【町田樹さん独占ロングインタビュー】町田さんが語る2019-2020シーズン、そして解説者としての揺るぎなき信念とは?2019/10/28
10月5日にさいたまスーパーアリーナで開催された「カーニバル・オン・アイス2019」。同日に行われた「ジャパンオープン2019」に出場した現役トップ選手たちと、豪華ゲストスケーターたちが、それぞれの個性あふれる演技で観客を魅了しました。
10月29日(午後5:29~8:00)にBS テレ東/BSテレ東4Kで放送される「フィギュアスケート カーニバル・オン・アイス2019 ノーカット完全版」では、その模様を町田樹さんによるスペシャル解説付きでお届けします。
解説の収録を終えた町田さんに「カーニバル・オン・アイス2019」の見どころと、2019-2020シーズンのフィギュアスケート界についてたっぷりとお話を伺いました!
──「カーニバル・オン・アイス2019」の見どころを教えてください。
町田 「毎年そうなのですが、『カーニバル・オン・アイス』はシニアのシーズン初めに行われていることもあり、現役選手の多くが新シーズンの競技会のプログラムを初お披露目しています。またゲストのプロスケーターたちも、それぞれの持ち味を生かした珠玉のプログラムを演じています」
── 特に印象に残った演技を教えてください。
町田 「もちろんどの演技も素晴らしかったのですが、あえてプロスケーターが演じたプログラムの中から三つご紹介するとすれば、まず第一にメリル・デービスさん&チャーリー・ホワイトさんの『Elastic Heart』が挙げられます。このプログラムは、一つの作品として素晴らしい完成度、そしてクリエーティビティーでした。コンセプトに基づき、創意工夫がなされた小道具の使い方と演出には、プロフェッショナルの境地を見せていただきました。二つ目は、織田信成さんの『アンチェインド・メロディ』です。技術的進化の著しい現役選手たちに全く引けを取らないジャンプの質を見れば、彼が今なお技術を磨き続けていることが一目瞭然となります。またプログラムは映画『ゴースト』を翻案したものですが、織田さんのスケーティングはその主人公である“ゴースト”の心情をとてもよく表していると感じました。そして三つ目は、無良崇人さんの『美女と野獣』です。成熟したプロスケーターとしての味わいが存分に感じられるプログラムで、本当に心に響くスケーティングでした」
── 女子フィギュアスケート界は、ロシア勢を筆頭に4回転ジャンプの時代に突入しました。「カーニバル・オン・アイス2019」に出演した紀平梨花選手、宮原知子選手がその中で戦っていくために、必要なことは何だと考えますか?
町田 「やはり日本選手たちの強みは、技術のどこかに偏りがあるのではなく、ジャンプやスピン、ステップなどの全ての技術的要素をクオリティー高くこなし、高い頻度でパーフェクトな演技ができることだと思います。これは紀平梨花選手や宮原知子選手に限ったことではなく、日本選手の皆さんに言えることです。アレクサンドラ・トゥルソワ選手のような異次元の4回転ジャンパーがロシアから出てきたことにより、多くの選手に『4回転を跳ばなくてはならない』という焦りや、『4回転ジャンプにどう太刀打ちしていっていいのか分からない』という戸惑いがあると思います。その気持ちは痛いほど分かりますし、実際、男女を問わず、4回転やトリプルアクセルを猛練習している選手が多いと聞いています。しかし、こういう時代に至ってしまっては、他人と自分を比較するのではなく、自分自身の理想とするフィギュアスケートのプログラムや、自分の持ち味というものを飽くなき探究心で磨き続け、そしてそれを貫き通すという姿勢が重要になってきます。そういう姿勢や努力というものは、たとえ競技成績というかたちで表れなかったとしても、人々の心を打ちますし、その人のスケーター人生の中で必ず報われる時がきます。そう強く信じる心が、これからさらに過酷を極めるフィギュアスケート界で生きていくためには必要なのです」
町田 「もちろん、この4回転問題は選手たちだけの問題ではありません。私たちフィギュアスケート関係者も真剣に検討しなければならない問題です。国際スケート連盟や各国スケート連盟をはじめ、コーチ、振付師、マスメディア、ジャーナリスト、実況・解説者など、フィギュアスケート界やスケーターの人生に携わっている周囲の大人たちが、選手の努力を正当に評価するための競技規則や評価尺度、環境、活躍の場を形成していかなければならない。いよいよ、そのような時代が来たと私は考えています」
町田 「競技成績を追求することもとても大事なことですが、とにかく“自分の信じるフィギュアスケート”というものをしっかりと見据え、それを追求し、守り抜き、自分自身の道を歩んでいってほしいです。私はそのようなスケーターの姿勢や努力を、正当に評価し、そしてそれを世間に伝えていけるような解説を心がけたいと思っています」
──「カーニバル・オン・アイス2019」初出演の島田高志郎選手は、ステファン・ランビエールさんに師事しています。島田選手の演技にランビエールさんの影響を感じますか?
