松下洸平「大輝のコートやいつも着ているスーツの匂いまで伝わったらいいな」――「最愛」インタビュー2021/12/02
TBS系で放送中の金曜ドラマ「最愛」。本作は、殺人事件の重要参考人となった実業家・真田梨央(吉高由里子)と、梨央の初恋の相手であり事件の真相を追う刑事・宮崎大輝(松下洸平)、そして、あらゆる手段で梨央を守ろうとする弁護士・加瀬賢一郎(井浦新)の3人を中心に展開するサスペンスラブストーリーです。
2006年、梨央が青春時代を過ごしていたのどかな田舎町で失踪事件が発生。15年後、時代をけん引する実業家となった梨央の前に事件の関係者が現れたことにより、当時の記憶とともに封印したはずの事件が再び動きだします。本作は、「アンナチュラル」「MIU404」(同系)のプロデューサー・新井順子さんと演出・塚原あゆ子さん、そして「夜行観覧車」「リバース」(同系)で2人と組んだ奥寺佐渡子さんと清水友佳子さんの脚本による完全オリジナルの物語。
今回は、大輝を演じる松下洸平さんに、ご自身の役柄や本作の見どころについて語っていただきました。
刑事の使命と、愛する人を守りたい気持ちで揺れる大輝「俳優冥利に尽きる素晴らしいシーンをいただいたなと」
――毎週、大輝に対して視聴者からの大きな反響がありますが、これまで演じてこられた感想を教えてください。
「想像以上に皆さんからドラマと役への反響をいただいて、すごくうれしく思っています。第1話からずっと撮影してきて、人と関わることで役柄って広がっていくものなんだと身にしみて感じています」
――どのような部分で役柄の広がりを感じていらっしゃいますか?
「例えば、梨央との関係性だったり、台本を読んでるだけでは分からない部分だったり、自分の中だけでは想像できないところですね。捜査一課にいる桑田仁美(佐久間由衣)や山尾敦(津田健次郎)と一緒にお芝居をすることで大輝の性格や細かい設定が見えてきたので、芝居は誰かと一緒に作っていくものなんだと本作の現場であらためて痛感しています」
――松下さんがクランクイン前に想像されていた大輝と、どんなところに違いを感じていますか?
「大輝は僕が思っていた以上に不器用な人でした。恋愛に関しては特に不器用で恥ずかしがり屋でしたね。大輝はいい大人ですし、行く時は行くかなと思ったんですけどね(笑)。そういう瞬間だけはいつもモジモジしてしまうかわいらしい人なんです」
――恋愛といえば、梨央と大輝の身もだえるような関係についてもたくさんの反響が寄せられています。これまで演じていて松下さんご自身が切ないと思ったシーンや、思わず感情が高ぶったシーンはありますか?
「生田誠という青年が朝宮優(高橋文哉)であることをしっかり認識したのが、第4話の高速バスを追いかける車内のシーンだったんですが、あの時、山尾に対して『生田誠は朝宮優です』と報告するのはかなりキツくて切なかったですね…」
――大輝の気持ちと一体化して…?
「そうですね。これ以上隠しておけないし、自分も黙っているわけにはいかない。刑事としての使命と、愛する人たちを守りたい気持ちが天秤にかけられた状態で、いろいろな優との思い出が浮かんだんです。白川郷で一緒に同じ時間を過ごしていた優の声や笑った顔が一瞬でフラッシュバックしてきて…。その気持ちを抑えて真実を報告しなければいけないのはすごくつらかったですし、演じるのはとても苦しかったですが、俳優冥利(みょうり)に尽きる素晴らしいシーンをいただいたなと思いました」
レコーディング前日に叫んだ、あるセリフで…
――クランクイン前と比べて、一番距離が縮まった共演者の方はどなたでしょうか?
「やっぱり(井浦)新さんですね。本当に尊敬する先輩だったので最初は緊張していましたが、お近づきになりたい気持ちが強かったので、僕の方から率先して話しかけました。役柄的にはちょっと敵対するような立ち位置ですが、今では事あるごとに連絡をいただいたり、Instagramのコメントでやりとりさせていただいたり、すごく楽しく交流させていただいています! 新さん大好きです!」
――松下さんの方から積極的に交流されていたんですね! 共演者の方々からは松下さんが現場を和ませてくれるというエピソードがあったのですが、現場で意識されていることの一つなのでしょうか?
「そういうことは全く考えていませんでしたが…そんな話が出ているんですか?」
――以前、高橋文哉さんや佐久間由衣さんが、松下さんが緊張をほぐしてくれるとおっしゃっていました。
「たぶんそれは僕がみんなを笑わせてるんじゃなくて、ただ笑われているだけだと思います(笑)。僕は笑わせているつもりないので!(と、無意識に記者たちの笑いを誘う松下さん)」
――なるほど! こうやって現場を和ませているんですね(笑)。学生時代は駅伝部員という役柄で、これまでも走るシーンがたくさんあったかと思うのですが、一番印象に残っている走るシーンはありますか?
