ミルクボーイ、空気階段、オダウエダの優勝に「自分ら、いつやねん」。前代未聞の単独ライブに挑む、ななまがりの原動力【ロングインタビュー前編】2022/03/04
2日間にわたる単独ライブで、それぞれ昼・夜の、計4公演。4公演とも全く異なる内容で、さらにネタは「すべて2022年に作った新ネタ」。そんな前代未聞の単独ライブを開催しようとする彼らを前に、周りの芸人仲間は“ドン引き”だという。
吉本興業に所属するお笑いコンビ・ななまがり。大阪芸術大学の落語研究寄席の会、いわゆる“落研”で出会い、2008年に結成。16年には「キングオブコント」ファイナリストとなり、さらに元号が平成から令和に変わった19年5月、「水曜日のダウンタウン」(TBS系)の企画「新元号当てるまで脱出できない生活」に出演。笑いと感動を呼ぶ2人の姿が話題を集め、「ギャラクシー賞」月間賞を獲得した。
大阪芸術大学の落研仲間である、ミルクボーイ、空気階段・鈴木もぐらさん、オダウエダ・植田紫帆さんらの躍進は「悔しいし、焦る」。そんな思いから、この挑戦を決めた。
「売れる準備ができた」。確かな手応えを感じて猛進する、森下直人さん、初瀬悠太さんのお二人に、この単独ライブ「ななまつり 二〇二二」に懸ける思いを聞いた。
周りの芸人仲間からは「俺らやったら解散するわ」
――すべて内容の異なる、2日間4公演の単独ライブ。準備は進んでいますか?
初瀬 「ちょっとずつ進んできましたね。間のVTRは結構そろってきた状態で、ネタは…まだ………(笑)」
森下 「何本くらいやろな、たぶん8、9本くらいできたんかな…。1公演で7本ネタをやる予定なので、4公演で28本。3分の1くらいの進行度合いです(笑)」
初瀬 「準備が、というか、気持ちが忙しいですね。休みの時間も、『休んでていいんかな?』って。終わるまでは、仕事の休みがあっても気持ちの休みはなさそうです」
森下 「単独で4公演やるというのが初めてなんです。今までは1、2カ月前に準備を始めて、1公演というのが多くて。でもネタ10本やるとかはありましたけど(笑)。今回は年明けから準備を始めたんですけど、いつの間にか2カ月たってる…」
初瀬 「去年の11月にオファーをいただいて、12月の後半くらいに内容を固める打ち合わせをしたんですよ」
森下 「だから体感的には、年明けからずっと何かを背負ってる状態で。『この荷物降ろせるの4月か…』って。ちょっと大変なことが一つ終わっても、『終わったー!』って思えない(笑)。こんな期間が4カ月も続くというのは初めてですね。楽しみではあるんですけど…」
初瀬 「常に頭のどこかで『ななまつりかー』って。成功させたいです。でも、まだ失敗がちらついています(笑)」
――周りの芸人の皆さんからはどのような反応がありましたか?
初瀬 「芸人やったら1個の単独の大変さを分かっているので、もちろんすごいとは言ってもらえるんですよ。ただ芸人やってると1個の単独の大変さを分かりすぎてるんで、それを2日間で4公演やるって言うとだいたいドン引きされますね。『え、マジっすか…?』『大丈夫ですか…?』って」
森下 「『勘弁してくれ』って言われますね。僕らがそんなことをやることによって、みんながプレッシャーを感じてしまうみたいです。『俺らも新ネタ作らなあかんくなるやん!』って(笑)」
初瀬 「あとは、コンビの関係性にもよると思います。僕らはネタは2人で作ってて、新ネタも普段から作ってる方ではあると思うんですけど、『俺らやったら解散するわ』って言われたり。単独前って、ただでさえけんかしがちなんですよ、お笑いコンビって。お互い切羽詰まってる状態になって、もめちゃうんです」
森下 「ゆにばーすの川瀬名人は、『俺らなら必ず5回はけんかする』って言ってました(笑)。僕らは、現状はまだないですね」
初瀬 「なんとか耐えてます(笑)」
――お二人はこれまでも年に1回は単独ライブを開催されてきましたが、ぶつかることは多かったのでしょうか。
初瀬 「ありましたね~」
森下 「それはもう。流血もあるくらい」
――そうなんですか!?
