Feature 特集

「ライブが一番好き」「ライブを大事にせなあかん」。アイロンヘッドが語る、手放したくない場所【ロングインタビュー後編】2022/05/19

「ライブが一番好き」「ライブを大事にせなあかん」。アイロンヘッドが語る、手放したくない場所【ロングインタビュー後編】

 コントや歌ネタを強みとし、「歌ネタ王決定戦」では決勝に4回進出した実績を持つお笑いコンビ・アイロンヘッド。そんな2人が、「出場資格は15年以内」の「M-1グランプリ」に本気で挑むため、初の“漫才”単独ライブを開催する。

 インタビュー後編では、ナポリさん、辻井亮平さんのお二人に、過去の賞レースでの苦い記憶や、尊敬する先輩からの言葉について語ってもらった。(前編はこちら:https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1540763/

ネタ中に「ホンマ、何やってんねやろ……」

「ライブが一番好き」「ライブを大事にせなあかん」。アイロンヘッドが語る、手放したくない場所【ロングインタビュー後編】

――「M-1」、「キングオブコント」に毎年出場されている中で、印象に残っている年はありますか?

辻井 「3年前の『キングオブコント』やったと思うんですけど、もう歴史に残るスベり方してもうて。準決勝までいった年やったんですけど、あの時のことは忘れられないですね。一通り準決勝の出番が終わって、最後にMCのあべこうじさんが出てくるんですけど、お客さんに向けて『結果発表までもう少々お待ちくださいね。いやー、みんな面白かったですねー!』って言ってる中、『アイロンヘッドだけは絶対ない!!』って(笑)。なかなかないですよ、そんなふうに言われること」

ナポリ 「準々決勝でも同じネタをやったんですけど、その日はたまたま調子が悪くて。でも、審査員の方もMCの方もむちゃくちゃ笑ってくれたんです。だから審査員の方が『このネタは面白い』と思って、準決勝に上げてくれたんでしょうね。で、いざ準決勝で『よし、今日はホンマにウケるしかない』って気合入れてやったのに、めちゃくちゃスベってもうて……。準々決勝で温情みたいなもので合格させてもらったのに、準決勝でまたスベって。ホンマ、見てられなかったですね」

辻井 「僕、ネタの後半でもう諦めてしまって、キャラのフリして、本当に自分の心の底からのセリフで『ホンマ、何やってんねやろ……』って言っちゃいましたね。『絶対無理や!』って。ネタ時間5分で、4分スベってたんで、あと1分どんだけウケてももう勝てないんですよ。『あー、何やってんねやろ……』って。心の声が漏れちゃいましたね」

ナポリ 「あれは難しかったですね……。なんて言うんですかね、なんか、練習しすぎるとよくないネタってあるんですよ。『キングオブコント』に向けて1、2回したくらいでちょうどいいネタやったんですけど、準決勝ってことでプレッシャーがかかって、直前に1回練習しただけで本番を迎えたんです。そしたら練習してなさすぎて、逆に辻井が緊張したのか、めっちゃかんで」

辻井 「ははははは!(笑)。かんだことすら覚えてないですわ(笑)」

ナポリ 「『あれ? 辻井?』『今日めっちゃかむなぁ……』って。もうちょっとだけ、直前に練習したらよかったなって思いますね」

――「M-1」においては、いかがですか?

辻井 「『M-1』だと、5年前に初めて準決勝までいかせてもらった時、『これ、決勝いったんちゃう!?』ってくらいウケたんですよ。結局いけなかったんですけど、あの時は『ホンマに決勝あるかもしれん!』って、ドキドキしましたね」

ナポリ 「うん。『M-1』は楽しいイメージしかないです。やってみたらめっちゃウケて、いくんじゃないかって言われて、ドキドキしながら発表を待って。だからそこまで苦々しい思い出はないかな? もっと真剣に『優勝する!』っていう思いがあれば悔しさとかが出てくるんでしょうけど、今のところはやっぱり“『M-1』は楽しい”っていう印象があります。ただ、普段コントをやってる芸人が漫才をやってウケると、ゆにばーすの川瀬名人の“川瀬レーダー”が反応して、『アイロンヘッドさん、ウケすぎです。上いかれたらこっちはたまったもんじゃないんで、やめてください』って、ちょっと怒られるっていう(笑)。リストに入れられるんですよ。川瀬名人の“注意人物リスト”に」

――そんなリストが……! ほかにどなたが入っているんですかね?

