中村梅雀主演、古谷三敏原作の「BARレモン・ハート」──キャスト&スタッフが愛を込めておくる年末SPが放送!2021/12/27
誰にも相談できない時や、答えが見いだせない時、人生に迷った時、温かい灯りが目に入る。看板には“BARレモン・ハート”の文字。扉を開けると優しそうなマスターが出迎えてくれる──。カウンターの向こう側に立って酒を提供し、客の話に耳を傾けてくれるバーテンダーを主人公に、2015年10月にスタートしたドラマ「BARレモン・ハート」の年末スペシャルが、12月28日にBSフジで放送される。
本作は累計部数900万部を超え、酒好きの大人たちから圧倒的な支持を受けている古谷三敏の同名コミックを原作に、これまでSEASON1(15年10~11月/全13話)、SEASON2(16年4~9月/全26話)、「春の2時間スペシャル」(17年3月24日)をはじめ全6本のスペシャル版が放送された人気シリーズ。マスター役の中村梅雀、常連・メガネさん役の川原和久、同じく松ちゃん役の松尾諭というレギュラー陣と、毎回バーを訪れるゲストが紡ぎ出す芳醇な人間ドラマ、そしてマスターの酒にまつわるうんちくが酒好きはもとより、普段あまり酒を飲まない視聴者にも人気だ。
「レギュラー3人の空気感がばっちり作れるようになってきて、ゲストの皆さんの迎え方も慣れてきました。どういう年代のどういう方が来ても、最終的にゲストの皆さんがリラックスできる状態になる、そんなおもてなしができるようになったなと。ゲストの方々も、思う存分ご自分の個性を生かして、とてもいい演技をされて、一作一作すごくいいドラマになっていると思います。さらに、お酒もいいお酒が並んで、そのお酒の情報もドラマの中の人間模様とぴったり合っていて、すごくすてきなドラマだなとつくづく思いますね」
演じる役柄さながらに優しい口調で、そう振り返るのは、マスター役の梅雀さん。
続けて、「各地のバーに行くと、『あ! マスターですね!』ってしょっちゅう言われるんですよ(笑)。うれしそうに感想を言ってくださったり、そういう場面に出会うと、本当にやっていてよかったなって思います。まだまだ原作は残っているので、どんどん続いて長く愛される作品になっていけばいいなと。DVD-BOXも出ていますので、1回でもいいから見ていただいて、“ほぉー!”って思って、そこから“こんなドラマ発見しちゃった”って思ってくださるとうれしいです」と本作への熱い胸中を語る。
6年間続くシリーズをスタート当初から見守ってきたBSフジ編成局の田平秀雄さん(スタート時はプロデューサー)もまた、「BSフジの開局15周年記念番組としてスタートした当初は、こんなに長く続くとは思っていませんでした。SEASON1・2、全作品をコンプリートしたDVD-BOXも出したのですが、そちらも好評を得ていまして。一見、動きのない、派手さのないドラマがこんなに長く支持されているのは、支えてくださるファンの皆さんのおかげだなと思っています」と、感謝の言葉を口にする。
バーというワンシチュエーションで繰り広げられる会話劇の妙。たまたま入った小さな劇団の舞台で良質な物語に出合ったような喜びを得られるところが、本作の魅力の一つだが、梅雀さんいわく「本当に特殊で、動きもなく、役者にとってはとんでもなくプレッシャーのかかる現場」だそう。ただ、「だからこその緊張感もあって、よいドラマになっていると思います」と確かな手応えを明かす。
現在プロデューサーを務める小林そらさんによれば、「予算もスケジュールも限られていますので、本作では5台のカメラを一度に回して、1日で2本撮影しています。セットの壁のいたるところが外せるようになっていて、シーンごとに組み替えて。それがいい効果を発揮できているとおっしゃっていただけるのは、梅雀さんをはじめ舞台でも活躍されている芸達者な演者さんたちのおかげですね。加えて3人ともお酒が好きで、違和感なくあの世界観に溶け込んでいらっしゃるのも、皆さんが支持してくださる要因の一つではないでしょうか」とのこと。
試行錯誤しながら独自に生み出された『BARレモン・ハート』流の収録方法も6年という放送期間があってのものだ。長く続いたのは、原作の世界観や演者の芝居もさることながら、“通”な酒好きを満足させるべく奮闘してきたスタッフの情熱、こだわりもあるだろう。
