尾上菊之助が「探偵ロマンス」でワイヤーアクションに初挑戦!「ハラハラしながら見ていただけたら幸せです」2023/02/10
“知られざる江戸川乱歩誕生秘話”が描かれたドラマ「探偵ロマンス」(NHK総合)がいよいよ最終回を迎えます。
第3話では、住良木平吉(尾上菊之助)がお勢(宮田圭子)に化けていたことが蓬蘭美摩子(松本若菜)によって判明し、お百(世古口凌)が後工田寿太郎(近藤芳正)の命を奪おうとするも失敗しました。そんな中、第4話でまたも命を狙われた後工田。平井太郎(後の江戸川乱歩・濱田岳)と白井三郎(草刈正雄)は、その現場で逃亡する郷田初之助(泉澤祐希)に遭遇するも、初之助は現れた住良木の車で姿を消してしまいます。
今回は、住良木を演じた尾上菊之助さんから、演じる上で心掛けたことや太郎を演じる濱田さん、三郎を演じる草刈さんとの共演エピソードなどを伺いました!
――まず、脚本を読まれた時の感想をお聞かせください。
「群像劇で、太郎を軸にいろんな登場人物が絡んでくるんですが、短いシーンが連続しているので、ストーリーを追うというより、見た人の頭の中でドラマが構築されていく感じがしました。第1話から第3話までに謎解きの種がたくさん散りばめられていて、第4話を読んだ時にお客さまが謎解きをしていく脚本をお作りになったんだと分かったんです。だからきっと、ドラマを見ているお客さまも、江戸川乱歩の小説を読んでいるような気分で謎解きをしてくださっているんじゃないかと思っています」
――これまでに乱歩の作品を読んだことはありましたか?
「小学校の図書館に、乱歩さんが書いた怪人二十面相のおどろおどろしい表紙の本があって、それを読んだ思い出はあります。挿絵が少し不気味だったし、幼いながらに物語の中に闇があるような感じがしました。このドラマでも、恵まれない方たちの心の闇に住良木がふっと入り込み、その人の心を動かしてしまう。大正という激動の時代に、闇でしか生きられなかった方や闇に落ちてしまう方はたくさんいらっしゃったと思うので、坪田(文)先生はそういう人たちがいたことをエンターテインメントとして乱歩の世界を落とし込み、うまく脚本に書かれているんだと思います」
――菊之助さんから見た住良木はどんな人物で、どのように演じようと思ったかを教えてください。
「全4話で描かれる前の、ストーリーゼロともいえる住良木の物語を坪田先生が書いてくださって、そこに住良木と三郎との関わりが濃密に書かれていたんです。住良木は『探偵ロマンス』に出現するまで、非常に屈折した生き方をしているんです。また第3話で、お勢さんが思わず三郎に口づけをした場面からも分かるように、三郎に対して憧れというか、恋焦れているようなところもある。上海帰りの貿易商として登場しますが、ミステリアスな部分のある住良木をどう見せるのかを、演出の(安達)もじりさんや大嶋(慧介)さんとご相談しながら演じました。また、住良木が通う『赤い部屋』の、見るからに怪しい感じのセットや照明などにも助けていただきましたね」
――難しい役ですが、どんなところに苦労しましたか?
「やはり、ミステリアスさを出すところです。第3話でお勢さんが住良木だったことが分かるまで、物語にどんな関わりがあるのかが細かく描かれていないので、短い時間の中で住良木のキャラクターを印象づけることが難しかったです。ミステリアスな雰囲気を出すためには、相手の表面ではなく、心の奥底や内面をのぞくような目つきを心掛けていました」
――お百や初之助をはじめとする若者たちが、なぜ住良木に魅了されると思われますか?
「『私はあなたの物語が聞きたいです』とささやき、人の心に入り込んで、その人の理想を語らせて導いていくから魅了されるんだと思います。しかし、それは住良木の理想の物語であって、そこから外れると、住良木は異常な行動を取ってしまうんです。若者たちの理想をかき立て、非常に魅力的な理想を描かせる住良木を、若者に夢を抱かせてそれを食らう人間だと感じたので、動物の獏(ばく)を想像しながら演じていました」
――お百といえば、第2話でキスをせがむお百に、住良木が「ロマンスは本当に好きな人としかしちゃいけないんですよ」と言うシーンがすてきでした!
「実は神戸の古い税関のトイレで撮影したんです。大正時代は非常に短い期間の時代ではありますが、その大正の匂いにこだわって、スタッフの方たちが場所や衣装にこだわって作られているからこそ、魅力ある住良木を引き出してもらえました」
――第3話では、住良木はお勢さんに化けていたことが分かりましたが、セリフやしぐさで実は住良木だと分かるヒントはあったのでしょうか?
「第3話でお勢さんが、『優しい人は悲しい人ね』と三郎に言う映像を事前に見させていただいたのですが、三郎と別れる瞬間に、ふっと男のような声と目になっていて。皆さんも分かりました? あれはすごかったですよね。お勢さんを演じる宮田さんから伏線を渡していただき、感謝しています。私も住良木として『優しい人は悲しい人ね』と言う時には、宮田さんからヒントをいただいて、お勢さんのまなざしと、優しいふっくらとした感じを演じさせていただきました」
――若者を悪い方向に導き、人のものを奪う住良木からはどんな正義があるのか見えませんでしたが、そんな中でも菊之助さんなりに住良木のいい面を感じたことはありましたか?
