徳川慶喜を演じた草彅剛、吉沢亮とのラストシーンに「静かにこみ上げてくるものがあった」2021/11/16
早いもので、大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合ほか)も残すところあと6回となりました。第35回(11月14日放送)では、アメリカ前大統領をもてなすなど、実業家としてより一層活躍している渋沢栄一(吉沢亮)の姿が描かれていましたね。そんな栄一が片時も忘れることがないのが徳川慶喜(草彅剛)の存在です。度々静岡を訪れ、慶喜との交流は晩年も続いていきます。約1年間、慶喜を演じた草彅さんに、これまでの印象的なシーンや役を通して得たこと、吉沢さんへの思いなどを伺いました!
――長きにわたって、大河ドラマに出演されていかがでしたか?
「僕はもうクランクアップをしたのですが、初めてのレギュラー出演の大河ドラマでたくさんいい思い出ができました。大作で規模も大掛かりだし、準備も必要だったので、すごいドラマだったなと。そんな作品に出演できたことは役者としてとてもうれしかったです。クランクアップ後は、ホッとして次のステップに進むと思っていたんですが、終わってからじわじわと寂しくなりましたね。慶喜のミステリアスな感じの余韻が2、3日はありました。約1年間、自分の中で集中を切らさずお芝居できたのが大きな自信になりましたし、この作品が久しぶりのドラマだったので、人生のターニングポイントになってるんじゃないかなという感覚があります」
――これまでを振り返って特に印象に残っている場面を教えてください。
「1年以上同じ役を演じたことがなかったので、印象深いことはたくさんありました。なかでも印象的だったのは、時代劇ならではの馬のシーン。結構たくさん馬に乗る練習をしたんですが、その割にあまり長く放送されなかったんです(笑)」
――慶喜にとって栄一はどんな存在だったと思われますか?
「年齢も二つくらいしか変わらない同世代で、それぞれ違うところで育ってきたけど、運命共同体みたいな感じで、そばにいてほしい、そばにいなくてはならない人。慶喜の人生を全うする上で、なくてはならない人だと感じていました」
――では、草彅さんにとって慶喜はどんな存在ですか?
「すごく優しい方です。最初はつかみどころがなくて、ミステリアスで最後までそうなのかなと思ってたんですが、演じていく中で、どこか寂しげではかなく、でも男らしいという印象を持ちました」
――第28回(9月26日放送)で慶喜は栄一に明治政府への出仕を促しましたが、栄一に託した部分があったのでしょうか?
「そうだと思います。慶喜は信頼を置いていない人にそんな大役を任せるとは思えないので。出会った時から栄一に感じるものがあって、自分の思いやすべてのものを託した部分があるのかもしれません」
――吉沢さんが小学生の頃から草彅さんは大スターで、栄一にとっての慶喜も輝かしい存在でした。吉沢さんは、それがお芝居に投影されていたかもしれないとおっしゃっていたのですが、草彅さんは吉沢さんと共演されていかがでしたか?
「亮くんには、いろんなところで褒めていただいて本当にありがたい限りです。僕の方が長く生きているので先輩ではありますが、役に入ると先輩、後輩ということは全く関係ありません。亮くんの演じる栄一の真っすぐなまなざしが素晴らしいと思いながら演じていましたし、亮くんから伝わってくる栄一にかける思いに僕も感化されて、余計なことを考えずにピュアなお芝居ができました」
――撮影で最も楽しかったことと、最もつらかったことを一つずつ教えてください。
「楽しかったことは最後まで吉沢亮くんという素晴らしい役者さんと一緒に長くお芝居できたこと。亮くんは渋沢栄一という大変な役を最後まで妥協することなく、命を懸けて演じていたので、その近くにいれたことは僕にとって活力になりました。次のステップに亮くんが持っていってくれたので、亮くんと一緒にいれたことが一番楽しかったなと。一番つらかったことは、夜中の2時くらいに起きて4時くらいに現場に入って馬に乗ったのに、放送されたのが12秒くらいだったこと(笑)。馬を運んでくるのも大変ですし、今の時代、なかなかないですから。大変だった部分もあったけど、逆にいうと楽しかったなと。そこが大河ドラマのいいところでもありますね」
――吉沢さんに次のステップに持っていってもらったとおっしゃっていましたが、具体的にどんな影響があったのでしょうか?
「亮くんが演じた栄一はセリフ量も多くて難しいし、すごく大変だと思うんです。僕なんかは出ていない回もあるのに、あたふたしてたけど、亮くんは毎回出てあんなにしゃべっていて…。彼は1年間ずっと、台本を手放さずにやっていたんだなと。そういう彼の努力、そして本番での瞬発力を目の当たりにすると、とても刺激を受けて『お芝居はもっと可能性があるんだな。亮くんを見てもう一度頑張るよ』と、そんな気持ちになりました」
――役者としての決意が新たになったわけですね。
「そうですね。亮くんのおかげで、また頑張ろうかなって」
――慶喜を演じたことで変化や影響を受けたことはありましたか?
