土田真由美選手、東京パラリンピックへの思い。「『車いすバスケってすごい』って思ってもらえるようにしたい」2019/01/23
車いすバスケの世界で奮闘する土田真由美。さまざまな壁を負けず嫌いな性格で乗り越え、自らの持つ可能性を信じ続けてきた。そんな彼女の車いすバスケとの出合いからの物語をひも解き、東京パラリンピックへの思いに迫る。
負けない、心。
パラスポーツの花形種目、車いすバスケットボール。その女子日本代表の中で、華のあるプレーを見せる土田真由美だが、元々はスポーツトレーナーを志し体育大学に進学。土田が車いすバスケの世界に進むのは、ある事実が発覚したことと、一つの出合いがきっかけだった。
「ある日、体育館に行くと車いすバスケの練習をしていたんです。そこで『車いすに乗ってシュートを打ってごらん』と言ってくださった方がいて、シュートを打ったんですけどリングにも届きませんでした(笑)。それが車いすバスケとの出合いですね。実は大学の時に、生まれつき股関節が変形していて、将来的には歩けなくなる可能性があることが分かったんです。だんだん足が悪くなり、長時間走ったり、歩いたりできなくなるだろうと病院で告げられました。そうしたこともあった中で、車いすバスケに出合い、シュートが入らなかったのが悔しくて、そこからやり始めました」
車いすに慣れていないこともあって壁にぶち当たるが、負けず嫌いぶりを発揮することに。
「シュートがリングに届く届かない以前に、まず動けないという問題がでてきました(笑)。足で歩く時は、前に行きたい、右に行きたいと思って足を動かせば進めますが、車いすは意識して操作しないと進めません。慣れるまで苦労しましたね。でも、それが簡単にできていたらここまで車いすバスケにのめり込んでいなかったと思います」
車いすバスケには、持ち点という制度がある。選手は障がいのレベルによって持ち点があり、試合中コート上の5人の持ち点は14点以内と定まっている。障がいが比較的軽く、持ち点が高い土田には、コート内でさまざまな役割が求められる。
「障がいの重い選手、軽い選手が同時にコートでプレーするので、障がいの軽い選手は役割の幅が広くなります。ボールを運んだり、シュートを打ったり。私は障がいの軽い選手なので、その役割をしつつ外からのシュートもあり、内に入ってもシュートを打てる、両方を目指してやっていますね。試合を見る時、どうしてもシュートを打つ選手に目が行くと思いますが、障がいの重い選手が守備をしたり、みんなが自分の役割を果たして、ゴールを目指しているのを見ていただけたらうれしいです」
花形競技と言えど、女子車いすバスケを取り巻く環境は、決して恵まれたものではない。その中で、強くなろうと試行錯誤しながら取り組んでいる。
「日本だと女子選手の競技人口が少なくて、全国に8チームしかないんです。全国でそれぞれ頑張っていますが、日本代表はロンドン、リオとパラリンピックの出場権を逃してしまいました。このままではダメだということで、連盟の方などが考えて、女子が男子チームにも登録できて、男子選手と一緒に試合できる環境を整えてくださいました。以前から練習は一緒にしていたのですが、一緒に試合に出るということでお客さん扱いでなくなりましたね。男子はやはりスピードが速くて、世界を想定したトレーニングができています」
日本代表は、2020年東京パラリンピックに開催国枠での出場が決まっている。久々のパラリンピック、しかも開催国とあって、大会にかける思いは強い。
「東京パラリンピックは色々な方に見ていただけるチャンスです。見た時に『こんなものか』ではなく、『車いすバスケってすごい』って思ってもらえるようにしたいんです。日本代表にかける気持ちは代表の強化指定に入っている選手全員が強く持っていると思いますが、過去の出場を逃した悔しい気持ちを忘れずに持ち続けられるかどうか。それが強くなれるかどうかの境目になると思います」
2月には、試金石となる「国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会」が行われ、日本やオランダなどが優勝を争う。
「オランダは世界選手権で優勝した世界一のチームです。なおかつ、私にとっては留学して一緒にトレーニングさせてもらった思い入れのある国のチームでもあるので、試合できるのは楽しみです。世界一のチームなので力の差はあるのですが、少しでも埋められるよう頑張るしかないですね。日本はどうしても高さがないので、スピード、トランジション(攻守の切り替え)が速いバスケを目指しています。どこまで通用するのか、とても大事な大会になると思います」
明るく話をしてくれる中にもところどころに垣間見える、負けず嫌いの気持ち。その思いを糧に、東京パラリンピックまでにどれだけの成長を見せるのか、目が離せない。
【TVガイドからQuestion】
Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!
この場面というのはありませんが、逆転シュートなどを見ると刺激を受けますね。諦めなければ、奇跡を起こせるのだと。私自身は、公式戦でまだ逆転シュートを決めたことがないので、決められるように頑張ります。
Q2 好きなTV番組/音楽を教えて!
オランダ留学した時によく聴いていた曲が、P!nkさんの「What About Us」。知らない土地で寂しくて、泣きながらシュート練習していました(笑)。この曲を聴くとその時の気持ちを思い出して、もっと頑張ろうと思えます。
Q3 “2020”にちなんで、“20”年後の自分へのメッセージを教えて!
今までの人生、頑張ってきましたけど本当に死ぬ気で頑張ったかというと違うと思うんです。東京パラリンピックに向けて覚悟を決めて120%で頑張ろうと思っているので、本当に120%でできたかということを問いかけたいですね。
【車いすバスケットボールとは?】
ルールは一般のバスケとほぼ同じで、ゴールも同じ高さ(3.05m)のものを使用する。特有のルールでは、車いすを3回以上プッシュする(こぐ)とトラベリングとなる。車いすが転倒した場合は、自力で起き上がらなくてはならず、無理な場合のみ試合を止めて補助が入る。また、選手は障がいの程度で、1.0点から0.5点きざみで4.5点まで、持ち点でクラス分けされ、コートに出ている5人の選手の持ち点の合計を14点以内にしなくてはいけない。
【プロフィール】
土田真由美(つちだ まゆみ)
3月11日生まれ。うお座。O型。▶︎株式会社シグマクシス所属。先天性の障がいと診断された後、2009年の選手登録を機に本格的に競技を始める。
▶︎「車いすバスケは、生きがい。ない生活は考えられない」と言うほど打ち込み、10年には日本代表に選出されてIWBF 世界選手権大会に出場。13年には全日本女子車椅子バスケットボール選手権大会での優勝に貢献し、MVPに輝くなど、日本のトッププレーヤーとして活躍する。
▶︎16年の国際親善女子車椅子バスケットボール大阪大会で、大事な場面でのシュートを決められず「1本のシュートを決めるために、何千、何万本とシュート練習をしなくてはいけないと、改めて実感しました」と、決意を新たに競技に取り組む。
▶︎17年からは男子チームにも所属し、男女それぞれのチームで研さんを積む。
取材・文/山木敦 撮影/Marco Perboni
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