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終戦ドラマで妻夫木聡が死刑判決を受けた医師を熱演! 妻役の蒼井優との共演に「久しぶりに会ってホッとした」2021/08/12

終戦ドラマで妻夫木聡が死刑判決を受けた医師を熱演! 妻役の蒼井優との共演に「久しぶりに会ってホッとした」

 太平洋戦争末期に実際に行われた「生体解剖」を題材にした終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」が、NHK総合で8月13日に放送されます。中止を進言しながらも教授の指示のもと、大学医学部の助教授で米兵捕虜に対する実験手術を手伝った医師の鳥居太一(妻夫木聡)が、終戦後に戦犯として死刑判決を受け、自分自身と向き合う姿を描くヒューマンサスペンスです。鳥居を演じる主演の妻夫木聡さんに、作品への思いや撮影でのエピソードを伺いました。

――本作は、実際にあった出来事をつづったノンフィクション「九州大学生体解剖事件70年目の真実」が原案ですが、そちらの本は読まれましたか?

「読みました。ドラマのモデルとなった方自身のことがたくさん書いてあるのではなく、いろいろな方の証言などが中心の本ですが、読むことでその方の輪郭みたいなものは僕の中に入ってきました。本を読んで最初に浮かんだのは“誠実”という言葉です。誰かのために自分の身を犠牲にできる精神をすごく感じたんです。自分だけが生きているのが許せないということもあったでしょうし、自分の罪をずっと抱えながら生きていかなければいけないと感じていたんだろうなと思いました。ドラマのモデルになった方は刑が軽くなっても、刑を全うして出たいと言われていて、その行動が性格を物語っているなと。それだけでも十分伝わってくるくらいの素晴らしい人間性だったんだろうなと思いました」

終戦ドラマで妻夫木聡が死刑判決を受けた医師を熱演! 妻役の蒼井優との共演に「久しぶりに会ってホッとした」

――ドラマの主人公である鳥居は、手術の中止を進言していたにも関わらず死刑判決を受けますが、その役とどのように向き合い、自分の中に落とし込んでいったのでしょうか?

「鳥居は多少罪の意識があったにせよ、手術に参加したのは2回目までで、3回目、4回目は参加していないという事実があるので、死刑にはならないと予想していたと思うんです。それなのに『みんなの罪を軽くするために自分自身の証言や事実も黙認しなければいけない』と弁護士に言われて、裁判で事実と異なる証言をすることになり、本来ならば、うその証言をするか真実を言うかで悩んだでしょうが、その辺をドラマで(時間の関係で)細かく表現することができなかったので、鳥居がどのくらいの精神でいるのかを分かりやすくメリハリをつけて演じるために、精神論以外のテクニカルな部分も考えながら演じました。役を自分の中に落とし込むという点でいうと、普段は自分自身の人生と役を重ね合わせることはないのですが、今回は自分と鳥居を重ね合わせて考えてみたんです。すると、とんでもない悲しみが襲ってきて…。鳥居はそれ以上のものを背負っていただろうし、元々人間の命の尊さについて考えなければいけないと思っていたのですが、改めて考えさせられました」

――今作ではなぜ役と自分を重ね合わせようと思ったのでしょうか?

「自分に子どもができたことは大いに関係していると思います。家族ができたことで、自分がもしいなくなったとしたらどうしようという考えがよぎりました。極論ですが、自分が死ぬのは構わないけれども、家族を悲しませるだけでなく、罪をかぶせてしまうので、それだけは許せないと感じました」

――妻夫木さんは映画「ローレライ」(2005年)で特攻隊員を演じていらっしゃいましたが、今回、戦争加害者である鳥居を演じていかがでしたか。

「非常に難しい話なんですが、自ら加害者になろうと思ってなったのではなく、義務感の中でやらざるを得ない状況だったので、『ローレライ』の特攻隊員とある意味似たような境遇なのかなと。1回目の手術の時、鳥居には教授の言うことは絶対なんだという思いがあったのでしょうが、鳥居は医師なので、手術の途中で実験手術だと気付いてしまった。それでも上の人の命令には従わざるを得ないという時代だったので…。それは特攻隊員と変わらない状況だったのかもしれません」

終戦ドラマで妻夫木聡が死刑判決を受けた医師を熱演! 妻役の蒼井優との共演に「久しぶりに会ってホッとした」

――数々の作品で共演してきた蒼井優さんが夫の死刑判決に異議を唱えて奔走する意志の強い妻・房子役ですが、これまでの関係があるからこそやりやすかった部分などがあれば教えてください。

「最初に蒼井さんに決まった時は本当にうれしかったですね。彼女とは細かく話さなくても通じ合えるので。他にもお互いにドラマの舞台である福岡出身ということもあって、作品に通ずる部分もすごく多かったんです。蒼井さんと一緒に戦えるというのは僕の中では安心材料となっていました。僕は彼女をすごく信じられるし、彼女も多分僕を信じてくれていると思うんです。俳優の仕事というのは初対面で信頼関係を築かなければいけないことが多いので、何も言わなくとも信じ合えていると確信できるのはすごい強み。特にこういう作品は2人が身を引き締めてやらなければいけないので。蒼井さんには絶対に諦めずに真っすぐ突き進んでくれるという安心感がありました」