「たくさんのスタッフの方と出演者の皆さんに影響を受けて、元気をもらいました。すごいエネルギーでどんどん現場を進めていく、この作品に関わっているすべての方から元気をもらって。僕もまだまだ頑張らなきゃいけないと思いました」
――「快なり」など、印象的なセリフが多い慶喜ですが、草彅さんの中でどのセリフが心に残っていますか?
「すごくすてきなセリフばかりいただきました。『快なり』も父・斉昭(竹中直人)から受け継いで。台本には『快なり』と1回しか書いてなかったのですが、竹中さんが『快なり、快なり、快なり』と3回おっしゃって。あれは竹中さんのパッションから生まれたセリフだと思っています。『快なり』も本当に好きですし、『輝きが過ぎる』も『人を巻き込んでしまう』というのも心に迫るものがありましたが、物語の終盤で栄一たちに自分がなぜ鳥羽伏見の戦いから逃げたのかを説明するくだりがあって、そこでは人生を説いているんです。時代や世の中を代弁しているようなセリフや、人が争う根源的な核心を突いたセリフにドキッとさせられました」
――慶喜は争いたくないということがベースにあったのでしょうか?
「そうなんでしょうね。今回の慶喜はそういうところが強く描かれているような気がします」
――慶喜の妻・美賀子を演じる川栄李奈さんと共演した印象を教えてください。
「川栄さんがとても優しいまなざしでお芝居をされるので、目の前にいるスタッフやカメラも気にせずに、毎回吸い込まれるように2人の世界へいざなわれました。川栄さんの包容力と芝居力に、ほわーんとしちゃって。慶喜には家族の力が必要だったし、どこか癒やされているところがあって、かけがえのないものだったんじゃないかと思いました」
――美賀子とのシーンで印象的だったのはどんな場面ですか?
「第6回(3月21日放送)で、慶喜が徳信院(美村里江)と能の練習をしているところに嫉妬しながら入ってきたところもとてもかわいかったし、だんだん美賀子が慶喜の妻として大人になっていくところもすてきでしたね」
――幕末から維新まで登場した人物で草彅さんが演じてみたい人物はいましたか?
「渋沢平九郎(岡田健史)の亡くなるシーンが格好良かったので、若かったらやってみたかったなと思いました。あまり描かれたことがない人物だったし、追い込まれてあんな感じで亡くなられたことにビックリしました。それと岡田くんが格好良かったなと。ほかは…やはり慶喜がよかったですね(笑)」
――多くの武士が慶喜のために命を懸けましたが、武士の良さはどこにあると思いますか?
「忠義を尽くして向かっていくエネルギーに憧れがあります。間違っているのか、間違っていないのかは分からないんだけど、そこにかける思いや仲間意識、そういうエネルギーがいいですよね」
――物語の終盤では、年を重ねた栄一と対面することになりますが、撮影されていかがでしたか?
「僕の好きな家臣たちは次々に亡くなっていきましたが、栄一は生き残って同じ時代を歩いて来たので、言葉を交わさずとも2人の空気感ができていることがうれしかったです。これが大河ドラマの醍醐味(だいごみ)なんでしょうね。栄一との最後のシーンは、自分の中で静かにこみ上げてくるものがあって、感慨深いものがありました。『1年間、僕は慶喜で亮くんは栄一として楽しんできたね』という思いで、僕は役を通り越して亮くんを見ていました。長い間一緒にやってきた同士として、最後は役を超えて亮くんと一緒に仕事ができたと思います」
――撮影の合間に吉沢さんと話されることはあったのでしょうか?
「亮くんはセリフがいっぱいあるので、ほとんどしゃべっていないんです。僕的にはもっと話したかったんですが、邪魔になるかなと。でも、しゃべらずともお芝居で会話している感覚はありました」
――もし今、吉沢さんに言葉をかけるとしたらどんなことを伝えたいですか?
「やり終えたら自分の財産になるんじゃないかなと伝えて、亮くんをすごく褒めてあげたいです」
――今後の慶喜の見どころをお願いします。
「慶喜が将軍を退いた後が描かれることも珍しいと思うんですが、栄一が慕って慶喜に会いに来てくれるんです。栄一と共に過ごした日々は輝かしいものでしたが、一線を退いてからは、栄一との友情の中に隠れる男の哀愁や枯れていく感じがあって。そういう役を僕自身、やったことがなかったのでそこを見てほしいです」
――ありがとうございました!
【番組情報】
大河ドラマ「青天を衝け」
NHK総合 日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム・NHK BS4K 日曜 午後6:00~6:45
NHK担当 K・H
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