「私がヒモを飼うなんて」プロデューサー・飯田和孝×佐久間晃嗣、オフショットと共に振り返る制作のこだわりを大公開!2023/05/09
TBSとマンガボックスが共同制作している完全オリジナル漫画「私がヒモを飼うなんて」、通称「わたヒモ」を実写化した「私がヒモを飼うなんて」が、同局の深夜ドラマ枠「ドラマストリーム」で放送中。ドラマでは原作のエッセンスを生かしながら、オリジナルのストーリーを紡いでいます。
今回は、原作の企画・プロデュースを手掛ける飯田和孝さんと、ドラマのプロデューサーを務める佐久間晃嗣さんにインタビュー。気になるキャスティングの理由や、本作ならではのこだわりや楽しみ方などをたっぷりと語っていただきました。
――まずは、ドラマ化の経緯を教えてください。
飯田 「マンガボックスとTBSが協業することになり、2社によるマンガ制作の企画として『私がヒモを飼うなんて』をスタートさせたのですが、普段はドラマを作る仕事をしていることもあり、自然と、いつかこのマンガがドラマ化したらいいなと考えるようになりました。そんな中、『ドラマストリーム』という新しい枠ができたことをきっかけに、あらためてドラマとして出した企画が通ったんです」
――珍しいパターンでのドラマ化ですよね。
飯田 「現在、マンガボックス原作のドラマは何作品もあるのですが、出版社の原作マンガをドラマ化する形態が多かったです。本作に関しては、TBSとマンガボックスが共同で原作から作っている形で、そういった作品をドラマ化するのはTBSでは初めての試みです」
――インパクトのあるタイトルですが、“ヒモ”を題材にした決め手は何でしょうか?
飯田 「『逃げるは恥だが役に立つ』や『王様に捧ぐ薬指』(ともに同系)など、契約結婚をテーマにした物語は何作品も作られていますが、形式上の恋が本当の愛になっていく様子に見どころがあると思いました。契約結婚は基本的に並列の立場であることが多いですが、飼い主とヒモという関係には多少なりとも上下関係があり、面白いストーリーが作れるかもしれないと思いました」
――これまでの同枠ドラマの中でも、完全再生率(最後まで視聴された回数)が高いという話を伺ったのですが、どのような点が理由になっていると思いますか?
佐久間 「原作を読んでくださっている方にとっても次が気になる展開にしたかったので、ドラマオリジナルの展開をかなり増やしています。原作ファンの方にとってもネタバレになっていないことが一つの魅力になっているかも。あとは実尺が21分程度と短く今の時代に即していることや、短い尺の中でも展開はスピーディーに、そして次の話が気になるような展開で終わるように意識しました。それも最後まで再生していただけている理由かもしれません」
――実在するブランドとのコラボレーションによって、作品の世界が現実に近いことも共感性を生んでいると思いますが、その辺りも意識されていらっしゃいますか?
佐久間 「そうですね。もともと原作マンガに多くのリアルな商品が登場していたので、それをドラマにも引き継いでいます」
――マンガの段階からそのようにブランドとコラボレーションをする事例は多いのでしょうか?
飯田 「聞いたところによると、あまりないそうです。漫画家さんからしてみれば、実在の物を描くということは細部まで正確に再現しなければならないので大きな負担になるんですが、今回は共同制作により、漫画家・美園先生と密な協力体制を組めたことで実現できました。マンガボックスは設立間もない出版社なので、これから作品を押し出していく観点も含めて制作体制を強化していく段階だと最初に聞いていました。そこで、TBSの持つプロモーション能力やドラマで培ってきたノウハウを生かし、マンガ作りの段階から実在のブランドさんにも入ってもらって、SNSでもプロモーションしてもらうような形で力を借りたらどうかと思ったのがコラボのきっかけでした」
プロデューサーが語るキャストの魅力…
――本作の主人公・蒼井スミレを演じる井桁弘恵さんの魅力を教えてください。
佐久間 「原作のスミレはすごくピュアでちょっと鈍感なキャラクター。そんなスミレを生身の人間が演じると、キャスティングによっては嫌われてしまうのではないかというのが一番の懸念点でした。そんな中、明るくて聡明で心(しん)が強く、自分の意思を持っているドラマ版のスミレとして主人公をしなやかに演じてくださるだろうなと思いついたのが、井桁さんだったんです」
――撮影ではどのような様子でしたか?
