新井順子プロデューサー「“挑戦的な最終回”のその先を想像してほしい」――「最愛」インタビュー2021/12/17
TBS系で放送中の金曜ドラマ「最愛」。本作は、殺人事件の重要参考人となった実業家・真田梨央(吉高由里子)と、梨央の初恋の相手であり事件の真相を追う刑事・宮崎大輝(松下洸平)、そして、あらゆる手段で梨央を守ろうとする弁護士・加瀬賢一郎(井浦新)の3人を中心に展開するサスペンスラブストーリーです。
2006年、梨央が青春時代を過ごしていたのどかな田舎町で失踪事件が発生。15年後、時代をけん引する実業家となった梨央の前に事件の関係者が現れたことにより、当時の記憶とともに封印したはずの事件が再び動きだします。「アンナチュラル」「MIU404」(同系)のプロデューサー・新井順子さんと演出・塚原あゆ子さん、そして「夜行観覧車」「リバース」(同系)で2人と組んだ奥寺佐渡子さんと清水友佳子さんの脚本による完全オリジナルの物語です。
最終回を迎える直前に、プロデュースを務める新井さんを再度直撃。同作品での2度目のプロデューサーインタビューは異例ですが、最終回の見どころをはじめ、これまでの撮影エピソードや本作に込めた思いを快くたくさん語っていただきました!(前回のインタビューはこちらhttps://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1160924/)
新井プロデューサーが語る“ジリキュン”シーン裏話
――毎週ものすごい盛り上がりを見せてきましたが、新井さんのもとにはどんな反響が届いていますか?
「業界内視聴率が良すぎてびっくりしました。第1、2話で感想をいただくのはよくあることなのですが、いまだに放送直後に感想をいただくことが多いんです。これまでお世話になった役者さんからも連絡をいただいています」
――前回のインタビューでは吉高さんや松下さんの新たな一面を見たいとおっしゃっていましたが、これまでのお芝居を見ていかがでしょうか?
「やはり吉高さんのサスペンス力が高くて素晴らしかったです。毎回お芝居のスイッチが入る瞬間は見ていて面白いですし、うまいなと思いながら拝見しています。松下さんの“THE 好青年”というイメージもかなり変わりました。ほかのプロデューサーから『松下さん、来年のスケジュール空いてるかな?』って聞かれるんです。私に聞いても分からないのに(笑)」
――本当に大人気なんですね(笑)。
「梨央と大輝のカップル感をすてきに演出できているからかもしれません。お二人とも左利きという共通点があったり、『実際も仲が良いならもう結婚しちゃいなよ!』みたいなコメントも多い。それはそういう空気感をちゃんとお二人で作ってくださっているおかげなんですよね。本当にありがたいです」
――本筋のストーリーだけでなく、そんなお二人の“ジリキュン”シーンも毎週話題に上がりますが、特にこだわっていた部分はありますか?
「切ない“ロミジュリ感”を出すことにこだわりました! 大輝を捜査一課から異動させることは最初から決めていたので、それまでどう禁断の愛を演出しようかとたくさん考えましたね。第8話でプロポーズまがいのことをしましたが、また第9話で関係が少し離れてしまう展開。それぞれの立場が2人を引き裂いているんです」
――第7話ではキスを期待させるシーンもありましたよね…!
「実はプロットではキスシーンを入れていました。でも読んでみたら、なんかちょっと違う気がしたのでやめたんです。第7話では、2人の高校時代の雰囲気に戻したかったので。第8話では関係性がもう少し進んでいて、大輝が学生当時に言えなかった思いを伝えましたが、そしたら梨央に『今やない』って言われてしまうというね(笑)。ジリキュンです」
――記者もドキドキしつつ「今やないんか…」とつい声を漏らして見てしまいました(笑)。吉高さんと松下さんに、2人の関係の要素として“切なさ”以外に伝えたことはありますか?
「第6話の最後で梨央が行ってしまうのを止めて抱きしめるシーンでは、『やってみて』とリクエストがあったこともあり、私が動きのデモンストレーションして『こうやってやってください!』ってお願いしました。前回のインタビューでお話した“お箸の置き方”とか“腕まくり”と同じように、細かい動きのオーダーは出していたと思います」
――キュンのツボを抑えている新井さんが演じる大ちゃんは、きっと格好いいんでしょうね! 2人のジリキュンシーンはもちろんですが、個人的には高橋文哉さん演じる弟・優との姉弟シーンも楽しみにしていました。「着飾る恋には理由があって」(同系)でもご一緒されていましたが、高橋さんを起用した決め手は何でしたか?