「第1話の駅伝のシーンです。とにかくめちゃくちゃ走ったので、ちょっとした移動の時も歩いているのが気持ち悪くなるくらい、走っていないと落ち着かない状態になっていました。それくらい自分の中で走るという行為が染みついてきていたのかな。駅伝のシーンでは坂道を下って仲間にたすきを渡す撮影があったのですが、あの坂道は何回も走りました。たしか15回くらい。どのシーンも1回では終わらないので苦しかったんですけど、その苦しみを役作りに生かせたと思います。大輝が警察官採用試験を受けて、警察学校に通って、捜査一課まで上りつめるまでに相当な苦労があったはず。ちょっとでもその苦労を僕自身で味わえることができたので、よかったなと思えました」
――あのシーンにそんなすさまじい撮影エピソードがあったとは…。第5話の最後では梨央を追いかけて走るシーンもありましたね。
「あのシーンもたくさん撮影しました。走ったのはたぶん6回くらいですが、『勝手に決めんな!』というセリフを20回くらい言いました(笑)」
――20回!
「いろいろな角度から撮影するためだったのですが、実は僕、次の日レコーディングがあって…。正直喉がやばいかなと思っていたんですけど、叫びすぎてもはや喉が開いたのか、レコーディングでめちゃめちゃ声出たんです(笑)。今後もレコーディング前は発声に『勝手に決めんな!』を取り入れようかな(と、さらに記者の爆笑を誘う)」
宇多田ヒカルによる主題歌「君に夢中」が作品に与えるもの
――宇多田ヒカルさんが手掛ける主題歌「君に夢中」の配信がスタートしました。歌詞には「人生狂わすタイプ」や「わかっちゃいるけど君に夢中」など、大輝の梨央への心の叫びを代弁しているようなフレーズがたくさんありました。松下さんは主題歌からインスピレーションを受けていらっしゃいますか?
「常に受けています! 本作は主題歌の存在が本当に大きいです。僕らも撮影しながら『今のところで絶対イントロ掛かるよね!』って言い合って、どこで曲が掛かるか想像して楽しんでいます。やっぱり『最愛』と宇多田さんの『君に夢中』は絶対ワンセットなんですよね。あらためて歌詞を見ていると、大輝だけじゃなくて、梨央や加瀬といったメインの登場人物のそれぞれの思いに当てはまるフレーズがたくさん散りばめられているなと感じます。主題歌が宇多田さんで本当によかったですし、僕自身も何度もこの曲に助けられています」
――どんな時に助けられているのでしょうか?
「台本読んでいる時や移動中です。僕は俳優業だけではなくて、音楽や他にもいろいろなことをやらせていただいているのですが、たまに脳みそがうまく切り替えられない時があるんです。そんな時でもこの曲を聞くだけで一気に身体中が“最愛モード”、“大輝モード”になるので、この曲が自分にものすごく浸透していると実感しました」
自分にかけた大きなプレッシャー、その理由とは?
――新井プロデューサーと塚原監督からは「新しい松下さんを見たい!」というリクエストがあったとお聞きました。その言葉通り、見事に今までとは違った表情を見せていらっしゃいますが、放送が始まってから新しい一面への反響は届いていますか?
「たくさん届いています。ネットのニュースを拝見していると、大輝だけでなく作品自体をすごく愛してくださっている方がたくさんいらっしゃるのが分かって、すごくうれしいです。今までは、“優しくて柔らかい、ちょっと不器用だけど真っすぐな青年”を演じることが多かったのですが、クランクイン前に新井Pと塚原監督から、『それとは全く違う部分を見せたい』とおっしゃっていただきました。普段僕が使わないような言葉遣いを大輝がしてくれるので、自分自身はすごく楽しんで演じています。僕が演じる以上、僕らしさがどこかに出てきてしまうと思うのですが、そこはリアルな人間性を見せるためにあえて無理に消さないようにしています。僕なりの大輝をベースにして、自分が今まで演じてこなかった部分に関しては、塚原監督や演出の方に引き出していただいています」
――視聴者からは松下さんの声の魅力についても多くの反響があるのですが、何か気をつけていることはありますか?
「あまりのんびりしゃべらないようにしているくらいですかね。大輝は性格的に結構サバサバしていて何事にも突っ走るタイプの人間なので、ポンポンしゃべるように心掛けています。あと大輝を演じる上で気をつけているのは、表情で芝居をしないこと。あまり感情を顔に出しすぎないように心掛けています」
――そうなんですね! 今では“大ちゃん沼”というワードが出てくるほどすごい盛り上がりを見せている役柄になっていますが、どんな思いでいらっしゃいますか?
「いやぁ…ありがたいです!(と、少しはにかみながら)」
――ちょっと照れくさい気持ちもありますか?
