「エール」の主役・窪田正孝「演奏の練習はまるで回転ずしのよう!?」2020/03/28
日本を代表する作曲家・古関裕而さんとその妻・金子さんをモデルにした連続テレビ小説「エール」(NHK総合ほか)が、3月30日から始まります。古関裕而という名前を聞いたことがなくても、夏の高校野球大会の歌として毎年使われている「栄冠は君に輝く」や、1964年に開催された東京オリンピックの開会式で流れた「オリンピック・マーチ」、阪神タイガースの球団歌「六甲おろし」などは、耳にしたことがあるはずです。彼は生涯で5000曲に及ぶ作品を世に出したそうで、「こんな曲も!?」という意外なものもあるようです。そんな古関さんをモデルにした主人公・古山裕一を演じる窪田正孝さんから、古関さんの人物像や撮影エピソードなどを語っていただきました!
──窪田さんは、連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」「花子とアン」(NHK総合ほか)で“朝ドラ”出演の経験はされていますが、朝ドラと通常のドラマとの違いはありますか? また、主演としての意気込みを教えてください。
「男性の主役としては6年ぶりですが、主役だからという考えは正直あんまりなくて。僕の中で朝ドラの一番の顔は、妻・音を演じる(二階堂)ふみちゃんだと思っているので、彼女が一番輝ける瞬間をたくさん現場で作れるようにスタッフさんと一緒に現場作りできたらいいなと思っています。朝ドラは撮り方やスケジュールが独特で月曜から金曜までNHKに通うんです。また、衣装も現代のものではないので、毎日タイムスリップした感じで新しいセットで新しい出会いをしていくことが、とても楽しいです。朝ドラをしていると、ほかの仕事はできませんが、撮影現場に毎日通うことで、会社に通っている社員のような気持ちになっています(笑)。リズムが決まっているのは楽で助かっています」
──窪田さんにとって特別な存在である唐沢寿明さんと「エール」で再共演することについては、どう感じていらっしゃいますか?
「自分が主役をやるということでスケジュールを空けていただいた上に、裕一の父である三郎を演じていただくので、本当に感謝しかなくて。僕がこうなれたのも唐沢さんのおかげなんです。現場での立ち居振る舞いや、人へのケアなど…本当に全員が気持ちよくいられる現場は、本当になかなかないんです。それを常にやってくださるのが唐沢さんで。役者が楽しんでやっていると、それがスタッフさんに伝わっていく…そういう背中を見せていただいています。唐沢さんがいる時は僕も甘えられますし、あれだけの大御所の方なのに、唐沢さんには皆さんちょっとフランクに接することができるので、それは人柄なのかなと。前回は『ラストコップ』(日本テレビ系)というドラマでご一緒させてもらって、その時は義理の父だったんですけど、今回やっと本当の親子になれて、僕の中ではまた一つ新しい境地に行った気がします(笑)」
──役作りで気を付けたことやモデルとなった古関さんの人生から感銘を受けたことはありましたか?
「古関さん自身が誰も敵に回さない方で。誰一人古関さんの悪口言わないんですよ。それがすべてかなと。そこを役作りの中で肝にしています。誰かを憎んだり怒ったりしないんです。その瞬間があったとしても、憎しみが愛情に変わっている気がして。すごく煙たがられていても、最終的に認めさせる才能がある。毛嫌いする人を音楽の力や人格など違うもので大きく包み込んでいるところがあるので、そこは一番大事にしています」
──古関さんの妻・金子さんについてはどんな印象を持たれましたか?