辻井 「男性ブランコやな」

ナポリ 「男性ブランコも入ってるんや(笑)」

辻井 「『あんな適当なしゃべりの感じでやられたら困る』って、いつも怒られてます(笑)」

ナポリ 「最近怒ってる! 『つかみダラダラしゃべんなよ! こいつら!』ってめっちゃ怒ってる!!(笑)」

辻井 「男性ブランコは本人らのよさでやってるだけなんですけどね、川瀬名人レーダーが反応してます。危ないですね」

――昨年の「M-1」も、敗者復活戦3位という結果でしたもんね。

ナポリ 「そうそう。だから川瀬名人のリストには入ってると思いますよ(笑)」

「ライブで楽しいことをやれてるのが、一番幸せやなって思うんです」

「ライブが一番好き」「ライブを大事にせなあかん」。アイロンヘッドが語る、手放したくない場所【ロングインタビュー後編】

――辻井さんの「note」を拝見したのですが、「歌ネタ王決定戦」についての記事で「アイロンヘッドが芸人の仕事だけで飯が食えるようになったのは、間違いなく歌ネタ王のおかげ」とつづっていらっしゃいました。決勝には4回進出されていますが、状況がいい方向に向かっていると感じ始めたのは、いつ頃だったのでしょうか?

辻井 「初めて決勝までいかせてもらった、2013年頃ですかね。なかなかバイトが辞められへんかった時に、『歌ネタ王』で初めて決勝いって、『アイロンヘッドってやつおるんや』ってちょっと広まって。そこから仕事が増えだしたんです。だから『歌ネタ王』には感謝ですし、思い入れもありました」

――2013年というと、大阪で活動していた頃ですね。

辻井 「そうです。それから、劇場でも一軍のメンバーに入ったりとか、今まで行ったことない営業に行かせてもらったりとか。『歌ネタ王』が転機になって、いろんな経験をさせてもらいました」

ナポリ 「『歌ネタ王』という賞レースができたことによって、僕らも関西じゃちょいちょい飯食べさせてもらえるようになりましたね。そこから劇場でも成果出して上にいけたりしたので、本当に僕らにとって転機となった大会やったなって思います。………優勝、できなかったですけどね………」

辻井 「まぁまぁ、ね。去年がラストやったんで」

ナポリ 「『歌ネタ王』で優勝したZAZYが、『R-1グランプリ』は準優勝っていう。世の中、本当にほしいものは手に入らないですね」

――2020年8月7日、辻井さんがご結婚された際には「こんな年になるまで売れてませんが」という言葉も交えながら、ご結婚の報告をTwitterに投稿していらっしゃったと思います。今はテレビに限らず活躍できる場所も豊富になり、いろんな“売れ方”がある時代だと思うのですが、お二人が目指すのはどのようなところになりますか?

辻井 「当時はそんなに活躍できてるわけでもなかったし、“売れてる”なんて全く思ってないんで、もうちょっと頑張らなあかんなって気持ちもあって、そういうふうに書いたんかな。僕、ライブが一番好きなんですよね。ライブで楽しいことをやれてるのが、一番幸せやなって思うんです。それを続けるためにはテレビにも出れるように頑張らないといけないですけど、みんなでずっとライブができてたらいいなと思います」

ナポリ 「僕も、まず思うのは、ライブがめちゃくちゃ楽しいってことです。ライブを大事にせなあかんし、お客さん、ファンの方を大事にせなあかんって思ってます。“別にテレビに出なくてもいいんじゃないか”という考え方もあると思うんですけど、その考えってちょっとダサいなって。だからまずテレビで売れてから、『テレビに出てるけど、舞台が一番大事なんだよ』っていう、一番格好いいスタイルでやっていきたいです」

――出演してみたいテレビ番組はありますか?

ナポリ 「『世界まる見え(世界まる見え!テレビ特捜部)』(日本テレビ系)です」

辻井 「そうなんや。へぇ~」

ナポリ 「今も昔も、ずっっっと面白いんです。ビートたけしさんからメリケン粉みたいなんをバーンって受けて、粉まみれで衣装くちゃくちゃになって、ジャージに着替えて2人で並んで、海外のヒヤヒヤハプニングVTRを見たりしたいです」

――昔からお好きなんですね!

ナポリ 「ちっちゃい頃からずっと面白いんですよ。しかも何も変わらないまま、ずーーーっと続いている。たぶん20年前の映像を見ても、『世界まる見えやな』って分かると思うんです。すごいんですよ、あの番組。今でこそ“海外の驚きのワンちゃん”とか“難病から奇跡の復活”を紹介する番組ってたくさんありますけど、それってすでに全部『世界まる見え』がやってるんですよ」