「そうですね(笑)。どんな形であれ、視聴者の皆さんが役に没頭していただけるということがすごく俳優にとってはうれしいことなんです。そういう意味では夢中になって見てもらえることは幸せです」
――放送前に公開された動画では、本作のオファーに驚いたというお話をされていました。それくらい松下さんにとって大きい作品になるという確信があったのでしょうか?
「新井Pと塚原監督とは一度『MIU404』でご一緒させていただいたのですが、このチームの素晴らしさと過酷さを知りました。俳優にとってかけがえのない経験をさせてもらえると感じていたので、3カ月このチームとご一緒できるのは自分にとって確実に大きな一歩になると思っていましたし、そうしなければならないとも思っていました」
――ご自身でかなりプレッシャーをかけていらしたんですね。
「絶対に結果を出さなければいけないという思いや、自分にかけたプレッシャーはすごく大きかったと思います。それくらい覚悟して臨まないとできない現場だし、逆にその覚悟を持ってお芝居をすれば、必ず視聴者の皆さんも楽しんで見てくれる確信もありました。だからこそオファーをいただいた時はうれしかったのと同時に、その覚悟を持って自分がどこまでできるかを考えました」
――具体的にどのような覚悟でしょうか?
「大輝という役を実在する人間として感じてもらうことです。ドラマの登場人物は架空の世界でしか生きていないけど、どこかにいるような錯覚さえ覚えてしまうほどリアリティーを持ってお届けすることがとても大事だし、視聴者の皆さんが自分たちのことのようにドキドキしながら見たり、毎週『あの2人はどうなるんだろう?』って思わせるのが連続ドラマを見る上での一番の醍醐味(だいごみ)だと思うんです。できることなら大輝のコートやいつも着ているスーツの匂いまで伝わったらいいなって。捜査一課だった時の服だと、走り回っていて汗臭いと思うんですが(笑)、その汗臭さまで見ている人に伝わったらいいなという思いで演じています」
――その覚悟を持って臨まれたからこそ、この大反響があるんですね。
「本作に参加させていただけてうれしいですし、本当に感謝しかありません。宮崎大輝という人間を愛してもらえたからこそ、今は“松下洸平”自身はどうなんだろうという気持ちが湧き上がってきています。大輝を演じた僕自身にも、彼に負けない魅力がなければやっぱり俳優としては続かないと思っていて。大輝から学ぶことも多いので、それを僕が裏切らないように、でも時にはそのイメージをいい意味で裏切れるように引き続き演じていきたいです。僕自身に面白がってもらえたらいいな!」
――では最後に、第8話に向けての見どころをお願いします!
「第7話で捜査一課を外された大輝。捜査一課を外れたショックはありますが、劇中でも言っているように自分で分かってやったことなので、彼はそんなに後悔していないと思います。これから彼が新しい生活の中でどう自分自身と梨央と向き合っていくのか。そして、捜査一課を外れた大輝が、解決できなかった事件とどう対峙(たいじ)していくのかに注目してほしいです。生活安全課に異動したことで、梨央との人生をゆっくり考える時間もできたりして…。普通の1人の男性として、彼がしっかり生きていけるのかを試されるのが第8話かなと思います。ぜひ引き続き楽しんで見てもらえたらうれしいです」
【プロフィール】
松下洸平(まつした こうへい)
2008年に歌手としてCDデビュー。09年からTVや舞台など、活動の幅を広げる。19年から放送されたNHK連続テレビ小説「スカーレット」で十代田八郎を演じ、注目を集める。最近の出演作は、ドラマ「MIU404」(TBS系)、「東京タラレバ娘2020」「#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜(共に日本テレビ系)、「知ってるワイフ」(フジテレビ系)、映画「燃えよ剣」など。「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)にもレギュラー出演中。
【番組情報】
「最愛」
TBS系
金曜 午後10:00〜10:54
TBS担当 A・M
関連記事
- 新井順子Pが語る作品へのこだわり“考えながら、想像しながら見てほしい”──「最愛」ロングインタビュー
- 佐久間由衣「塚原監督がほかのキャストに演出されている言葉も聞き逃さないように」――「最愛」インタビュー
- 及川光博、話題の鼻血シーンは「“全集中・鼻血の呼吸”で出しました(笑)」――「最愛」インタビュー
- 津田健次郎が語る、「“金曜夜の1時間をすてきな時間に”という言葉が作品に携わる人たちの共通言語」――「最愛」インタビュー
- 高橋文哉、“梨央”吉高由里子との再会シーンは「優としても、役者としてもすごくドキドキしていました」――「最愛」インタビュー
- 田中みな実、新井P&塚原監督からの指示は「“らしさ”を全面的に消してほしい」――「最愛」インタビュー
- 最愛
- 松下洸平が明かす理想の恋愛観「大切なことは、スピードが一緒かどうか」——「#リモラブ」出演者インタビュー
この記事をシェアする