「古関さんよりどんどん前に行っちゃう方だと聞いていて。本人より先にレコード会社と契約して『うちの旦那、なめんじゃないよ』と。すごい奥さんだなあと思いました(笑)。いつの時代にもそういう強い女性はいると思うし、この夫婦像が戦前の日本にあって、それが今の時代になって形が変わってきたというか、本来ある形に日本の社会が追いついてきたという印象です。金子さんは先駆けの女性なんじゃないでしょうか。自分にうそがつけない真っすぐな妻をふみちゃんが説得力を持って演じてくれるので、違和感なく『金子さんってこういう人だったんだな』と横で見ています」
──演奏シーンがありますがどんな準備をされたのでしょうか? また撮影エピソードも教えてください。
「ハーモニカや指揮、楽譜、譜面の書き方、オルガン…といろいろあるのでとても大変で。自分はずっと同じ椅子に座って、前にいる先生がどんどん回転ずしみたいに回っている感じでした(笑)。期間的には、2、3週間くらいでしょうか。結構長くやらせてもらいました。1人でハーモニカを吹くシーンは実際の生音を使うので、緊張というか何ともいえない感覚になるんですけど、出る音がその時の心情によって違うんです。人生どん底の中でハーモニカを1人で吹くシーンでは、音にならない音になり、ちょっと音が外れちゃったりして。音楽としては成立してないけれども、気持ちを表すという意味では成立しているからOKという監督の決断があって、それが使われることになりました。誰かのために吹くと本当に音も変わるし、感情によって振る指揮棒の強さや体に入る力が変わるんです。技術と気持ちが行ったり来たりして…。技術はないんですが、技術があるように見せなきゃいけないので、練習あるのみでした。いろいろやりましたが、個人的には指揮が好きです。ハーモニカはすごく難しかったですね。指揮は難しいけど楽しいんです。演奏家がプロの方たちなので、僕が指揮を振るとそれに合わせてくれて、気持ちよさがあるんですよ(笑)」
──実際に裕一を演じてみて、気付いたキャラクター像はありますか?
「古関さんは誰からも悪口言われない方と先ほどお話したんですけど、裕一は意外にずるさというか…『かわいがられ方を知っているな』と感じる瞬間はあります。幼なじみの“福島三羽ガラス”とのシーンでは『自分が過去に言ったこととか棚に上げてない?』など、ちょこちょこ感じる部分があって。音楽のことに関しては天才だと思うんですけど、結構不器用で、自分の世界に入っちゃうと周りが見えなくなってしまうので、そこの部分に関しては3歩進んで5歩下がる感じ。作曲のシーンでは、誰かのために音楽を作れば、どんどん開花されていくのに、自分のやりたい音楽に固執しすぎて全く先が開けない瞬間が何度かあるんです。前に言われたことをヒントにやればいいのに、できてないと感じたりします」
──最初に音から手紙をもらうことで、2人の交流が始まりますが、手紙から始まることについてはどう思われますか?
「とてもいいと思います。中学生くらいの時に文通をしていたことを思い出しました。文通っていいですよね。音からもらうラブレターにハートマークが書いてあったり、封筒の縁をちょっと赤く塗ってあったりと、かなりおしゃれで。実際の手紙にもハートの上に音符が刺さっているなど、いろんなデザインがなされていて。そういうことを本当にされていたんですよ。かわいらしいけど、ちょっと照れくさくもなりました。昔ながらの文章で厳格な感じがあるんですけど、ひもといて読むとすごくいちゃいちゃしていて。出会うべくして出会った2人なんでしょうね」
──2人はどんな夫婦だと思いますか? 理想の夫婦だと思ったところはありましたか?
「同じ音楽の道を進んでいるけど、声楽家と作曲家とジャンルが違って、お互いにないものを補い合っていますよね。自分が作曲した曲を、夜食を持ってきてくれた音に、一緒に歌ってもらうシーンがあって。歌ってもらったことでヒントを得たりするんです。同業者の夫婦だといろいろ話せることもあるし、理解し合えることもあるので、そこが強みじゃないかなと。音は、きびきびしていて、自分のやりたいことを明確に導いてくれる奥さんだけど、お披露目の会の時などはちゃんと後ろに下がっているんです。基本は一緒にいて、横で手をつなぎ合っているので、すごくいいなと。けんかもするけど、あまり怒らせちゃいけないなと思います。ふみちゃんの演じる音が怖くて(笑)。突き放されたらちょっとショックです。そのシーンの前まではラブラブなのに…。やっぱり平和が一番です」
──ご自身の年齢よりも若い時と、年をとっている時も演じられると思うのですが、それに関してはどのような気持ちですか?