佐久間 「『今の言い方だと、自分だったらイラっとしてしまうかもしれないのですが大丈夫でしょうか?』と、細かく確認しながら撮影していました。ご本人はサバサバした性格なので、お芝居をしすぎるとわざとらしい天真らんまんな女の子になってしまうことも気にしてくださっていました。スミレは主人公だけど自分からガツガツ動くタイプではなく、だんだんだまされていく受け方向の役柄なので、演じるのがすごく難しいだろうなと思っていました」
飯田 「受け方向だけど、ちゃんと主人公感が出せていましたよね」
佐久間 「そうですね。井桁さんがしっかりとプランを考えてくださっていたことに助けられました。撮影の都合で、初日から最終話のシーンを撮影するようなスケジュールだったのですが、そのあたりも計算して、スミレの成長を考えてくださっていたんです。話数を重ねるごとにどんどん強くなるスミレを、うまく表現してくださったなと思っています」
飯田 「マンガだといろいろな視点から描くことができるのですが、ドラマは主人公を通して描くものなので、やはりどこか共感できたり好きになれたりするキャラクターがいいんですよね。原作のスミレに比べて井桁さんのスミレはより等身大で、働く女性に寄り添えるキャラクターになっているのではと思います。マンガとドラマのキャラクターの違いも楽しんでいただければうれしいです」
――竹之内宗一を演じる一ノ瀬颯さんはいかがでしょうか?
佐久間 「宗一は本作の中でも一番難しい役だと思います。ドラマの場合、宗一の本心が分かるのはどうしても後半になってしまうので、物語序盤から“危険だけど、好きになっても仕方がない男性”をしっかり描くことが課題でした。一ノ瀬さんが上手に猫っぽさを醸し出してくださったので、魅力的な男性に描けているのではないでしょうか。実はセリフも原作の宗一のイメージよりかなり減らしているんです」
――一ノ瀬さんもインタビューで難しい役柄だとおっしゃっていましたが、苦戦している様子はありましたか?
佐久間 「現場でもすごく悩まれていて、監督と細かいニュアンスを何度も確認しながら撮影されていました。ご本人も、前半は西垣匠くん演じる桐谷森生に人気が集まるから、宗一は嫌われる役柄だと覚悟しながら演じられていたと思います」
飯田 「これまではポップで陽キャラな役を演じることが多かった一ノ瀬さんですが、個人的にはミステリアスな役が合うだろうなと思っていたので今回オファーさせていただきました。結果的にものすごく役柄にハマってくれましたね」
佐久間 「一ノ瀬さんは意外と天然なところがあって、話していてもどこか変わっていて不思議な魅力がある方なので、そういうところが役柄のミステリアスさとマッチしたのかなと思います。物語の後半では彼の本心が分かってくるのですが、そこの表情の変化には『こんな顔するんだ!』と驚かされました」
――桐谷森生を演じる西垣匠さんはいかがでしょうか?
佐久間 「原作ではもう少しちゃんとした男性に描かれているので、原作の役柄から一番かけ離れているキャラクターかもしれません。宗一がミステリアスな分、視聴者の方には森生の方がいいのではと思ってもらうことを大切にしていました。初回放送が終わってからすぐに、視聴者の方から『#森生にすればいいのに』というタグが生まれていました(笑)」
――西垣さんは「ドラゴン桜」(同系)で一躍注目を集め、その後、初めてのTBS作品の出演ですよね。
佐久間 「『ドラゴン桜』ではスキンヘッドだったこともあって、ほかの出演作品を見ても同一人物だと気づくのに時間がかかりました(笑)。そんな中で『みなと商事コインランドリー』(テレビ東京系)を拝見して、あらためて彼の魅力に気づいてオファーしました。西垣さんは台本の意図を読み込んで、きちんとプランを考えてお芝居される印象なのですが、泣かなくてもいいシーンで意図せず泣いてしまうような一面もありましたね。とても勉強熱心で、空き時間もモニターのところにずっといた印象があります。テークごとにお芝居を変えてみたり、そう来るかという面白い表情をしてみたりと、チャレンジングで常にハングリーなところを現場で拝見して、これからもっと面白い俳優さんになるだろうなと思いました」
――飯田さんは「ドラゴン桜」もご担当されていましたが、当時の西垣さんからの成長などは感じられましたか?
