医療に関するニュース、どう拾えば? BuzzFeed Japan Medical・岩永直子記者に聞く【前編】2022/11/30
私たちが正しく判断するために、今、何をどう知るべきか――その極意を学ぶ連載「私のNEWSの拾い方」。月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS」で掲載中の人気連載を、TVガイドwebでも展開中。今回は、BuzzFeed Japan Medicalで専門家の声を分かりやすく届けてくれる記事を多数執筆している岩永直子記者にインタビュー。冬の流行に備えて、今一度確認しておきたい、医療に関わるニュースとの付き合い方を聞いた(後編は本誌2023年1月号に掲載予定)。
POINT ◆ニュース以外に「ニュースを検証するメディア」も参照する
――コロナをめぐる医療情報について、私たちはどんなニュースの拾い方をするべきですか?
「この2、3年のコロナ禍の状況でいうと、たとえばNHKや朝日新聞、読売新聞などの大手メディアはある程度信頼できる情報を流していたと思いますが、同じ大手メディアでも、たとえばワイドショーは専門家とも言えないような人を出して、不正確な情報を出していた…ということがありました。あるいは、YouTubeやSNSで個人が出典不明な情報を発信していたりもして、いろんなデマが流通した数年だったと思います。その経験を通して言えることは、やはり厚労省や国立感染症研究所など公的機関の出す情報は、かなり確かなことが多く、それを根拠にした記事はとても信頼できることが多い…ということ。その一方で、デマ、特に医療に関するデマを一般の方が見抜くのはとても難しいので、私たちBuzzFeedのようなメディアは、ファクトチェックを積極的に行い、発信してきました。
今は個人が自由に情報発信できる世の中になっていることに加えて、大手メディアに対する不信感から『メディアが伝えない真実』をうたうYouTube動画などについ飛びついてしまう、という現象が起きています。個人で情報発信する医師や専門家も増え、デマに対抗する勢力も出てきているのですが、これだけ医療情報が乱立する時代だと、『このニュースが伝えていることは、こういう根拠があるので信頼できる』『このニュースの根拠はデマに基づいている』などを検証するメディアが必要になってきます。一次情報を伝えるニュースメディアだけでなく、ニュースを検証するメディアも併せて見ておくことをおすすめします」
――以前はワクチンやマスクの効果を疑う人は少なかったと思いますが、最近はそれらを実践してきた人でも懐疑的になる人が出てきています。この現状をどう思いますか?
「ウイルスの性質が変わってきたことが、その一因としてあると思います。『ワクチンは重症化は予防するけれども、感染そのものの予防効果は下がってきている』とか、『持病のある人や高齢者は重症化しやすいのでワクチンの重要性が高いけれども、健康な子どもは感染しても重症化するリスクが少ない』とか、そういう状況の中で個人がワクチンを打つ意義については、確かに専門家の間でも意見が分かれることが起きています。
そうは言っても感染者が増えて、それとともに重症者が増えると、医療が逼迫(ひっぱく)して、コロナ以外の病気でも一般の医療にかかれなくなる人が出てくる状況を、すでに私たちは経験しているわけです。だから第8波についても、やはり最大限に予防するのが重要なのは間違いありません。また、自然感染によって免疫はつきますが、自然感染で亡くなる人も、重症化する人も、後遺症が残る人もいることを考えると、そんなリスクを負うよりワクチンで免疫をつけた方がいいというのは、科学的に合理性があると言えます。現時点ではワクチンによる予防が重要であることをどう伝えていくかが、医療メディアの重要な役割だと思います」
POINT 2◆公的に言われていることを断定的に否定する情報には警戒する
――医療情報の真偽は個人では判断できないとしても、『こういう言い方をしていたら疑うべき』というものはありますか?
「『これさえやっておけばいい』という断定口調には警戒した方がいいと思います。あともう一つ、マスクやワクチンの効果のように公的に言われている情報を、根底からくつがえすような物言いにも気を付けるべきです。そういう物言いには『製薬会社の利権』などの陰謀論が絡みがちなのですが…。政府によって選ばれた専門家は、実績を積んだ一流の研究者で、最新の論文にも目を光らせている方が多いわけです。それでもメディアには鵜吞みにしない姿勢が必要なのですが、根拠なく丸ごと否定するような物言いは、まず疑ってかかった方がよいでしょう」
取材・文/前田隆弘
【プロフィール】
岩永直子(いわなが なおこ)
1973年生まれ。98年、読売新聞社に入社。読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」の編集長を経て、2017年に「BuzzFeed Japan」に入社。「Buzz Feed Japan Medical」を創設し、医療に関する取材や情報発信を行っている。
【「見つけよう!私のNEWSの拾い方」とは?】
「情報があふれる今、私たちは日々どのようにニュースと接していけばいいのか?」を各分野の識者に聞く、「スカパー!TVガイドBS+CS」掲載の連載。コロナ禍の2020年4月号からスタートし、これまでに、武田砂鉄、上出遼平、モーリー・ロバートソン、富永京子、久保田智子、鴻上尚史、プチ鹿島、町山智浩(敬称略)など、さまざまなジャンルで活躍する面々に「ニュースの拾い方」の方法や心構えをインタビュー。当記事に関しては月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS 2022年12月号」に掲載。
この記事をシェアする