「鬱憤(うっぷん)がたまっている若者の心に入って、気持ちをくんで寄り添う住良木は、映画『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』(2020年)で、全共闘の方に理解を示して、ウイットに富んだ言葉で対峙(たいじ)している三島さんっぽいなと感じたんです。もちろん、三島さんと住良木は根本が全然違うのですが。しかし、住良木にもある種の理想郷があって、本当は若者が理想としている世界を作りたかったんじゃないかと。一方で、若者が自分の意に沿わない時に、非常に冷酷な判断をする住良木もいて。若者たちとどんな会話をして、どのように導いていったのかと想像しますし、もっと住良木を描けるのなら演じてみたいですね」
――三島さんといえば、江戸川乱歩の小説「黒蜥蜴(くろとかげ)」を戯曲化されていますよね。住良木は「少年探偵シリーズ」の怪人二十面相のイメージもありますが、黒蜥蜴とも近い部分も感じるのですが、そこは意識されましたか?
「三島さんは大正時代の方ではないので全然違うんですが、女盗賊・黒蜥蜴のような妖しさはあったかもしれません。住良木は、人間の心の奥にあるものや闇を見ていたのではないかと想像していました」
――そして第4話では、太郎や三郎たちと住良木がいよいよ対決しますが、そこでワイヤーアクションに挑戦されているとか。
「ワイヤーでつってもらって、4階建ての建物の高さから後ろにピューっと倒れていくので、高いし、結構怖かったです(笑)。そんな高さから飛び降りたことはもちろんないので。太郎や三郎と対決があってのアクションなので、ハラハラしながら見ていただけたら幸せです」
――歌舞伎では宙乗りをされていますが、それとは全然違う感覚ですか?
「違う感覚でしたね。歌舞伎の宙乗りはその役者を見せるためなので、ゆっくり飛んでいる様子をお客さまに見せるのですが、ワイヤーアクションは飛び降りるところをお見せするので、アクション監督の横山(誠)さんに教えていただきながら、どうしたらリアルに落ちているように見えるかを追求しました」
――新しい挑戦だったということですね。
「そうですね(笑)」
――太郎役の濱田さんとは、濱田さんが橘算太、菊之助さんがモモケンを演じた「カムカムエヴリバディ」(同局)以来の共演でした。
「算太のおじさん、懐かしかったですね(笑)。久しぶりだったので、その時の思い出がよみがえりました。今回は対峙する役でしたが、またお会いできて非常にうれしかったです」
――住良木が恋焦がれる三郎役の草刈さんと共演しての感想もお願いします。
「草刈さんのようになりたいと思いました。現場にいる時には温かくて、話をよく聞いてくださって話しかけてくださるし、たたずまいが格好よくて。何よりもびっくりしたのは、本読みの当日に、お一人だけ台本のセリフを全部覚えて来られたんです。ずっと第一線で活躍するには外見を整えることも非常に大事ですが、その姿勢を見た時に、作品に対するたたずまい、それから仕事に対する居住まいが体からにじみ出ていて、人間の情や重みになっていると感じました。演技でご一緒できたことも非常に楽しく、貴重な経験をさせてもらいましたが、準備でもそういうたたずまいを見させていただいて尊敬しています」
――「カムカム」でモモケン2代目を演じられた時に、菊之助さんがほくろを付けるアイデアを出されたそうですが、今回の現場でも提案されたことはあったのでしょうか?
「『カムカム』で付けたモモケンのほくろは、ヤマさんというヘアメークの方と考えたんです。今作では、スーツで高貴な感じを出すにはどうしたらいいかを考えました。普段はあまり身に着けないアスコットタイを衣装デザイナーの宮本(まさ江)さんに提案したところ、赤いストールをご提案いただいて。作品を通して赤いストールをしているので、住良木のシンボルになりました。歌舞伎の衣装でも配色で役の人となりが現れたりするので、そういう細かいところにも役の色気を出すためにディスカッションさせていただきました」
――最後に、第4話の見どころをお願いします。
「実は坪田先生が書いてくださったストーリーゼロでも、三郎と住良木は何度かやり合っていて、三郎の大事なものを奪ったり、痛み分けだったりして1勝1敗だったところに、今回はどっちが勝つのかという伏線があるんです。それを経ての今回なので、三郎には絶対負けたくないんです。それと同時に、三郎に愛されたいという複雑な気持ちがある。そんなところに三郎が太郎とバディを組んだから、太郎に対する嫉妬もあって。『なんで俺じゃなくて、太郎なんだ』と。憎悪、嫉妬、愛情。それから憧れが凝縮した住良木と三郎の対決を楽しんでください」
――それにしても全4話は短すぎます!
「“イルベガンの卵”というお宝を巡る物語は、第4話で語り尽くせないんじゃないかという気がしていて、続編はあるのか、僕もとても気になっています(笑)。第4話で収めるのはもったいない話の展開ですし、住良木が“イルベガンの卵”をこれからどうしていくのか。私自身も、今後の太郎と住良木の関係が気になりますし、住良木が太郎をどう先導していくのか、太郎とどう対峙していくのかも、もっと見たいですね」
――ありがとうございました! 続編を期待しています! 個人的には住良木のストーリーゼロも拝見したいです。
【番組情報】
土曜ドラマ「探偵ロマンス」
NHK総合
土曜 午後10:00~10:49
※NHK総合(関西地方のみ)では、2月11日午後3:32~5:59に第1話~3話一挙再放送
※2月18日までNHKプラスで全話放送
NHK担当/K・H
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