飯田 「『ドラゴン桜』で僕が出会った時はほぼ初めてのお芝居だったはずなので、そこからかなり成長されたと思います。お芝居もガラッと変わっていましたし、自分のことを客観的に見られるようになっていると思います。現場で少し話をしてみたら、自分の演技をちゃんと分析できていて、目標とするゴールに向かって何をしなくてはいけないかを分かっている様子でした。まだまだうまくなりたい!という気概も感じられましたし、以前は新人さんという感覚が強かったのですが、本作では1人の俳優として接することができた感慨深さもありました」
――叶百合を演じるトリンドル玲奈さんはいかがでしょうか?
佐久間 「役柄のモデルとなったデザイナーさんの実年齢に合わせて原作から年齢設定を下げ、ドラマ版の百合さんを作り上げることになり、トリンドルさんにお願いさせていただきました。主人公の憧れの存在なので、ルックスや華やかさの説得力も決め手でした。とても明るい方なので、現場でも常に笑っていらして現場の雰囲気も良くしてくださっていました。お芝居ではとても真面目で、役の立場として百合のセリフを考えてくださっていたので、一緒に相談して台本のセリフを変えたところもあります」
飯田 「百合は強い女性のようで、実は弱い部分があるというのがキーポイント。トリンドルさんは年齢設定の部分で、ご自身よりも年上の百合を演じることに不安もあったかと思います。でも、その背伸びしなきゃと思う気持ちを持っているのが、実は百合だったりするんです。外には見せない弱さ故に、支えてあげないといけない一面を持っている百合を、トリンドルさんに演じていただけて本当によかったです」
佐久間 「役作りのためにモデルにしているデザイナーさんにも会っていただいて、髪形から着る服まで細かく研究された結果、普段のトリンドルさんのイメージとはまた違った、落ち着いたトーンの女性に仕上がりました」
2人のプロデューサーで作り上げた「わたヒモ」の魅力とは?
――お二人で一緒に作品を作り上げて感じた相乗効果はありますか?
飯田 「今回は原作とドラマでプロデュースが分かれたのがよかったなと思います。もし自分が全部やっていたら、原作と全く同じ設定や展開になっていたかもしれません。自分もドラマを制作していて原作を映像化する際、生身の人間が動く場合の無理や違和感を覚えることが多々あったのですが、マンガの中でのこだわりがやっぱり生まれてしまって。でも、ドラマの台本にして映像を想像すると全然面白くなかったり(笑)、これはダメだなと思っていました。佐久間プロデューサーや演出の小牧桜さん、ドラマ版脚本家の岡田真理さん、山本奈奈さんにほぼすべて頼っていました(笑)」
佐久間 「僕としても飯田先輩になんでも相談してOKをもらえたので、原作モノで生じる壁がなくてよかったなと思っています」
飯田 「あくまで題材や設定は原作を引き継いでもらっていますが、ドラマに関しては映像作品として良くなるように考えながら作ってくれたことも、完全再生率につながったのではないでしょうか」
――本作は20分ほどの短いドラマではありますが、ゆったりとした印象にも関わらずテンポよく物語が展開しているのが印象的です。
佐久間 「小牧監督がゴールデンプライム帯(GP帯)のドラマではあまりできないようなカット割に挑戦してくれています。撮影チームが一つ一つのシーンのライティングや映像の質感にもこだわっていたので、そういうところでもゆったりさを感じていただけているのかもしれません」
飯田 「スマホで見ることも多いでしょうし、配信ファーストで作っていることもあると思います。視聴率よりも配信でどれだけ再生してもらえるかというところにも絡んでくるので」
――お二人の中で大切なシーンとなっているのはどの場面ですか?