町田 「もちろんランビエールさんの門下生たちは、彼から多大なインスピレーションをもらっていると思います。まずは、ランビエールさんの動きの性質というものを会得することが最初のプロセスとなることでしょう。しかし、そのことだけに留まってはいけません。ランビエールさんからもたらされたインスピレーションを糧にして、それをいかに“自分の色に変えていくか”ということが、次には大事になると思います。島田高志郎選手はシニアデビューしたばかりですが、さいたまスーパーアリーナという大舞台にもかかわらず、4回転ジャンプを見事成功させ、ミスを最小限に抑えたクオリティーの高いフリースケーティングを演じました。とても立派だったと思います。今後の活躍が期待できる選手の1人だと考えています」
── 宇野昌磨選手、髙橋大輔選手、ネイサン・チェン選手など、今シーズンはテンポの速い音楽をプログラムで使用している選手が多い印象です。その理由は何だと考えますか?
町田 「ボーカル入りの曲が解禁になったのが、2014-2015シーズン。最初はボーカル入りの曲や新しいジャンルの曲に抵抗があった人たちも多かったと思いますが、それから5年が経過し、その違和感がだいぶ薄れてきたのではないでしょうか。選手たちの選曲の傾向を見ていると、近年より一層、ヒップホップやダンスミュージックなどのテンポの速い曲に挑戦できる雰囲気に、業界全体がなってきたのかなという印象を受けました。とにかく今シーズンは、さらにクラシック曲が少なくなってしまった(苦笑)。ボーカル入り楽曲の使用を許可するという条文をルールに加えただけで、これだけ選曲の傾向が変わってくるというのは、当たり前のことではありますが、ルール改正というものがフィギュアスケートに大きな影響を与えるということの一つの表れです。BPMの高い(テンポの速い)曲をフィギュアスケートで表現することは難しいと思いますが、だからといって決して不可能なわけではありません。それを振付の工夫とスケーティングの技術を駆使してやってのけているのが、ネイサン・チェン選手や宇野昌磨選手、髙橋大輔選手なのではないかと思います」
── 宇野選手が今季、メインコーチをつけないことを発表しました。メインコーチというのは選手にとってどんな存在なのしょうか?
町田 「宇野選手ほどの成熟したスケーターになってくると、コーチは技術指導というよりも、むしろメンタルをサポートするという役割の方が大きくなってきます。試合の時、選手は緊張や不安などさまざまな思いを抱えますが、そのような時に傍らにいてくれるコーチの存在というのは、やはり大きいのです。そういう意味で、コーチ不在という状況は多くの困難を伴うと思います。ただ、宇野選手はロシアやスイスに合宿に行き、世界のあらゆるトレーニング環境を実際に目で見て、体験しました。そういった経験はなかなかできません。そこで得られた学びや気付きを大事に、宇野選手の納得のいくシーズンにしていってほしいと思います」
── 町田さんの解説について伺います。今回の解説には新しい試みが見られましたが、解説者としてどんな思いで収録に臨まれましたか?