「バーの棚に並んだ酒はすべて本物です。また、珍しいボトルは、古谷先生のお孫さんで、(東京・)大泉学園に実在する『BARレモン・ハート』で腕を振るうバーテンダー・古谷陸さんにお借りしています。あと、演者さんたちが飲んでいるのは演出部が本物そっくりに作ったダミーなんですが、グラスに注がれるものは本物。ドラマのもう一つの主役は酒ですからね、そこにはこだわっています」と田平さん。
また、小林さんによると、「例えば今回の『年末スペシャル』に出てくるギネスビールの色味は、いくつかのブラックコーヒーを試して代用。泡のみ本物のビールからすくって仕上げました。以前、『大丈夫』と言いつつ本当に酔ってしまわれた役者さんがいらっしゃったので(笑)、ダミーをお出ししています」という裏話も飛び出した。
田平さんの「ほかにも収録前には、毎回のテーマとなる酒を出演者にお分けして芝居に役立ててもらっています。とりわけ梅雀さんは酒の説明が多いですから、事前に味を知っていただきたいと考えました。そういう小さな積み重ねがドラマの説得力につながると思っています」というエピソードからも、制作陣のこだわりが垣間見える。
取材に入らせていただいた収録現場でてきぱきと動く、先の古谷陸さんによれば、セットに置かれる酒は今回の「年末スペシャル」で「200本ほど。多い時は300本置いたこともあります」。中には、最低価格が100万円~という、高価な酒や、空瓶だけでも2~3万円するビンテージもあるそうだ。
田平さんと小林さんによれば、「スタート時はダミーのボトルが交じっていたのですが、原作ファンはもちろん、酒好きやバーに詳しい方もご覧になるはずなので、制作や美術に無理を言って本物に変えてもらって。現在は陸さんのご協力もあり、目の肥えた酒好きの皆さんもうなる品ぞろえになったと思います。同時に、世界中に存在する、ほとんどすべての銘柄の酒をストックしているという設定のバーにふさわしい所作を身に着けるため、シェイカーの振り方やステアの仕方など猛勉強された梅雀さんにも頭が下がります。梅雀さんご本人は『“ちょっと、あれ違うんじゃない?”とかツッコミを入れながら楽しんでもらえれば』とおっしゃっていますが、ご自宅に持ち帰って個人練習されるなど、本当に『BARレモン・ハート』を愛してくださっているんだなと思います」とのこと。スタッフ・キャストの努力の積み重ねが、ファンに伝わっているのだ。
そんな熱い演者、スタッフの思いのもと、間もなく放送される「BARレモン・ハート 年末スペシャル2021」では、おなじみのレギュラー陣に加え、岡田結実、橋本じゅんらをゲストに迎えた、コロナ禍の今だからこそ楽しく見られてホロッと泣ける珠玉の2本「世界一ってなんだニャ?」(酒:ベンロマック15年/スコッチウイスキー)&「女心と3色ウイスキー」(酒:ベルヴォワ・トリコロール・コフレ/フレンチウイスキー)と、厳選した過去の作品も放送予定。
梅雀さんは「今回の新作ドラマは、原作コミックの最新刊・第36巻に収録されている2本ですが、さすがは素晴らしいなと思いますね。得難い作品を作る古谷先生。酒好きの神様というか、お酒を広めるためにこの世に存在されているんじゃないかっていうくらい。一般のお酒好きの方でも、飲めない方でも、雰囲気を楽しめるドラマだなとつくづく思います。お酒文化のためにもなりますしね(笑)。(劇中に)出てきたお酒を愛していただければな」と原作をリスペクト。
あらためて、制作陣は「古谷先生も常々おっしゃっていますが、今回も酒が持つバックストーリーとバーを訪れる客の気持ちがリンクする、心温まる物語です。私自身、『BARレモン・ハート』を機にウイスキー好きになったので、そういう方が1人でも増えてくださるとうれしいですね」(田平さん)、「ご覧になる皆さんの心が温かくなるような話にしようという思いは例年通り変わりませんが、今回はコロナ禍によって苦境に立たされたバーを少しでも応援できるような、“お酒を飲みたくなったね”と思えるような話を心掛けました。また、劇中に登場するスコットランドのベンロマック蒸留所の所長とフランスのベルヴォワ生みの親へリモート取材も行いましたので、放送を楽しみにお待ちください」(小林さん)と呼び掛けた。
取材後、12月8日に、原作者の古谷三敏先生が逝去された。ご冥福をお祈り申し上げます。
【番組情報】
「BARレモン・ハート 年末スペシャル2021」
BSフジ
12月28日 午後9:00~10:55
取材・文/橋本達典 撮影/尾崎篤志
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