吉岡秀隆主演で現代によみがえる昭和の傑作ミステリー「犬神家の一族」――「誰にスポットを当てるかによって大きく変わってくる」脚本家・小林靖子インタビュー2023/04/20
横溝正史の大人気ミステリー小説を原作に、まるで映画のようなテイストで描いていくNHK版の金田一シリーズの第4弾が、4月22日と29日の2週連続でNHK BSプレミアムとNHK BS4Kで放送。今回は、“佐清の不気味なマスク”や“湖から突き出す足”の衝撃的な映像が印象的な「犬神家の一族」を前後編の合計3時間という長時間で描いていきます。
名探偵・金田一耕助を演じるのは前回に引き続き吉岡秀隆さん。物語の鍵となる犬神松子を大竹しのぶさん、犬神佐清を金子大地さんが演じます。戦後間もなく、信州那須湖畔の広大な屋敷で、財界の大物・犬神佐兵衛が他界。勢ぞろいした犬神家の一族の前で発表された佐兵衛の遺言状は、血を分けた一族ではなく他人に遺産を与えるという衝撃的な内容だった。反目し合う松子(大竹)ら3人の佐兵衛の娘たち。そして、湖を訪れていた金田一(吉岡)の前で、佐兵衛の孫たちが謎の死を遂げていく。果たして、マスクの下の佐清(金子)は本物なのか? 謎の元日本兵の正体は? 三つの家宝に秘められたメッセージとは? 衝撃の結末に向け、名探偵の推理が始まる。
放送に先駆け、脚本を務めた小林靖子さんに、脚本を作る上での苦労や作品の魅力についてお聞きしました。
――今回、映像化されるNHK版の「犬神家の一族」での小林さんならではのこだわりを教えてください。
「数年前に市川崑さんが監督を務めた映画『犬神家の一族』のブームがあって、何度も見るほど好きな作品です。そのインパクトは強大で、その後、映像化された作品にも影響を与えていると思います。でも今回、脚本を作るに当たっては、市川版を意識しないように、とにかく忘れるよう封印して、横溝正史さんの小説から映像化するというのを特に意識しました」
――原作の魅力はどんなところにあると思いますか。
「読者的な部分でいうと、舞台設定の面白さと、インパクトのある出来事やそれを文字だけで映像が想像できるぐらいのリアルな描写など、最後まで飽きさせないエンターテインメント性だと思います。脚本家の視点でいうと、心情を事細かに書き過ぎていないので、いろいろな想像ができる点だと思います。この時、松子はどう思っていたのだろう、佐清はどうだったのだろうと、いろいろ想像する余地があって、これまでたくさんの人によって映像化されていますが、誰にスポットを当てるかによって見え方が大きく変わってくる作品だと感じています。本当にいろいろな方向から描くことができる懐の深い作品だと思います」
――普段どのようにして脚本を書かれているのでしょうか?
「方向性を決めるためにプロットから作る場合と、最初にプロットを書くのではなく、シーン毎に要点をまとめる箱書きにいってしまう場合など、その時によります。今回の『犬神家の一族』の場合は、監督さんやプロデューサーさんたちと同じ方向性を目指していきたかったので、最初にプロットのたたき台を作って打ち合わせをして、箱書き、脚本という形で作りました」
――セリフを考える上で意識していることを教えてください。
「すごく当たり前のことなんですけど、心情に添ったセリフにするというのを意識しています。どうしても脚本の都合で『このセリフを言ってくれないと先に進めない』『描写を説明してほしいな』という時もあるんですけど、それだけでキャラクターにセリフを作ってしまったり、不自然な行動を起こさせることを私自身が気持ち悪いと感じてしまうのでしないです。そのために、あらすじ通りにストーリーを進めようとすると苦労したりするのですが」
――原作の雰囲気を表現するのに難しいと感じたことはありましたか?
「誰もが名前を知っているほど有名な作品なので、どれだけミステリーとして面白く表現できるか、犯人をどれだけ引っ張ることができるかという難しさがあります。すでに何度も映像化されていて、面白いところやびっくりする要素はすでに出がらしになるぐらい搾り尽くされています。ただ、同じ表現を避ける必要もないので、あくまで原作から映像化されるというのを意識して、ちょっと違う部分を深堀りすることによって、ほかの作品とは見方を変えることができると思いました。その部分を考えていくのがちょっと時間がかかったかなって思っています」
――吉岡さんが演じる金田一耕助の魅力を教えてください。
「何度も市川版の金田一を引き合いに出してしまいますが、石坂浩二さんが演じた金田一は役者さんとして持っている柄が出ているのか、ヨレヨレの格好をしていても漏れ出るクールで都会的雰囲気が、事件のあった町から少し浮いているのが独特の魅力に感じます。一方で、吉岡さん演じる金田一は地方になじむ庶民的な感じで、ちょっと情けないところもある。でも、その奥にある常人とは違う底光りするものが特異性を醸し出しているのが魅力だと思います」
――松子を大竹さんが演じると決まった時の感想を教えてください。
「脚本を作っている終盤ぐらいに、松子が大竹さんに決まったとお聞きしたのですが、本気で『すごいな』と思いました。私もまだビジュアルすら見ていないので、視聴者と同じ視点で、大竹さんがどういう松子を演じられるんだろうと楽しみにしています」
――好きなシーンや登場人物を教えてください。
「あまり楽しいシーンがないので、せつ子(倍賞美津子)と金田一のほんわかするようなシーンが好きです。好きなキャラクターも、本編とは全然関わりがないところにいるせつ子や、旅館の女の子の加代(久間田琳加)など、時々ヒョコっと出てくるキャラクターが好きです」
――どんな方に見てほしいですか?
「横溝正史のファンの方や『犬神家の一族』が好きって方はもちろんのこと、まだ作品を知らない方に見ていただきたいです。内容を知らない若い方も、市川監督の佐清のマスクや湖から出る足の強烈なシーンだけは知っている方も多いと思っているんですけど、『八つ墓村』と混同している方も多くいるのではと感じています。だから、何となく知っている方に『犬神家』がどういう物語かをあらためて知ってもらえたらうれしいです」
――ありがとうございます。
【番組情報】
「犬神家の一族」
NHK BSプレミアム・NHK BS4K
4月22日(前編)、29日(後編)
午後9:00〜10:30
NHK担当 S・A
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