森下 「これはTVガイドさんで言うことではないんですけど、傷ができるくらいひっかき合いになることがあるんです。2人とも結構熱くなって、ガッてつかみ合いになるんです」
初瀬 「この話はTVガイドさんには載せてほしくない(笑)」
――それは言葉通り、本当につかみ合いになるんですか?
森下 「本当になるんです。ただ、2人ともちゃんとしたけんかをしたことがないので、ただの顔のつかみ合いになるんですよ。だから爪が長い方が勝つ(笑)」
初瀬 「1回後輩に目撃されたことがあって。それ以降、ちまたでは“ななまがりキャットファイト”って言われてます(笑)」
――お二人は喫茶店でネタ作りをしていると拝見したのですが…。
森下・初瀬 「えっ!!!?」
初瀬 「見たんですか…?」
森下 「俺らのこと、見たんですか!?」
――YouTubeなどで、そう話されているのをお聞きしました(笑)。
森下・初瀬 「あ~~~~~!!」
森下 「びっくりした~」
初瀬 「喫茶店で見られたんかと(笑)」
――ややこしい言い方をしてすみません(笑)。喫茶店でひっかき合うこともあるんですか?
初瀬 「喫茶店ではさすがにないです(笑)。あと、コロナ禍になってから本社があまり使えなくなったんです。自分たちの体力とか頭の疲れを分かってなかったので、コロナ前は本社で夜中まで無理してやっちゃってましたね」
森下 「大学の頃かな、大昔の話なんですけど、ファミレスに27時間いたことがあります。ちゃんと注文はしてたんですけど、ドリンクバーで朝から次の日の朝までいました。最初入った時の店員さんが、退勤して、また出勤してきたんですよ。『まだおるやん!』ってめっちゃびっくりされました」
初瀬 「昔はそういう無理をしちゃってましたね。最近は早く閉まるお店が多いので、僕らにとっては良いことかもしれないです」
森下 「短時間でやることになるので、今の方が順調ですね。集中力も持ちますし。長くやればやるほど、調子が悪くなって出てこない時ってあるじゃないですか。出ないってなると『出るまでやろう』みたいな。そうなるとお互い意地になって、ちょっとしたことで『ん? なんやねん!』ってイライラしてきて。……って、ネガティブな話はやめとこ、けんかの話ばっかりしてるやん。楽しいことを言おう」
初瀬 「何? 今の(笑)」
森下 「これ以上言いたない、過去のけんかの話(笑)。今回は楽しくやってます!」
ミルクボーイ、空気階段、オダウエダの優勝に焦り「自分ら、いつやねん」
――お二人と同じ、大阪芸術大学の落語研究寄席の会出身の芸人さんとして、ミルクボーイさん、空気階段・鈴木もぐらさん、オダウエダ・植田紫帆さんらがいらっしゃいます。今回のライブの開催に向けて、初瀬さんが「自然と『負けてられない』という気持ちが湧いてくる」とコメントされていましたが、ミルクボーイさんやもぐらさんとは、当時はどういう関係性だったのですか?