佐久間 「第1話の雨宿りのシーンと、第2話のジャズバーでのキスシーンは、ここでこの作品が決まってしまう場面だろうなと思っていました。雨宿りのシーンの撮影では作品の温度感や空気感が決まった手応えがあって、これならうまくいくのではないかと思ったのを覚えています。ジャズバーでのシーンも奇麗な映像を撮っていただけて、神々しい場面になりました」
飯田 「スミレが一歩踏み出す瞬間は、原作の時からこだわっていました。スミレにとってのその一歩は、第1話でランジェリーを身に着けた瞬間。ランジェリーにも女性が自分の力で歩くという意味が込められていて、そこからドラマが始まっていく様子を描きたかったんです。踏み出した先にはいろいろな困難がありますし、だからこそ新たな人と出会っていくんですよね。女優さんにランジェリー姿になっていただくのはハードルが高いのですが、井桁さんに快諾していただけたおかげでそのシーンが成立したので、本当によかったと思っています」
――本作では、楽曲へのこだわりも強く感じています。
飯田 「ある大事なシーンで使用する『かすみ草』という劇伴をどうしても角野隼斗さんに作っていただきたくてお願いしました。原作の宗一のイメージが角野さんだったんですけど、ちなみにヒモ男の部分じゃなくて、ピアニストの設定の部分です(笑)。ドラマで実際に角野さんに曲を作っていただけたことで、当初からの願いがかなう瞬間になりました。この曲の意味もドラマで明かされていくので、そこにも注目していただきたいです」
佐久間 「角野さんが所属するPenthouseさんには、主題歌『蜘蛛ノ糸』をはじめ、インスパイアソング『雨宿り』やそのピアノバージョンなどを担当していただき、楽曲に大きく助けられている作品になっています」
飯田 「主題歌やアーティストをきっかけにドラマを見たいと思ってくれる人もいると思います。『ドラマストリーム』は地上波での宣伝も少ないので、アーティストの方々の力もお借りしながら総合的に作品を盛り上げられたらいいなと思っています」
佐久間 「タイトルバックもPenthouseさんのPVチームの方に撮っていただきました。第4話ではフルバージョンが流れていたり、メンバーの皆さんが出てくださっている回もあったりするので注目していただきたいです」
――では、最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いいたします。
佐久間 「とても濃い最終回になっているので、20分があっという間だと思います。本作の制作にあたってヒモという存在についてものすごく考えたので、タイトルの意味も分かっていただける回になっていると思います。恋愛に限らず、4人それぞれが自分の足で前に進む姿を描けていると思うので、ぜひ楽しみにしていてください!」
飯田 「実は今、原作の方も最終巻を作っているところなんです。ドラマとマンガで別の楽しみ方ができるように作っているので、ドラマを最後まで見ていただけたらぜひ原作に戻って、再度楽しんでもらえたらいいなと思っています。両方読むことでより楽しんでもらえる要素があると思いますので、ぜひチェックしてみてください!」
【プロフィール】
飯田和孝(いいだ かずたか)
TBSのドラマプロデューサー。主な担当番組は「義母と娘のブルース」「ドラゴン桜(2021)」「マイファミリー」など。2023年7月期日曜劇場「VIVANT」のプロデュースも務める。
佐久間晃嗣(さくま こうじ)
TBSのドラマプロデューサー。主な担当番組は「#家族募集します」「差出人は誰ですか?」「DCU」など。
【番組情報】
「私がヒモを飼うなんて」
TBSほか
火曜 深夜0:58〜1:28
※Paravi、U-NEXTにて各話地上波放送の1週間前の毎週火曜正午に先行有料配信
※地上波放送後、TVer、TBS FREE、GYAO!、Yahoo!にて1週間無料見逃し配信
取材・文/TBS担当 松村有咲
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