――妻・房子を演じた蒼井さんの印象を教えてください。

「房子との面会シーンが最後の撮影になったんですが、会ってホッとする感覚がありました。ずっと牢獄の中や、判決に至るまでのシーンを撮影していたので、あまり蒼井さんと会う機会はなかったんですけれども、最後に蒼井さんと会えたのは、何かに導かれてこういう撮影順になったのかなと。ホッとしてはいけないんですけど、ホッとしました(笑)。僕にとって撮影中は彼女と家族が救いだったので」

――蒼井さんに会われてホッとしたとのことですが、ほかにも明るい気持ちや癒やしになった時間や場面はありましたか?

「鳥居には子どもが2人いるんですが、その子役の方たちとの撮影ですね。シーンにはなかったのですが、撮影の合間に子どもたちを抱きしめさせてもらったんです。その時は本当に幸せでしたね。子どもたちが『お父ちゃん』と呼んでくれるだけで泣きそうになりました」

終戦ドラマで妻夫木聡が死刑判決を受けた医師を熱演! 妻役の蒼井優との共演に「久しぶりに会ってホッとした」

――極限の状態での判断がこの作品の大きなテーマかと思いますが、妻夫木さんが鳥居と同じ状況に陥ったら、実験手術の現場で「止めましょう」と言えると思いますか?

「難しいですよね。言いたい気持ちはあるし言うべきだとは思っているんですけれども、果たして言う勇気が出るのか。僕たちは戦争を体験しているわけではないので、そういう状況下を本当に理解できるとは思えませんし…。殺されてもおかしくない時代だったし、その場で言う勇気はどうなんだろうな。鳥居のように後日教授に言いに行くことはあり得るかもしれないですけど…。今ここで答えは出ませんね」

――今の時代も「仕方ない」といって自分の中で諦めていることが社会生活の中でたくさんあると思うのですが、それについてどう思われますか?

「昔に比べたら今はとてもルールが多いと思うんです。それに縛られる中での仕方ないということは当然あるんだろうけれども、鳥居の『仕方ない』とは比較できないレベルです。一方で、今は主張する権利がある程度認められている時代だろうと考えます。思うところがあるならば主張するべきだと思っています」

――妻夫木さんご自身は割と主張をする方ですか?

「仕事に関しては割と主張する方ですね。それは自分の思いをぶつけるためではなく、作品を良くするため、みんなが考えていることを話し合う場を設けるためということが多いです。自分自身の考えを押し付けるということはまずないです。それはナンセンスだと思うので」

――撮影中は罪の意味に向き合う日々だったとのことですが、具体的にどう向き合われていたのでしょうか?

「罪というのは何だろうなとずっと考えていました。自分の犯したことが罪なんだけれども、罪の意識がなかったことに対しての罪もあるし…。鳥居の心境になって、自分は死ぬべきなんだろうかなどいろいろ考えましたが、やはり死にたくないという気持ちがどこかにあるんです。何が正しい答えなんだろうという葛藤を感じていましたね」

終戦ドラマで妻夫木聡が死刑判決を受けた医師を熱演! 妻役の蒼井優との共演に「久しぶりに会ってホッとした」

――獄中のシーンでは、元軍人の冬木克太を演じる永山絢斗さんと共演されましたが、印象に残っていることはありますか?

「(兄の)瑛太の話ばっかりしてました(笑)。声とかしぐさが似ていて兄弟なんだなと思う瞬間が多々あって、そういう話をよくしていましたね。今回はセリフでキャッチボールせずに、心でキャッチボールしている感じがありました。お互いがガッチリ握手せずになんとか手が届くぐらいの距離感でいたような気がします」

――改めてになりますが、「しかたなかったと言うてはいかんのです」というタイトルについてどう思われましたか?

「今は仕方ないで片付けてしまうことが多い世の中で、一人一人が意識を持って生きていかないと日本がどんどん後ろ向きになっていくんじゃないかという不安感があると思うんです。そういう部分も含めて、もう一度考えてもらえたらいいなというメッセージがあったりするのかなと思います」

――タイトルに込められている言葉に重みを感じたということでしょうか。

「そうですね。仕方ないで片付けると過去のことになってしまうので。鳥居にとって自ら犯した罪は、死ぬまでずっと目の前にある現在のことだったと思うんです。戦争はいけないことで、平和が何よりも大事。鳥居のような先人たちの思いを僕たちは引き継いでいかなければいけない。それがこのドラマに隠されたメッセージだと思います」

――ありがとうございました!

終戦ドラマで妻夫木聡が死刑判決を受けた医師を熱演! 妻役の蒼井優との共演に「久しぶりに会ってホッとした」
終戦ドラマで妻夫木聡が死刑判決を受けた医師を熱演! 妻役の蒼井優との共演に「久しぶりに会ってホッとした」

【番組情報】

終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」
8月13日
NHK総合 午後10:00~11:15

取材・文/K・H ヘア&メーク/勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリング/片貝俊



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