初瀬 「僕は大学でお笑いサークルに入りたかったんですけど、落研しかなかったのでどうしようかなって迷っていたんです。新入生歓迎祭があったのでそれを見て決めようと思っていたら、『1組だけめっちゃおもろい人おる!!』って。それがミルクボーイさん。『この人らおるんやったら入りたいな』とか、単純に『どんな人なんやろ? 仲良くなりたい』って思って落研に入りました。そこで森下と出会ってコンビを組むんですけど、ミルクボーイさんはホンマにずっと、背中を追い掛けてる存在です」
森下 「僕は元々、大学では落研に入ろうと思っていて。今思えば、ミルクボーイさんを見て落研に入った初瀬がいたから、ななまがり組んだわけで。で、空気階段のもぐらは、一応芸歴的には僕らのもっと下になるんですけど、大学では二つ下なんです。もぐらが言うには、僕らとミルクボーイさんの2組を見て、面白いから入ってくれたらしくて。で、内海(崇)さんは最初、落研入るかアイスホッケー部に入るかで迷ってて、ギリギリで落研に決めたらしいんです。だから内海さんが落研に入ってなかったらミルクボーイさんはできてなかったし、ミルクボーイさんができてなかったらななまがりもできてなかったし、ななまがりがいなかったらもぐらも芸人やってなかったかもしれないなって。内海さんが落研に入ってくれて良かったって思っています」
初瀬 「すべての“祖”ですね。ただ、もぐらは落研入ってくれたんですけど、お金に困って大学すぐやめたんですよ。それでちょっとたった頃、東京でNSC入ったって聞いて。僕らは当時大阪で活動してて、大阪で単独ライブやってたんですけど、もぐらがわざわざ夜行バスで毎回見に来てくれたんです。ホンマに律儀に、毎回見に来てくれて」
森下 「もぐらは、本格的に芸人になるかどうかって相談を初瀬にしてたらしいんです。初瀬の『絶対芸人やれ、お前おもろいんやから』って背中の一押しで、どうやらNSC入ったらしいんですよ。それくらい関係が深い後輩です」
初瀬 「昔から面白かったですね、もぐらは。なんか輝くものがあるというか。当時からコントをやってたんですけど、ネタも面白いし、人間的にも面白いやつで」
森下 「うん。普段からしゃべってて楽しいし、生い立ちも独特やから話題も尽きんし。で、あれやんな、東京で久々に再会した時にリュックが…」
初瀬 「僕も別におしゃれとかじゃないんですけど、体形は同じくらいなんで、もぐらが大学やめて東京行くって時に『服とかくださいよー』って言われて。あいつ金なくて何も持ってないんで、『全然ええでー』って僕の着なくなった服とかあげたんです。もぐらはかばんもボロボロやったんで、僕が高校の時から7年くらい使ってたリュックなんですけど、『これ、新しいんに買い替えるからあげるわ』ってあげたら、もぐらが『えっ、いいんですか!?』って。『全然ええで、これで良かったら使ってー』ってそのリュックあげて、もぐらは東京、僕らは大阪やったんで、そこからしばらくもぐらと会わない期間が続いて」
森下 「もぐらは東京行って、空気階段組んで」
初瀬 「それから僕らも2014年に上京したんですけど、もぐらが渋谷の∞ホールでライブに出るって聞いて、見に行ったんですよ。そしたら僕のあげたリュック背負ってて! 『何年背負ってるん!?』って驚いたんですけど、それ見てすごくもぐらがいとおしくなりましたね。全然、普通のリュックなんですよ。『まだ使ってくれてるんや』って言ったら、『はい、ずっとこれ使ってます』って」
森下 「そんな高くないリュックを、何年もなぁ」
初瀬 「それで『ネタ楽しみにしてるわー』って言ってライブ見てたら、ネタの設定でもそのリュック背負ってたんですよ。『めっちゃ重宝してるやん!!』って(笑)」
――まだまだミルクボーイさんやもぐらさんとのエピソードは尽きなさそうですね。
森下 「だからこそやっぱり、ミルクボーイさんが『M-1グランプリ』(19年)で優勝した時もうれしかったですし、空気階段が『キングオブコント』(21年)で優勝した時ももちろんうれしかったんですけど、その分こう、同じくらい悔しさもあって。悔しいというより焦りか」
初瀬 「焦りますね」
森下 「僕らも追いつかな、って。昔からの仲間というか、本当の兄弟みたいな存在の2組が優勝してるので。『ななまつり』で四つとも違う内容でやろうって決めたのも、その2組の活躍が大きいです」
初瀬 「『キングオブコントで絶対チャンピオンにならなあかん』っていう思いに突き動かされた感じですね」
森下 「去年の『キングオブコント』で空気階段が優勝したことが追い討ちになりましたね。ミルクボーイさんが『M-1』で優勝した時、『僕らもキングオブコントで優勝せな』ってむちを打たれた気持ちになってたんですけど、ミルクボーイさんから『優勝、次はお前らやな』って言われてたところに、後輩の空気階段が優勝して。で、『次はもうお前らやな』って言われてたところで、オダウエダが『女芸人No.1決定戦 THE W』(21年)で優勝して…。『自分ら、いつやねん』って」
――今回のライブに向けて、森下さんは「“売れる準備”ができた」とコメントされていましたよね。
森下 「めっちゃ恥ずかしい…」
初瀬 「これ、すごく後悔してるよね?(笑)」
森下 「後悔してます。こういう取材の時って、事前に何を言うかそこまで考えてなくて、聞かれたことを答えてるんですけど、その時のパッションが出てしまって…」
初瀬 「これたぶん、ちょっと熱くなりすぎてますね(笑)」
――では、本心は…?
