らしくない大河?「いだてん」復活の鍵を握る大河ドラマの意外な見られ方2019/02/27
宮藤官九郎が初めてNHK大河ドラマの脚本を手掛けたことで話題の「いだてん~東京オリムピック噺~」(以下「いだてん」)の世帯視聴率での苦戦が伝えられている。今回は東芝レグザの録画視聴データを使って、今年で57年目を迎える大河ドラマについて、掘り下げてみたい。
「いだてん」は、日本が初めてのオリンピック参加を目指した20世紀初頭から東京でのオリンピック開催が実現する1964年まで、悪戦苦闘しながら力を尽くした日本と日本人の50年余にわたる物語。数多くの登場人物が時を超えて行き来する宮藤らしいダイナミックなストーリーに期待が高まる一方で、基本的にいわゆる“大河ドラマらしさ”をことごとく排除した作品でもあるだけに、戸惑う視聴者も多いようだ。 今までの大河ドラマといえば、偉人や英雄の人生を描いた一代記や歴史上の大事件を扱うことが多く、舞台となるのも戦国時代や幕末などが中心。基本的には時代劇のフォーマットに属するドラマが多かった。今回の「いだてん」は20世紀が舞台なので、だいぶ趣が異なる。平成から新しい時代に変わる2019年、昭和も歴史として語られるようになったのだなという感慨もあるが、時代劇としての大河ドラマを楽しみにしていたファンには期待はずれだったのかもしれない。
では、現在大河ドラマはどのような見られ方をしているのかを、昨年の「西郷どん」を例に取って分析してみよう。
「西郷どん」は、林真理子の原作を中園ミホが脚本化した大河ドラマの第58作。薩摩の英傑・西郷隆盛の生涯を描いた。主演は鈴木亮平。盟友・大久保利通に瑛太が扮した。幕末~明治維新の時代は、戦国~安土桃山期と並ぶ大河ドラマの“鉄板”時代であり、人気者の西郷さんが主人公ということで期待を集めたが、最高視聴率15.5%、平均視聴率12.7%と視聴率的には厳しかった。(ビデオリサーチ調べ)
上記は「西郷どん」の録画視聴数のグラフである。赤が地上波録画視聴、青がBS録画視聴。どちらも期間内の最高ポイントを100とした指数で表している。大河ドラマは地上波とBSの両方で放送されているが、特にBSの録画視聴では高いポイントを保ち、総合第1位の常連であった(視聴率でも日曜午後6時からのBSの数字が高いことで知られる)。グラフを見ると、地上波の録画ポイントは初回が最高で回が進むにつれて下がっていく傾向が見て取れるが、BSのポイントは比較的安定して推移している。BSの最高ポイントは、北川景子扮する篤姫が、将軍・家定への輿入れのため吉之助(西郷)に別れを告げた第12回。そして大きな特徴として、地上波、BSとも、40回以降のポイントが大きく落ち込んでいる。最終回で取り返してはいるものの、最高ポイントから見ると93%台にとどまっている。明治期に入りストーリーの色合いが変わってきたことはあるにしても、落ち込み方が激しいことは否めない。
ここで大河ドラマの過去2作、2017年の「おんな城主 直虎」と2016年の「真田丸」のポイント推移を見てみよう。
過去2年の大河ドラマのポイントを見てみると、最終回のポイントが大きく上昇しているのが分かる。BSのポイントを見ると、「直虎」は最後の数週間はすべて自己ベストを更新していて最終週がベストポイント。「真田丸」も最終回が大きくポイントを上げて、23~25回(北条、伊達を治めて、秀吉が東国も手中にする一方、茶々との一子・鶴松を失う)と並び、ベストポイントを記録している。地上波でも、開始時の勢いには届かないものの(地上波録画ポイントで、序盤にピークが来るのは3作品に共通している)、「直虎」と「真田丸」は最終回のポイントがそれなりに高いレベルに達している。それに比べると「西郷どん」の終盤のポイントはあまりに低く、この数週間で“録画視聴で大河ドラマを見る”という習慣自体をなくした層が生じた可能性もある。
今のところ「いだてん」は録画視聴でもあまり好調とは言えず、大河ドラマが最も強さを発揮するBS録画視聴ランキングでも6週連続2位にとどまっている(2月22日現在)。確かに「西郷どん」の終盤の失速が「いだてん」のスタートダッシュに影響を与えているのかもしれないが、ここから勢いを取り戻していく原動力はやはり作品の力以外にないだろう。「いだてん」は確かに冒険作である。でも、長い歴史の中で大河ドラマもチャレンジしていかなければならない。「あまちゃん」も当初は“朝ドラらしくない”と言われながら、最終的には国民的な支持を得た。“大河らしくない”と言われる「いだてん」の物語が今後どういう展開をたどるのか。そしてランキングがどんな動きを見せていくのか。最後まで期待して見守っていきたい。
Text=武内朗
データ提供:東芝映像ソリューション
武内朗(たけうちあきら)
TVアナリスト。東京ニュース通信社にて「TVガイド」「TV Bros.」編集長ほかを歴任。現在株式会社ニュース企画代表。好きな言葉は博覧強記。3大フェイバリットコンテンツは、ビートルズ・ナイアガラ・魔法少女まどか☆マギカ。
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