辻井 「『世界まる見え』への愛がすごいな……」

ナポリ 「すみません、熱くなりました。こんなアツなると思いませんでした(笑)」

辻井 「聞いたことないもんな。お客さんも知らんのちゃう? お前が『世界まる見え』好きやってこと。お前、発信してないから」

ナポリ 「もっと発信した方がいいですかね?」

辻井 「俺も初めて聞いたもん(笑)」

先輩方からもらった言葉と、かわいい後輩たち

「ライブが一番好き」「ライブを大事にせなあかん」。アイロンヘッドが語る、手放したくない場所【ロングインタビュー後編】

――お二人が尊敬する先輩が、笑い飯さんと千鳥さんだとお聞きしました。先輩方から言われてうれしかった言葉など、エピソードがあれば教えてください。

辻井 「コロナ前ですけど、千鳥の大悟さんによう連れてってもらってたんです。東京に出てきた頃、大悟さんが『お前は昔のわしに似とる』って言ってくださって。『お前はボケもツッコミも両方せないかん。でも、頑張ってたら絶対大丈夫やから』って言ってもらえたのはうれしかったですね。それまでどうやってボケるかしか考えてなかったんですけど、『もっと助けなあかん部分があるな』って気づいて。『ツッコむだけでこんな笑い起きるんやったら、両方やろう』って意識するようになったんです」

ナポリ 「僕は、GAGさん、うるとらブギーズさん、アイロンヘッドの3組で舞台があった時のことなんですけど、うるとらブギーズさんに僕がめちゃくちゃ言ってしまって。僕としては普通のことを言ってたつもりだったんですけど、終演後、GAGさんが僕のところに来てくださって、福井(俊太郎)さんと坂本(純一)さんから『ナポちゃんが辛辣(しんらつ)なこと言うん、やっぱり面白いで』って言ってもらえたんです。僕としては普通のことを言ってたつもりやったのに、これってめっちゃ失礼なことやったんや、ってその時知って。でも、それを面白いって言っていただけるんやったら、そこに金脈があるなと思って、最近は専ら辛辣なこと言うようにしてます」

辻井 「最悪や!(笑)」

ナポリ 「うるとらブギーズさんに対して、専ら辛辣なこと言ってます(笑)」

――先輩方から愛されているんですね。一方、辻井さんのTwitterでは、イジりつつも愛のある言葉と写真で、後輩の方々と過ごす日常が切り取られていますよね。

辻井 「そんなことないですよ!(笑)」

――なかなか名前を挙げるのは難しいかもしれませんが、「頑張ってほしいな」と思う後輩の芸人さんがいれば教えてください。

ナポリ 「僕は、カゲヤマというコンビを非公式で推してます」

辻井 「カゲヤマ、すごく面白くて芸人はみんな大好きなんですけど、非公式の意味が僕も分からないですね……」

――記事には書かない方がいいですかね……?

辻井 「そうなってくるよ、そら(笑)」

ナポリ 「非公式だということが伝わるように、書いていただきたいです」

――分かりました! どういうところが「推し」なんですか?

ナポリ 「なんかね、かわいらしいんですよね。かわいらしさと、汚らしさが魅力です。“きたなかわいい”です。ネタがめちゃくちゃ面白いんですよ。結構荒削りなネタしてて、『こんな荒削りなネタしてたら、こいつら若いから5年後伸びるぞ』と思って芸歴聞いたら、僕らの1個下でした(笑)。若い頃のネタって荒いじゃないですか。それがどんどん洗練されていくんですけど、1個下でまだまだ荒かったです」

辻井 「カゲヤマ、ネタめちゃくちゃ面白いです! 僕は『頑張ってほしい』とかそんな偉そうなことは言えないんですけど、大自然のしんちゃんは、常に俺を油断させんように現実を教えてくれるんですよ。『辻井さん、今のウケすぎや』とか『ニュアンスが伝わりすぎてる』とか。それ聞いて、『今、あぐらかいてたな』って気づけるんです。ありがたい後輩の1人ですね」

ナポリ 「気づけ、自分で!」

辻井 「気づけないんですよ、ウケるから。『今のニュアンス、ほかやと伝わらないですよ』ってちゃんと言ってくれるんで、『よかった、勘違いするとこやったわ』って。しんちゃんには、いつまでもそばにいてほしいです(笑)」

「ライブが一番好き」「ライブを大事にせなあかん」。アイロンヘッドが語る、手放したくない場所【ロングインタビュー後編】
「ライブが一番好き」「ライブを大事にせなあかん」。アイロンヘッドが語る、手放したくない場所【ロングインタビュー後編】

【プロフィール】

アイロンヘッド
ナポリ(1985年1月10日生まれ、大阪府摂津市出身)と、辻井亮平(1985年2月1日生まれ、兵庫県神戸市出身)が京都産業大学の学生寮「追分寮」で出会い、大学卒業後、ともに大阪NSC30期生として入学。2008年、コンビ結成。14年、「平成26年度 NHK新人お笑い大賞」優勝。「歌ネタ王決定戦」では、決勝に4回進出した実績を持つ。16年より、活動拠点を大阪から東京に。21年4月より、ヨシモト∞ホールの看板芸人「ムゲンダイレギュラー」として活躍中。22年5月21日、東京・北沢タウンホールにて、初の漫才単独ライブ「アイロンヘッド新衣装お披露目漫才公演『メイク・アップ』」を開催予定。会場チケット、配信チケットともに発売中。

取材・文・撮影/宮下毬菜



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.