「ズバリ透明感かな。『着飾る恋〜』の制作に入る前に、たまたまマネジャーさんが高橋さんを連れてこられたのですが、その時に売れそうな匂いがして…。もちろん実際の香りとかではないですよ!(と、楽しそうにほほ笑む新井P)。その時は高橋さんがどんなお芝居をされる方なのか全然分からなかったので、出演作品の『夢中さ、君に。』(MBSほか)を見てからあらためて塚原監督に相談しました。優は相当難しい役どころだったのでどうしようかと迷いましたが、監督といける気がする! 彼にかけてみよう! という結論に至りました」
――実際に優を演じている高橋さんを見ていかがでしたか?
「『着飾る〜』の時よりも格段に成長したなと思いました。実は現場では何度も監督から演技指導されていて、放送に届くお芝居になるまでにいろいろなやりとりがあったんです。そんな中でも決してめげないですし、吉高さんや松下さんのお芝居を受けて、すごく成長されていると思います。見ているこちらも、この子のためだったら頑張れるという気持ちが芽生えて、吉高さんの気持ちになれるんですよね。吉高さんがハグや頭をポンポンする時にも恋愛っぽくならず、本当の弟のように思えるバランスがいいなと思っています」
「『とにかく梨央を幸せにしてください』というメッセージが多いのが印象的」
――最終回目前でSNSでの考察合戦が一段と盛り上がっていますが、新井さんは考察記事などをご覧になっていますか?
「全部ではないですが、たまに見るようにしています」
――オリジナル作品なので、考察の影響を受けてストーリーが変わってしまう可能性もあると思うのですが、その状況であえてご覧になっているのには何か理由があるのでしょうか?
「YouTubeの考察動画を見ていると、深読みされすぎている部分もあって。その誤解を解くような説明を入れることもあります。例えば『達雄(光石研)は自殺だ!』とか『殺されたんだ!』と言われていたので、病死ということをダイジェストの中にセリフで入れてみたりして、『深読みしすぎないで! そこには何もないよ!』とそれとなく伝えるようにしています」
――そんな裏話があったんですね…! ちなみに今までで印象的だったSNSのコメントはありますか?
「『とにかく梨央を幸せにしてください』というメッセージが多いのが印象的です。あとは、ありがたいことにいろいろな考察があって、楽しんでいただけているのかなと思うとうれしいです。たまに、これは手に負えないなという考察もありますが(笑)」
――新井さんの手に負えなくなるほどの盛り上がり…。フォロワー数もかなり多いですよね。
「正直SNSフォロワーさんがこんなに増えると思っていませんでした。気がつけばInstagramは32万人超え。Twitterはもうすぐ16万人(12月14日時点)。うれしい誤算の一つです」
――これほどSNSで支持されている理由は何だと思いますか?
「なんでこんなにみんな見てくれるんだろう…逆に聞きたいですね(笑)。サスペンス感が強い作品なのにSNSではキャストの皆さんの素を出してたりするので、そのギャップがいいのかな。サスペンスって次話の展開を言うとつまらなくなってしまうから、その代わり、現場の雰囲気が分かる写真を出すようにしているんです。でも、ほかのアカウントと何が違うのか正直はっきりとした理由は分からなくて。今までの作品『MIU404』も『着飾る恋〜』も、たくさんフォローしていただけているので本当にうれしいです」
――それだけ新井さんの作品のファンが多いんだと思います!! 毎作品、俳優&スタッフの一体感も強いですよね。
「そうですね。本作もサスペンスだとは思えない現場です(笑)。すごくシリアスなシーンの撮影なのに、NGを出すと『やってまった〜!』と笑いが起きて、役者さんのスイッチはどうなってるんだろうって思います」
――新井さんがそういう雰囲気を作ろうと意識されているのでしょうか?
「私と塚原監督がノリツッコミし合っているのも一つの要因かもしれませんが、現場の雰囲気はチーム全員で作り上げているものだと思います。何より吉高さんの存在が大きくて、常に現場を明るくしてくださっています。リモートで現場ツアーをして、ぜひ直接見ていただきたいくらい。吉高さんのお芝居のスイッチが入る瞬間は本当すごいんです!」
“最愛”というタイトルに込めた思い
――“最愛”というタイトルは、話数を重ねるごとにかみ締めたくなる本作にぴったりだと思います。オリジナル作品では、どのようなタイミングでタイトルを決めるものなのでしょうか?