「僕は若い頃やんちゃだったんですけど、裕一はすごくおとなしくて、東京に行くにつれて段階を見て自分の気持ちを言えるようになるので、そういうところは年齢に応じてやっていきますが、これからの方が結構プレッシャーで。この先は尊敬する人や先輩をイメージしながら、作っていけたらいいなと思っています。言うことがちょっと古くさいと思われるくらいの愛嬌(あいきょう)のあるいいおじさんになっていけるように頑張りたいです」
──この作品では作曲家が音楽の力で“エール”を送りますが、窪田さん自身が音楽で励まされた、エールをもらった経験はありますか?
「中学生の時に文化祭で『大地讃頌』という曲の指揮者をやったことがあるんです。高校生になってもバスケットボール部を続けていくかどうかで悩んでいた時に聴いていたので、僕の中ではとても大切な曲なんですが、それを思い出しました。今でもたまに聴くんです。指揮者をやることになったのは、高校に入りやすくするため(笑)…というか、じゃんけんで負けて、文化祭実行委員会の総合司会とクラスの指揮者をすることになったんです」
──福島弁のセリフはいかがですか?
「福島弁指導の先生に、指導されなくなるくらいなじんでいます。(これまで)いろんな方言をやらせてもらっていましたが、福島弁は、一番方言指導されない方言です。自然と小さい“つ”を抜くなどのポイントが分かってきて。福島弁を聞いているだけでほっこりして、愛くるしくなる感じの印象です。古山家の中でも唐沢さんや母のまさを演じる菊池(桃子)さんがしゃべる福島弁はそれぞれ違うので、音楽を聴いている気分になります」
──現場の雰囲気はどんな感じなのでしょうか?
「それぞれに仕事を頑張っていて、基本的に笑いの絶えない現場です。作品もそうですが、監督が本当にポジティブな方なので、みんな生き生きしているんですよ。ふみちゃんもよく笑っています。たわいもない話をしたり…。音楽のシーンでは、みんな自然と体が揺れていて。カメラマンさんもリズムを取っているのか、カメラを構えながら頭が動いていて、すごく一体感のある感じです。ムードメーカーは、ふみちゃんです。唐沢さんが来たら、圧倒的に唐沢さんですけど(笑)。川俣銀行のシーンだと、全員でわちゃわちゃしている感じです」
──タイトル「エール」に込められた思いをどのように感じていらっしゃいますか?
「古関さんは、戦争を経験された方で、人の痛みを言葉だけではなくて実際に肌で感じて経験されているので、すごく分かるんだと思います。学校の校歌など、ビジネスにならないようなものでも、人に寄り添う音楽を作ることが古関さんの一番の幸せだったと思います。『エール』はいろんなとらえ方がありますが、僕は愛情だと思っています。それがメロディーに乗って、いろんな人に届いていって、語り継がれているところで証明されていると思います」
──「エール」を1年間撮影し終えた時に、どのように成長していたいと思われますか?
「体力勝負な部分もありますが、1年間、役にどっぷり浸かれる環境で、一つの役をどんどん掘り下げていけることは、朝ドラの一番のいいところかなと思っています。終わった時にどうなっていたいかは分からないけど、経験された方から『朝ドラを経験するとどの現場もすごく楽に感じると思うよ』と言われました。1人の人生を描けるということは、何ともいえない感覚で…。カメラの前に立つと自然と役に入っていける感じを、3カ月だと得られないこともあるんですが、時間を掛ければそれだけのものが返ってくると思うので、達成感に満ちあふれているんじゃないかなと思っています」
──ありがとうございました!
福島弁の質問では、流ちょうに福島弁を交えながら話してくださったのがとても印象的でした。さて、3月30日放送の第1回では、1964(昭和39)年10月10日の東京オリンピック開会式に参加する古山夫婦の物語から始まります。聖火ランナーが東京の街を走り、国立競技場で間もなく開会式が始まろうという時、会場に来ていた裕一が姿を隠してしまうのです。妻の音は慌てて裕一を捜し回りますが…。気弱な裕一と彼を支える音はどのように出会い、どんな夫婦となっていくのでしょうか。
【番組情報】
連続テレビ小説「エール」
3月30日スタート
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15ほか
NHK BSプレミアム・BS4K
月~土曜 午前7:30~7:45ほか
※土曜は1週間の振り返り
NHK担当 K・H
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