屋公演を皮切りに、自身最大規模となる単独ライブ「虫の息」を全5都市で開催する。
【公演情報】
ニューヨーク単独ライブ「虫の息」
■名古屋
会場:名古屋市芸術創造センター
7月12日(水)午後6:00開場/午後7:00 開演
■福岡
会場:よしもと福岡 ダイワファンドラップ劇場
7月22日(土)①午後0:00開場/午後1:00開演 ②午後4:00開場/午後5:00開演
■大阪
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
8月5日(土)午後0:00開場/午後1:00開演 ②午後4:00開場/午後5:00開演
8月6日(日)午後0:00開場/午後1:00開演
■北海道
会場:共済ホール
8月11日(金)①午後0:00開場/午後1:00開演 ②午後4:00開場/午後5:00開演
■東京
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
8月17日(木)午後6:00開場/午後7:00開演
8月18日(金)午後6:00開場/午後7:00開演
8月19日(土)①午後0:00開場/午後1:00開演 ②午後4:00開場/午後5:00開演
8月20日(日)①午後0:00開場/午後1:00開演 ②午後4:00開場/午後5:00開演
※8月20日(日)東京芸術劇場 プレイハウス 午後5:00公演の、オンラインチケットが発売中
取材・文/宮下毬菜 撮影/尾崎篤志
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