森下 「売れる準備はできつつありますよ、はい」
――「そう感じたきっかけはあったのですか?」とお聞きしようと思っていたのですが…(笑)。
初瀬 「あはははは!(笑)。でも、前よりはその手応えが強くなっている感覚はありますね」
森下 「そうですね。とにかく場数が多いので、経験値が上がったというか。新ネタの精度もですし、普段のトークもいろんな人と絡んでやってるうちに力がついてきたと思います」
初瀬 「明らかに、昔の僕らより面白くなってるなという自覚はあります」
森下 「売れる準備ができつつあります。でも、本当にあると思うんですよ。売れる準備ができてる状態で売れる人もいれば、ネタがウケてすぐ優勝して、『いや、今じゃないって!』みたいなことって。僕ら、その時期がだいぶ長かったんです。でも今は、仮に優勝したとしても、余裕とまではいかないですけど、なんとか戦えるんじゃないかなって。だから正直、『もう大丈夫です! 優勝できます!!』って思えるようになってます」
初瀬 「『今優勝したらどうなんねん!?』って時期を経てきてるんでね」
――「キングオブコント」では2016年に決勝に進出されましたが、その時はまだ「力が足りない」という実感があったのでしょうか。
初瀬 「2016年はマジでそうですね。正直、ちょっと不安でしたもん。『これもし優勝したら、俺らどうなんの?』『えっ、消えるん? 大丈夫?』って。キャラクターも仕上がってなかったですし」
森下 「うん。『あの人は今』状態だったかも。当時は大御所の先輩と絡む時も、本当にただのポンコツというか。2人とも緊張して何もしゃべらなくなったり、あわあわしちゃってましたね。それからちょっとずつテレビにも出させてもらって、徐々にですけど、なんとなく慣れてきて。だから今は『今の僕ら、大丈夫ですよ! 優勝できますよ!!』って思ってます。それを端的に言ったら、『売れる準備ができた』になっちゃって…(苦笑)。ちょっとイキってる感じに…」
「キングオブコント」に懸ける思いや、2人の関係性が変化したターニングポイントについてお聞きしたインタビュー後編は、3月9日に公開予定。
【プロフィール】
ななまがり
森下直人(1986年5月20日生まれ、神奈川県横浜市出身)と、初瀬悠太(1986年4月5日生まれ、香川県高松市出身)が大阪芸術大学の落語研究寄席の会で出会い、2008年11月に結成。14年より、活動拠点を大阪から東京に。「キングオブコント2016」ファイナリスト。「R-1ぐらんぷり2020」ファイナリスト(森下)。全国14局のラジオ局で放送される「芸人お試しラジオ『デドコロ』」のパーソナリティーを担当中。4月9日、10日の2日間、東京・北沢タウンホールにて、4公演の単独新ネタライブ「ななまつり 二〇二二」を開催予定。会場チケット発売中。
取材・文・撮影/宮下毬菜
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