町田 「現在、ISUのチャンピオンシップ規模の大きな大会だけでなく、アイスショーやチャレンジシリーズまで、あまたのフィギュアスケートイベントが地上波、BS、 CS、ライブストリーミングで見られます。その中で実況者と解説者は『実況・解説の役割は何だろうか』ということを、常に自分自身に問い続けなければいけないと思います。『演技を楽しんでいただくためのヒントや手掛かりになる情報を視聴者に届ける』ということが実況・解説の大きな役割です。競技者たちも常に技術を磨き続けているわけですから、われわれ実況・解説者もスキルを磨き続けなければなりません(笑)。『実況・解説なんていらない』と視聴者に思われてしまっては、悔しいですからね。ましてフィギュアスケートには音楽があるわけですから、本来であれば、そんなに言葉を添える必要はないはずなのです。そのような中で、わざわざ第三者が言葉をはさむのですから、有意義な情報を提供し、少しでも新たな観戦・鑑賞のポイントをお伝えしたい。その思いは私と実況の板垣龍佑アナウンサーの中に誰よりもあります。このようなポリシーの下に、今回は私たちも新境地を開くベく、実験的な試みとして新しいスタイルの実況・解説を盛り込みました。それがどのように視聴者の方に伝わるのか、非常に楽しみにしています」
── 板垣龍佑アナウンサーとのコンビは、今回で3年目ですね。
町田 「自分たちで言うのもなんですが、本当にいいコンビだと思います。やはり3年目ともなると、板垣さんと私で、考えや収集する情報、言葉の言い回しなどがピタリとシンクロしてきます。そういうシンクロナイゼーションやシンパシー、そして信頼関係を、2人の間で揺るぎないほどにまで築き上げてきたつもりです。ただ、そこに安住していてはやがてマンネリ化してしまうので、新しい実況・解説のスタイルを共に探求し続ける努力をしています。何より板垣さんとは、フィギュアスケートの実況解説に対する情熱を同じレベルで共有できている。そこに、私はとても幸せを感じます」
── 昨年の「カーニバル・オン・アイス2018」で町田さんは、「フィギュアスケートを文化にしたい」をいう願いを話されました。あれから1年が経ちましたが、進歩を感じていますか?
町田 「いやいや…わずか1年では変わらないと思っています(苦笑)。実況・解説者、放送局、マスコミ、コーチ、振付師…選手はもとよりさまざまな立場の人たちがその目標に向かって努力し続けなければ、ブームは文化にはなりません。たとえ文化として成熟の域に達したとしても、『文化になったな』と安易に達成感を得るのではなく、『まだまだ』とそれぞれの立場でできることを探し、努力し続ける姿勢が重要だと思います。私自身、競技者であった時も、プロスケーターであった時も、振り付けをする者としても、解説者としても、そして研究者としても、「フィギュアスケートを少しでも成熟した文化へと導くための一歩を歩む」という信念の下に活動しています。しかしながら、フィギュアスケートを文化にするということは、私一人の力でできることではありません。フィギュアスケートに携わる方たちとその思いを共有して、これからも共にその目標への道を歩んでいきたいです」
また、番組プロデューサーの三瓶純さんからもコメントが届いています。
三瓶 「プロスケーターを引退し、学業、そして研究に専念されていた町田樹さんに、久しぶりに解説していただきました。今回も“フィギュア愛”に満ちあふれた解説になっているのですが、町田さんがトライした“新機軸の解説”は、非常に興味深く、面白く、なんというか前代未聞とも言える解説ではないでしょうか。新シーズンを戦う現役選手へのメッセージなど、より一層パワーアップした“町田ワールド”をぜひご堪能いただければと思います。間違いなく永久保存版です」
番組では、宇野選手、髙橋選手、島田選手、紀平選手、宮原選手といった日本の現役選手たちの演技はもちろん、2019年世界選手権金メダリストのチェン選手、アリーナ・ザギトワ選手をはじめとしたトップスケーターたちの演技、さらにはプロゲストスケーターたちの珠玉のプログラムも町田さんの解説付きで完全オンエア! 奥深いフィギュアの魅力を堪能できます。ぜひ、ご覧ください!
<番組情報>
【フィギュアスケート カーニバル・オン・アイス2019 ノーカット完全版】
BS テレ東/BSテレ東4K
10月29日(火) 午後5:29 ~8:00
「KISS&CRY」とは?
「KISS&CRY」シリーズは、日本のフィギュアスケーターの皆さんをフィーチャーし、その「戦う」姿、「演じる」姿を合計50ページ超のグラビアでお届けしています。つま先から指先・その表情まで、彼らの魅力を存分に伝えます。また、関連番組テレビオンエアスケジュールも掲載。テレビの前で、そして現地で応援するフィギュアスケートファン必携のビジュアルブックです。
Twitterアカウント:@TeamKISSandCry
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