「本作に関しては、企画書の段階では違うタイトルでした。脚本家の方とお話ししているうちに違うなと思い始めたので、本格的な執筆の前には決まっていたと思います。登場人物それぞれが怪しくて、秘密を抱えたような行動を取るじゃないですか。なぜそんなことをするのかを考えた時に、それぞれが“愛すべきモノ”のために動いているのかなと思ったんです。それと同時の“最愛”という候補が出てきて、われながらぴったりなタイトルだなと思ったのですが、ハッシュタグが引っかからない可能性が出てきて再度悩まされました…(笑)。でも、登場人物全員にかかるタイトルなので、これ以上のものが思いつかなくて。ハッシュタグのためにひらがな表記にするのも嫌だったので、思い切って漢字のままにしました。それもあって、実はTwitterのトレンドにあげるのは毎週かなり苦労しているんです…」
――新井さんの作品では、一つの出来事に対して起きるさまざまな人の心情の移り変わりや行動が、とても分かりやすく表現されていると感じています。本作でも登場人物の“最愛”を巡ってそれぞれが動いていきますが、人間模様の移り変わりを矛盾なく描くことは毎作品意識されていることなのでしょうか?
「ドラマは人間模様を描くことが醍醐味(だいごみ)ですからね! でも、毎回人間模様を描くぞ! と意気込んで作品を作っているわけではないです。登場人物の人生を描いていると、自然と彼らの背景や思っていることが出てくるものなので」
――意外にも自然と行われている作業だったのですね!
「そうですね。そんなに気になる点ですか?(笑)」
――新井さんの作品を拝見していると、ものすごく論理的に作られていると感じることが多いのでつい気になってしまって…。
「なるほど。台本を読んでいて、疑問に思ったことは突き詰めるようにしているからかな。第1話と第5話で言ったことが違うと気持ち悪いので、しっかりつなげようとは思っていますし、一見、なんでそういうこと言うの? と思うようなシーンに関しても、ちゃんと後々理解してもらえるように考えて作っています。つじつまが合わないと気持ち悪いんですよね。どうしてこういうセリフを言うかの理由を聞いて『なんとなく…』と言われると、なんとなくってなんだよ!って思ってしまいます(笑)。本作では15年間がつながっているので、15年前に言った言葉が現代につながっているシーンもちゃんと細かく作ってありますよ。脚本家さまさまです!」
最終話の見どころは「それぞれの“最愛”が何だったのか」
――新井さんが最終話にかけた思いや見どころ、本作を通じて何を描きたかったかを教えてください!
「やっと最終回まできたかという気持ちです(と、しみじみ振り返る新井P)。もう2年くらい本作と向き合ってきたので(笑)、ついにゴールするんだという思いでいっぱいです。今は放送後のみんなの反応が怖いですね。どういう反応をいただけるのかな…」
――最終話の台本を読むまでキャストの皆さんも犯人を知らなかったんですよね? 皆さんの反応はいかがでしたか?
「すごい反応でした。ネタバレ防止のために、核心に迫るシーンに関係の薄いキャストの台本はページを白くしちゃおうかなって思ったりもしました。やめましたけど!(笑)」
――ちなみにそれは最初から決まっていたラストの展開なのでしょうか?
「企画書の段階から犯人は決まっていましたが、犯人が分かった後にどういう展開にするかは考えていませんでした。どういう心情で罪を犯してきたかも決まっていたのですが、それをどう見せるかが難しかったですね。さらに言うと、それぞれの“最愛”が何だったのかはやはり最終話の見どころになっているかと思います。何を言ってもネタバレな気がして怖いです…。とにかく伏線の全回収は大変です!」
――いろいろな考察を受けての最終話なのでプレッシャーも大きいですよね。
「そうですね。回収されてない伏線もあるかもしれない…大丈夫かな…(と、これまでにない表情を見せる新井P)。一言で言えば、“挑戦的な最終回”になっていると思います。どう感じ取られるかはそれぞれだと思いますが、視聴者の皆さんには最終回のその先を想像してほしいですね。あれ、これネタバレかな?(と、焦り周りのスタッフに念のため確認する新井P)。とにかくうなるような最終回になると思いますので、ぜひお楽しみに!」
これまで合同取材で行われてきたインタビュー。記者同士でインタビューの流れを考えつつ交互に質問していたのですが、今回はそれぞれの記者が「気になっていたことがあって…」という言葉を添えて、インタビューの流れを無視して聞きたくてたまらなかったことをぶつけていました。どんな難しい質問にも真心込めて答えてくださった新井プロデューサー。最後には、最終回の展開を知らない記者たちをムズムズさせるヒントを快活な笑い声とともに残していかれました。
【プロフィール】
新井順子(あらい じゅんこ)
2008年からドラマプロデューサーとして活躍。これまで「中学聖日記」「アンナチュラル」「MIU404」「着飾る恋には理由があって」などを担当。現在は、金曜ドラマ「最愛」のプロデューサーを務めている。
【番組情報】
「最愛」
TBS系
金曜 午後10:00〜10:54
TBS担当 A・M
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